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部屋の四隅に積み上がるダンボールの意味とは? 新興住宅地に越してきた幸せそうな一家に降りかかる異変の影

  • 2026.1.3
写真はイメージです。提供:アフロ

小説化に漫画化、遂にはドラマ化まで果たした生配信サイト「TwitCasting」の人気怪談チャンネル「禍話(まがばなし)」。北九州の書店員でもある語り手・かぁなっきさんが2016年から語り続けてきた恐怖の実話怪談は、今や3000話を超える数に膨れ上がっています。

今回はそんな禍話から、初期に語られた作品でありながら、今なおファンの間で根強い人気を誇る“ダンボール”にまつわる奇妙なお話をご紹介します――。


誰もが憧れる新興住宅地の一軒家

写真はイメージです。写真:moonmoon/イメージマート

今から40年以上前のまだ日本が経済的に活力に満ちていた頃。日本中で山を切り崩した造成地に新興住宅を建てる建設ラッシュが起きました。

そこかしこが新しい白さで輝き、整然と延びる道路には植えたばかりの若木が風に揺れ、同じ形の屋根が並ぶ光景はまるで新しい未来が等間隔で置かれているよう。

Oさんはそんな新興住宅地のひとつで町内会長をやっていた60代の男性で、次々とやってくる新しい家族を毎回温かい笑顔で迎えていました。

Nさん一家もそのひとつでした。

30代くらいの精悍な顔つきのご主人と柔らかな笑顔の奥さん、そして幼稚園に入る前くらいに見える、それは可愛らしい女の子2人の4人家族。

白い外壁に真っ赤な屋根、アーチ状の70年代風の玄関デザイン。

そんな真新しい家に荷物を運び込む一家の第一印象は、新興住宅地のきらびやかなポスターに登場してもおかしくないようなご家族、というものだったそうです。

町内会長・Oさんが訪れた家には……

ピーンポーン。

「はぁーい」

「どうも。この辺りの町内会長をやっている○○と言います」

数日後、Oさんは挨拶も兼ねてNさん一家を訪ねました。

「あら、町内会長さんだって!」

「申し訳ないです! こちらからご挨拶に行こうと思っていたのに」

家から出てきた奥さんとご主人は相変わらず小綺麗な身なりで、Oさんを温かく自宅に招いてくれました。

「こだわったのは外装だけで、中は建て売りの和風の平屋ですから」そんな夫婦の謙遜とは裏腹に内装も美しかったそうです。

通されたソファに座り、いそいそと奥さんが持ってきてくれた紅茶をすするOさん。

写真はイメージです。写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

駆け回る子ども達のあとを追うように部屋の中を見回していると、壁の一角にある木製の大きな本棚に目が行きました。

『実践・露光コントロールの基礎学』
『フィルムマスターガイド:ISOと粒状性の研究』
『12星座の小さな魔法手帖』
『光の色で整えるオーラバランス』
『夢の中からのメッセージを受け取る方法』

「ご主人の趣味と奥さんの趣味がだいぶ違っていておもしろいですなぁ~」

「あはは。僕は子ども達を撮るために写真に手を出した感じですね。まあ結局、部屋ばっかり撮っちゃっているんですけど」

「部屋?」

「はは、ええ、部屋です。落ち着くんですよ、あそこは。まあ、僕より趣味に熱中しているのは妻ですね」

理解に苦しむ返答を繰り返す家族

「娘達の名前を考えるときに参考にしていたらハマっちゃいまして」

「私はあまり詳しくないのですが、良いものなのですか、こういうの?」

「ええ、良いものだと思いますよ。ほら、この辺は星がよく見えるじゃないですか。引っ越してきて夜空見たときなんか感動しちゃって」

「本当にこの辺りは綺麗ですよ。でも、僕が写真撮っていたら妻が、『写真なんかいいからちゃんと流れに乗らないといけないよ』ってうるさく言うんですよ~」

「はは……この辺りが気に入ってもらえてよかったですよ」

何気なく聞いた本の話題でしたが、返ってきたのは少々理解に苦しむ答えばかり。愛想の良さとは裏腹に、2人との会話は主語や内容、時系列が飛び飛びで妙に掴みづらかったのが気になりました。

とはいえ、溢れんばかりの新生活への期待で少々浮き足立っているのだと思えば、それも可愛らしく思えたそうです。

「じゃあ、諸々の町内会会費の徴収方法やご案内はこのプリントにまとめていますので、ご覧になってもらえれば」

写真はイメージです。提供:アフロ

「ありがとうございます」

「バイバイ!」

「はい、バイバイ! 2人とも挨拶ができてえらいねぇ」

玄関先で手を振る一家にお辞儀をして、Oさんは家を後にしました。

「最近娘さんの姿が1人しか見えないけど…」

それから2ヶ月後。

Oさんが日課の散歩中にご近所さんに声をかけられ、こんなことを言われたそうです。

「丘の上のNさんのご一家、最近娘さんの姿が1人しか見えないけど、会長何かご存知?」

曰く車で坂道を登る際に、いつもNさん一家の庭先とそこで遊ぶ娘さん2人が見えるのだそうですが、ここ数週間はずっと1人。加えて、一家が車で出かけるタイミングに遭遇した際に、お子さんが1人しかいなかったのも引っかかった、というのです。

体調が優れないだけなのでは、とOさんが諭してもご近所さんの熱は収まらず、結局、数日後にOさんがちょっとした手土産を渡すという口実でNさん宅の様子を見に行くことになりました。

「今日は、奥様はご不在で?」

「妻は少し外に出ていまして。娘も一緒です」

娘さんの片方を抱えながら出迎えてくれたご主人は、仕事で疲れているようではありましたがご近所さんが危惧しているような心配はなさそうでした。他愛もない会話をして帰ろうとした折、Oさんはお手洗いを借りることにしました。

「廊下の突き当たりにありますので」

年明けのひんやりとした廊下の空気。

ふと、途中にあった和室に目が行きました。襖が中途半端に開けられており、部屋の様子が視界に入ってしまったのです。

写真はイメージです。写真:Wakko/イメージマート

ガランとした家具のない和室。

その四隅に40cm四方くらいのダンボールが置かれているのが記憶に残ったそうです。

お手洗いから戻り、家を後にしたOさん。ご近所さんに『お元気そうでしたよ』と告げてその日は家に帰りました。

しかし、事態はOさんの予想を超えて進行していたのです。

「よかったらお茶でも飲んでいってくださいよ」

1週間後。

Oさんが日課の散歩ルートをあまり行かない丘の上あたりまで伸ばした日がありました。

「ああ、会長!」

ふと丘の上にあるNさん一家の前で、庭先にいたご主人に声をかけられたのです。

以前会った時より快活な調子に戻っていたご主人の声。

写真はイメージです。写真:travelclock/イメージマート

しかし、その服装は先週会った時と全く同じで、髪の毛は脂ぎった異様な姿でした。

「お散歩ですか? よかったらお茶でも飲んでいってくださいよ」

妙に明るいご主人のテンションと荒れた身なりで、数週間前にご近所さんが漏らした不信感を思い出したOさんは、誘いに乗って家の様子を見ることにしました。

玄関に小さな女の子の靴が2足あるのが目に入り、Oさんは少し安堵したそうですが、リビングで慣れない様子でご主人が淹れた紅茶のカップを目にした時、そんな気持ちは消え去りました。

明らかに洗っていないカップでした。そればかりか、部屋の中もよく見るとゴミが散乱し、手入れがされていないのです。

「それでなんとかなったんですよ、仕事の方も」

「……ん、なんですか?」

突然話しかけてきたご主人の言葉はいつにも増して支離滅裂でした。しかし、話を聞いて浮かび上がってきたその内容の方が、はるかに心をざわつかせました。

「いや、だから僕が仕事をクビになりかけて参ったところ彼女に出会ったという話ですよ! で、彼女のお言葉に僕ら一家は大変救われまして……。それを、ここ最近は自分たちの身の丈に合わせてカスタマイズしているんです」

どうやら、ご主人が仕事を突然クビになって参っていたところ、妻の趣味から知り合ったとある人物に救われたというのです。

文=むくろ幽介

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