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夢か現実か……小さな子どもが迷い込んでしまった“歪んだ時間”。こたつから出てきた人影の正体とは

  • 2026.1.1
写真はイメージです。写真:CavanImages/イメージマート

北九州で書店員として働くかぁなっきさんの軽妙な語り口が魅力の「禍話(まがばなし)」。2016年から生配信サイト「TwitCasting」上で放送されてきたこの怪談語りチャンネルは、日常と非日常の境界がじわりと揺らぐような珠玉の怪談が揃っていると、多くのホラー作家たちがファンを公言しています。

そんな禍話から今回は、とある少年が訪れた親戚の屋敷で経験した、夢と現実が混ざったかのような不可思議な体験談をご紹介します――。


襖を開けるとそこには……

写真はイメージです。提供:アフロ

そのこたつには、Yさんに背を向けるように一人の男が座っていました。

「あっ、ごめんなさい……」

さっきまで聞こえていた話し声と両親に会いたかった気持ちはすっかり消え去り、代わりにYさんの心の中にあったのは“この戸は開けない方が良かった”という後悔の念だけでした。

しかし、男はYさんの声を受けても返事を返しません。そればかりか、突然背を向けたまま体を前後にグッ……グッ……と揺らし始めたのです。

まるで誰かに肩を揺さぶられているかのように、一定のリズムで力なく揺れ続ける男の背中と首。

「さんじゅうはち……」

小さなつぶやき声が、かすかにYさんの耳に聞こえてきました。

「ああ、くるしかったぁ~」

「……さんじゅうきゅう、よんじゅう、よんじゅういち、よんじゅうに、よんじゅうさん」

ふらふらと揺れる体に合わせて、男がブツブツと数を数えていたのです。

そして、こたつの一片が突然もこもこと膨らんだかと思うと――。

ずるり……と人が出てきたのです。

「ああ、くるしかったぁ~」

その顔がYさんの方を向きました。

「わっ、わあぁーーーーー!!」

Yさんは大きな叫び声を上げて後ずさると、出っ張っていた敷居にかかとが引っかかってドタン! と音を立てて尻餅をついてしまいました。

物音を聞きつけ、廊下の向こうの座敷からドタドタとやってくる大人たち。その中には心配そうな両親の顔もありました。

写真はイメージです。写真:makoto.h/イメージマート

「どうしたの!? 大きな声出して……」

Yさんは母に抱きつくと、部屋の中を指差して言いました。

「ひ、人が。知らない人がいた!」

「……人?」

素っ頓狂な母の声。Yさんが視線を部屋に向けると、中には誰もいませんでした。

「お手伝いさんならみんな今は台所で食いもん作っとるすけ、こんなとこ来るわけねぇろ」

「子ども連れて来っけ、こうなるんだわ……」

「隠れるとこなんてねぇすけ。夢でも見とったんだろっかね」

そう口々に漏らす親戚たち。

Yさんは自分が見ているものが信じられず、母の腕からするりと体を引き抜くと部屋の中に再び足を踏み入れました。

「きっと怖い夢でも見ちゃったんだよ」

小さな窓から差し込む昼過ぎの陽光。冬の冷たい空気の中をチラチラと舞う埃。うっすらと砂埃が積もったダンボール箱。

そこはただの物置で、こたつなどどこにもなかったのです。

Yさんの母に小言を言いながら座敷に戻っていく一同と、彼らに頭を下げる父。母はゆっくりと近づいてからYさんの肩を抱いて言いました。

「きっと怖い夢でも見ちゃったんだよ。もうすぐ終わるから安心してね」

確かにさっきまでこたつがあって、自分に背を向けた男が座っていて、体をぐらぐらと揺らしながら数を数えていて……それから、人が、出てきて、僕の方を……――記憶の違和感に気がついたのはこの瞬間でした。

写真はイメージです。写真:Wakko/イメージマート

こたつのバランスがおかしかったのです。

どう考えてもこたつが大きかった気がしたのです。いや、もしかすると座っていたあの男がすごく小さかったのかもしれません。とにかく何かがズレて、歪んでいるような光景しか浮かんでこないのです。

それに、あのときずるり……とこちらを振り向いた人影の顔が、全く思い出せませんでした。

『ああ、くるしかったぁ~』

確かに聞いたその声。それも今や男なのか女なのか、はたまた大人なのか子どもなのかわかりません。

その日は家族で泊まることになり…

「やっぱ子ども一人で置いとくん、良くなかったんかねぇ。面倒だけ増えるすけ……」

黒い着物のおばさんはそうため息をつくや若いお手伝いさんをひとり呼び、Yさんの面倒を見るように言いつけました。

当初は子ども部屋に戻ろうと勧められましたが、Yさんが頑なに「あそこは怖いから嫌です!」と突っぱねたことで、仕方なく玄関付近でトランプなどをして時間を潰すことになりました。

あっという間に時間は過ぎ、例の大人たちの話し合いもひと段落がついた様子で、そのまま大きな宴会が開かれたそうです。

宴会がお開きとなり、車で帰る親族たちに倣って外に出ようとすると着物のおばさんに呼び止められました。

写真はイメージです。提供:アフロ

「遠出なんだろし、一晩そのまんま泊まってきなせや」

そう提案を受け、Yさん一家は翌日帰ることになったのです。

さっきまで恐怖に怯えていたYさんでしたが、家族3人で布団に入る頃にはあの恐ろしい感覚も忘れかけていました。

「しかしなぁ……まとまったとはいえあれはなぁ」

「仕方がないわよ。私たちだって強く言える立場にないし」

寝支度をしながら、両親がそうため息交じりに漏らしたのが記憶に残っているそうです。

目が覚めるとそこは……

写真はイメージです。提供:アフロ

全身がじんわりと芯から温められるような熱気に、Yさんは目を覚ましました。

触らなくても胸元や首筋が汗でじっとりと重くなっているのがわかりました。

目を開けても辺りは真っ暗で、まだ夜は明けていないようです。

というよりも、周囲には光が全くありませんでした。

意識がはっきりしてきて周囲の解像度が高まるにつれて、体の周りに嫌な閉塞感を感じたのです。

布団を頭まで被って寝てしまったのだと思いました。しかし、すぐに何かがおかしいことに気がつきました。

妙に奥行きを感じるのです。

暗闇の中で探るように手を伸ばすと、指先に何か柔らかい物が当たる感触がありました。

「さんじゅうはち……」

小さなつぶやき声が、かすかにYさんの耳に聞こえてきました。

「……さんじゅうきゅう、よんじゅう、よんじゅういち、よんじゅうに、よんじゅうさん」

心臓の鼓動が恐怖で早まり、息苦しさに拍車がかかるのがわかりました。

布の向こうから聞こえてくる声。

なぜ“そこ”で寝ていたのか?

Yさんはこたつの中にいたのです。

絶叫したくても声が出なかったYさんが息を止めながらバタバタもがくと、重い布団がようやく押し上げられ、冷たい外気と光がワッと押し寄せてきました。

「ああ、くるしかったぁ~」

こたつから這い出したYさんが顔をパッと横に向けると、部屋の戸口に恐怖に顔を歪めるYさんが立っていました。

彼は「わっ、わあぁーーーーー!!」と大きな声を上げ、ドシンと尻餅をつきました。

その瞬間、こたつから顔を出していたYさんの意識はぷつりと途切れました。

写真はイメージです。提供:アフロ

「どうしたの!? おっきい声出して……」

気がつくとYさんは大勢の親族たち、そして両親に囲まれていました。

抱きかかえられながら起き上がると、そこは物置の中でした。

なぜ、自分が物置の中で寝ていたのか。大人たちに何度問い詰められてもYさんはうまく事態を説明できず、物置で遊んでいるうちに変な夢でも見たのだろう、ということで片付けられてしまいました。

その日の話し合いは夕方ごろには終わり、Yさん一家は食事をした後屋敷には泊まらずに、車で帰路に着いたそうです。

その日以来、Yさんはあの屋敷や親戚には二度と顔を見せていません。

あの日のことや親族のことをYさんが両親に聞こうとすると、2人は露骨に嫌な顔をして黙ってしまうそうです。

文=むくろ幽介

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