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幼少期の年始、家族に連れられて訪れた親戚の屋敷――ひとつの“こたつ”が呼ぶ狂気の時間

  • 2026.1.1
写真はイメージです。写真:c11yg/イメージマート

2016年から続く「TwitCasting」の怪談チャンネル「禍話(まがばなし)」。番組で語られる恐ろしい怪談の数々もさることながら、語り手であるかぁなっきさんの飾らない話しぶりや、リスナーが語られた話を自由にリライトして楽しむ文化を生み出した、他にはない共創型の怪談コンテンツであることにも注目が集まっています。

今回はそんな禍話から、「こたつ」が怖くなってしまったある男の子の可思議で不気味な体験談をご紹介します――。


年末年始になると思い出す……

写真はイメージです。写真:travelclock/イメージマート

年末年始の帰省シーズン。多くの人は1年の疲れを癒せる休みに大いに心を躍らせるものでしょうが、Yさんにとっては違います。

この季節になるとどうしてもあの出来事、正確に言うとあの「こたつ」のことを思い出して、どうにも不安な気持ちになってしまうのだそうです。

◆◆◆

Yさんが小学校1年生くらいの頃。

正確には思い出せないそうですが、年始の寒い冬の日に家族で親戚の大きな屋敷に車で数時間かけて行ったことがありました。

父は「遠くへのドライブだから楽しいぞ」なんて言っていましたが、実際来てみると、どこかしこも枯れた木々や茶色い山ばかりで、楽しくなんかありませんでした。

窓の外を見るのにも飽きたYさんは持ってきたお気に入りの怪獣フィギュア取り出し、妄想の中で大バトルを繰り広げることに夢中になっていたそうです。

想像の街をあらかた破壊し、巨大ロボが怪獣をド派手に討ち取っても、車はまだガタガタと同じリズムを繰り返しているばかり。

「ねぇ~、まだつかないの~」

「もうちょっとだから座ってなさい」

「でも、もう飽き――」

「座っていなさいって言ったでしょ。もうすぐ着くから」

いつもは優しい母が、なんだか見たこともないくらいピリピリしていたことが心を締め付けたそうです。

「子どもに聞かせるようなもんじゃねっかね」

それから一眠りした後、眠い目をこすりながら顔を上げると、車はいつの間にか目的地である大きな焦げ茶色の屋敷に、ゆっくりと速度を落としながら近づいていました。

「着いたの?」

「ああ、着いたぞ」

「降りたらママから離れないで、親戚の人にもちゃんと挨拶するのよ」

「……うん」

もはや意識できないほど鳴り続けていた車のエンジンが切られると、辺りには自分たちの足音しかしないことに気がつきました。

大きな玄関扉を開けて中に入ると、どこもかしこも黒々、ツルツルとした木でできていたそうです。

Yさんは物珍しさに辺りをペタペタ触っていると、母にクイっと引っ張られ、相手が誰かもわからないままお辞儀をさせられました。

写真はイメージです。写真:kimtoru/イメージマート

「遅くなりました」

「そりゃいいけども、あんたら子どもなんか連れてきて、なにすんだね……」

黒い着物を着た親戚のおばさんが困惑と苛立ちの表情でYさんを見下ろしていました。

「預ける場所がなくて」

「子どもに聞かせるようなもんじゃねっかね……ま、いいて。どーせ子ども預ける親戚も、たいしておらんがだろ。はぁ、変な影響、出んといいんだけどねぇ」

子どもながらに、なにか自分のせいで文句を言われていることはわかりました。手を強く握りしめると母は自分をパッと見下ろし、優しさと気だるさが混じったような表情を見せました。

「子どもは中さ連れてけねぇんだから」

すでに到着していたと思われる他の親戚たちは、屋敷の奥の大きな座敷に集まっている様子でした。

冷たい廊下を案内されていると、ガヤガヤと声が聞こえる襖の少し手前で、先導していた黒い着物のおばさんが不意に立ち止まりました。

「あの……?」

「『あの?』じゃねぇでしょ。子どもは中さ連れてけねぇんだから」

戸惑う両親にとわざとらしいため息をついたおばさんは両親の間を割くように手を伸ばし、廊下の途中にあった小さな和室の引き戸を開けました。

「この子はこの部屋さ置いてきなさい。子ども向けの本も、まだなんぼか残ってたはずだて。暖房もあるすけ」

写真はイメージです。写真:Wakko/イメージマート

追い立てられるように押し込まれたその部屋は、古びた茶色いエアコンと押入れ、あとは小さな折りたたみの机があるだけの4.5畳ほどの小さな和室でした。

父が気を利かせて押入れから布団を出して敷いてくれていると、母はエアコンの暖房を点けながらYさんの前にしゃがみ込んでこう言いました。

「ねえ、お母さんとお父さんちょっと親戚の人たちと長いお話合いしなくちゃならないの。だからここで大人しくしていてくれる?」

「……うん」

頭を撫でてくる母と、その後ろで眉間にしわを寄せている親戚のおばさん。

「じゃあ、すぐ戻るからな」

最後に部屋を出た父が笑顔で白い引き戸を閉めると、物音がすっとシャットアウトされたように静かになり、暖房の音だけが部屋に響きました。

本を2冊読み終えたころ……

写真はイメージです。写真:yuny0067/イメージマート

それから、どれくらいの時間が経ったのでしょう。その和室には壁掛け時計がありましたが、電池が切れているのか針は14時20分辺りで止まったままでした。

Yさんは新たな妄想の街の中でまた怪獣を大暴れさせることにしたそうですが、それも長くは続きませんでした。すぐに布団の上に倒された怪獣を放置すると、代わりに着物のおばさんが言っていた数冊の古いなぞなぞ本に手を伸ばしました。

「本をこんな風にしちゃダメなのに……」

シミや破れのあるハードカバーの表紙に座りを悪くしたYさんでしたが、読み始めるとあっという間に夢中になり、気がつけば1時間ほど読みふけっていたそうです。

2冊目を読み終えた辺りで寝転がったままパタリと本を閉じました。

あの大きな部屋には親戚の人がたくさんいるみたいだけど、僕と同じような小学生はいないのかな。そういえば、この屋敷に来てから僕以外の子どもは見かけなかった……じゃあ、この本は誰の物なんだ。結構古い本みたいだけど――そんなことを天井から吊り下げられているランプを見つめながら考えたYさん。

なんだか、急に心細さを感じたそうです。

隣の部屋から聞こえてきたのは

もしかして、この部屋は子ども部屋だったのかな……ふと、想像の中で顔のぼやけた子どもが自分を見ているような気がして寒気がしました。

お母さんとお父さんに会いたい。一目でいいから2人を見て安心したい――Yさんは手にしていた本を放ると立ち上がり、そっと引き戸を開けて外に出たのです。

部屋の敷居をまたいで廊下に出ると、外はすっかり夕暮れ時になっており、冷たいプールの中に入ったように全身を冷気が包みました。

写真はイメージです。写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

ガヤガヤガヤ。

その瞬間、不思議なことに隣の部屋から大勢の大人たちの話し声が聞こえたのです。

「え?」

大人たちがいるのはもう少し先だったはず。自分がいた部屋の真隣の部屋はそんな大勢が入れるほど大きいのか。なにより、なぜ今まで声がしなかったのか。

大人の今ならいくらでもそんな疑問が頭をもたげ、あんなことはしなかったでしょう。

しかし、当時のYさんではそんな論理立てた疑問など抱きようもなく「お母さんとお父さんがそこにいる」という一心でその部屋の襖を開けてしまったのです。

部屋の中には“こたつ”がひとつ、ぽつんと置いてありました。

文=むくろ幽介

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