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人気のない山中の神社……神の家に巣食っていた神ならざるモノがもたらす戦慄の初詣

  • 2025.12.31
写真はイメージです。写真:mamushi/イメージマート

小説化、コミック化、ドラマ化とその活躍の場を広げている怪談ネットラジオ「禍話(まばがなし)」。2016年から毎週土曜日の深夜に生配信サービス「TwitCasting」で放送されているこの番組で語られるハイクオリティな実話怪談は、舌が肥えたホラーファンたちからも高い評価を得てきました。

そんな禍話から今回は、深夜ドライブの果てにたどり着いた神社で初詣をしようとした若者たちが体験した恐怖をご紹介します――。


新年の活気がまるでない神社

写真はイメージです。提供:アフロ

車中の盛り上がりが嘘のように一同の口数は少なくなり、今や石階段を上る音だけが辺りに漂っていました。

木々の間に張られたコードと辺りをオレンジ色に包む電球の明かり。出店から香るたこ焼きや甘酒の入り混じった心踊る匂い。そして、新たな新年への期待を胸に身を寄せ合う人々の気配……。

Oさんが実家暮らしのときに毎年家族で訪れていた大きな神社にはそうした活気がありました。しかし、今いるこの神社には微塵もありません。

ザリッ……。

寒さと気疲れで妙に体が重くなっていたそうですが、Oさんたち一行はようやく石階段を登り終えて、神社の境内にたどり着きました。

暗い神社で手を合わせる二人の姿

「着いたぁ~……ちょっと休憩しよう」

「確かに疲れたな……酒飲んでいたのもあるし」

「あんなに飲むから……」

写真はイメージです。提供:アフロ

石階段の一番上に座り込む2人にいつもの調子で小言を言うTさんを横目に、Oさんは視線を神社の奥に向けました。

ほのかな月明かりの下に階段から続くまっすぐと伸びた石畳が見えました。そして、その脇の石灯籠を2つほど越えた奥に、古びた神社の本殿がありました。

「ん?」

その本殿の屋根の下。閉ざされた格子戸とくたびれた本坪鈴(ほんつぼすず)の前に、1組の人影が見えたのです。

一瞬何者かとドキリとしましたが、よく見ると賽銭箱の前に立っていたのはOさんたちと同年代と思しきカップルのようでした。

彼らは背を丸めて頭をわずかに下げ、その肘も上がっていたので、どうやら手を合わせている最中と見えました。

「じゃあ、そろそろお参りしますか」

Oさんは声をひそめながら、後ろで立ち上がったTさんたちに先客がいることを告げました。

「なんだよ、意外に人いるんだな」

「ちょっと安心したね」

彼らが終わったらお参りに行こう――皆そう考え、その場でしばらく待っていました。

しかし、これがいつまで経っても終わらないのです。

「……あれ、何拝んでんのかな」

写真はイメージです。提供:アフロ

体感では5分くらいは経っていたでしょうか。普通、神社へのお参りなど数十秒、長くても1分程度で終わるはずです。

「……長いね」

「何してんかなぁ」

「さすがに寒いんだが……」

口々に小声で不満が漏れ始める中で1人、相手に聞こえてしまうほどのわざとらしい声色を上げたのはKさんでした。

「つーかさぁ、えっとぉー、『始終ご縁』でだから、45円入れるのがいいんだっけかぁ~? あ、なるほどねぇ~」

ギョッとしましたが、目が合った彼がいたずらっぽく笑ったことで、すぐに自分たちの存在をあのカップルにそれとなく伝えるためだとわかりました。

静かな境内に響き渡ったKさんの声。間違いなくその声はカップルにも届いていたはずです。

けれど、それでもカップルは手を合わせたまま微動だにしないのです。

「……あれ、何拝んでんのかな」

「知るかよ。ダメだ、ちょっと寒すぎるから俺言ってくるよ」

「おいおいおい!」

「大丈夫だって、別に事は荒立てないから」

そう言うと、Kさんは手を合わせるカップルの元に足早に歩いていってしまいました。

Kさんが耳にしたカップルが拝んでいた内容とは……

側まで近づくや、おもむろに上着のポケットから財布を出して、小銭をジャラジャラと鳴らしてアピールを仕掛けるKさん。

イラついている様子のKさんに一行が苦笑していると、彼の動きがぴたりと止まり、おずおずと身を縮めながら、カップルの顔を覗き込むように歩き出したのです。

「アイツどうしたん──」

Oさんがそう言い終わらないうちに、顔面蒼白のKさんがこちらに全力で駆けてきました。

「逃げろ!」

そう叫び、一行を置いて石階段を駆け下りていってしまったのです。

「おい! なんだよ、どうしたんだよ!?」

「ねえ、どこ行くの!!」

慌てて彼の後追いかけるOさんたち。一瞬、本殿の方にちらりと目をやりましたが、あのカップルはいまだに手を合わせていたそうです。

写真はイメージです。写真:travelclock/イメージマート

車のところまで降りてきてようやく止まったKさん。全員、息も絶え絶えの中、Tさんが改めて「何があったんだよ!!」と声を荒げました。

すると、Kさんは振り絞るような声でこう語り出したのです。

カップルに近づいた時、Kさんは彼らがわずかに聞き取れるかという小声でブツブツと何かを言っていることに気が付いたのだとか。

そっと顔を覗くように近づいてようやく聞こえてきたその声は、こんな内容を連呼していたそうです。

カップルが繰り返し唱えていたのは……

『このたびは本当にご愁傷様です。このようなことになるとは思わず、心よりお悔やみを申し上げます。大変残念なことになってしまって。心苦しい限りでございます。わたくしたちも心を痛めております。ご愁傷様でした。このたびは本当にご愁傷様で──』

その瞬間、本殿の木の格子戸がかすかに「キィ」と音を立てて開きました。

Kさんがハッと目をやると、4本の白くて異様に長い指が内側から格子戸を掴んで押し開けようとしているのが見えたのだそうです。

その話を聞いた一同は、大慌てて車を走らせてOさんのアパートに戻ったそうです。

写真はイメージです。写真:Wakko/イメージマート

後日、Oさんたちが実話怪談を聞いたというテイで大学の教授にこの話をしたところ、興味深い話を聞かされました。

それは、放置された空き家に人が住み着くように、信仰されず、打ち捨てられた神社からは神様が引っ越してしまい、代わりに別の者が住み着くことがあるということ。

以降、誰が言うでもなく、この話をOさんたちが口にすることはなくなりました。

しかし、背けたOさんたちの顔を掴んで戻すように、その日以来、一行に次々と不幸が降りかかったのです。

転んで骨折や怪我をするのは当たり前。交通事故や家でボヤが起きるといった、一歩間違えれば命に関わる出来事もありました。

『このたびは本当にご愁傷様です。このようなことになるとは思わず、心よりお悔やみを申し上げます』

あのときカップルが言っていたことは、これらの不幸を言っていたのでしょうか。それとも、この先に待ち受けるもっと悲惨な不幸を見越してのことなのでしょうか。

文=むくろ幽介

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