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山中の神社で起きた怪……大晦日にドライブに出かけた大学生たちが見たものとは

  • 2025.12.31
写真はイメージです。写真:sin999/イメージマート

北九州に住む書店員である語り手のかぁなっきさんと、聞き手であり映画ライターの加藤よしきさんのコンビが、独自に収集した実話怪談を紹介するチャンネル「禍話(まがばなし)」。生配信サービス「TwitCasting」で2016年から放送がスタートしたこの番組は、漫画やドラマ化されるなど、今、ホラーファンから熱狂的な支持を得ています。

今回はそんな禍話から、お正月の初詣にまつわる、奇怪で空恐ろしいお話をご紹介します――。


忘れられない大晦日

写真はイメージです。写真:moonmoon/イメージマート

1990年代の年末。スマホはおろか、携帯電話ですらあまり浸透していなかった時代のお話です。

当時大学2年生だったOさんは、お酒も飲めるようになって初めてとなる“大学生活で迎える年越し”に浮かれていました。窮屈に感じていた実家暮らしとは別れを告げ、学生寮ではありましたがついに自由な環境で年越しを迎えられる、そんな高揚感があったのです。

おっかなびっくり入った写真部のメンバーとはすぐに仲良くなり、生活資金のためと貯めていたバイト代のほとんども、安い一眼レフカメラの購入資金に消えていました。

そして来たる大晦日。

誰が言い出すでもなくOさんの家に集まったのは、サークル仲間の間でもとりわけ仲の良かったTさんとKさん、そしてKさんの彼女であるMさんの3人。

外で粉雪がちらつく中、小さなコタツに身を寄せて缶ビールを開けながら、これまた小さなテレビデオで紅白を垂れ流していると、軽やかなシンセサウンドのウィンターソングの間奏にTさんがこう切り出しました。

「なあ、どうせヒマだし、ドライブでも行かないか」

大晦日のドライブへ

写真はイメージです。提供:アフロ

「おお、いいねぇ~。車出してくれんの」

「おう、出す、出す。俺そんな飲んでないしいけるよ」

「ねぇ~、危ないってぇ~」

「そうだぞぉ~、大晦日に事故ったら間抜けだぞぉ~」

缶ビールを片手にくねくねと左右に揺れながら茶化すカップル。その肩を押し戻しながらTさんは言いました。

「少なくともこいつらには絶対運転させないから安心してくれ」

「えぇ~、ほんとに行くのぉ~? ドライブゥ~」

ぬるくなった缶ビールの残りをコクリと飲んで愚痴るMさん。

「年越し蕎麦も食わずにここでダベりながら年明かすのもなんか違うだろ」

「お、確かに年越し蕎麦は食いたいなぁ~」

ムードメーカーのKさんがにわかに乗り気になり始めたことで、徐々に突発ドライブ実現の空気が高まり、「寒いからいやだぁ」と駄々をこねるMさんをよそに、皆そろそろと上着を探し始めました。

バタン。

キンと冷えきった車に乗り込むと、おもむろにTさんがエンジンをかけてアイドリングを始めました。

「ドライブってどこ行くの?」

ハァ……白い息をこぼし、両手をこすっているMさん。

「どこでもいいよ。海とか?」

「これもう年越しちゃったんじゃない?」

「冬の海とか死ぬほど寒いだろ」

「でもさ、夜の国道ってガラガラだし、ちょっとスピード出したら気持ちいいんじゃない?」

「またそれかよ。俺の車、親父のカローラだって何回も言ってるだろ。そんなスピード出したらガタガタ言って、年越し前に死んじまうっての」

「まあ、どこでもいいやぁ~。どっかであったかい年越し蕎麦が食えれば俺はなんでもいいぜ~」

後部座席であくびをするKさん。

「とりあえず適当に国道走ればどっかに蕎麦屋あるだろ」

助手席のOさんの一言で車はようやく動き始めました。

付けっ放しにしていたカーラジオから流れる、人気女性歌手のバラード。

その歌詞を口元で諳んじながら、車は夜の闇に消えていったのです。

写真はイメージです。写真:gimayuzuru/イメージマート

深夜の国道は本当に空いていて、街外れに出るころには対向車すらほとんど見かけなくなっていました。

「ウチの親なんかもう寝てるだろうな。紅白終わったらすぐ寝るんだぜ」

「アタシのおばあちゃんは除夜の鐘行くって言ってたなぁ。寒いのに元気だよねぇ」

「飲んだくれのお前より全然長生きしそうだよなぁ~」

「ひどぉ~!」

会話は弾み、車内には笑いが溢れました。

ふと、後部座席のMさんが運転席の方に顔を出しながら、メーター横の時計を見て言いました。

「ねぇ~。これもう年越しちゃったんじゃない?」

「え! マジで!?」

「山のふもとに神社あったよな?」

全員が慌てて時計を見ると、確かに夜中の0時を5分ほど過ぎていました。

「おーい、年越し蕎麦食い損ねたじゃねぇか」

「で、これからどうする? なんかお正月らしいことしたいよね」

「ねえ、初詣は?」

「初詣、いいじゃん」

「そういやKん家の方、山のふもとに神社あったよな?」

「あぁ、あるある。石の階段が長ぇとこ」

「じゃあ、そこ行こうよ。田舎の神社とか雰囲気あるんじゃない」

「まあ、あてもなく走るより正月気分味わえるだろ」

そうして一行は、Kさんの地元にあるという小さな神社に向かうことになったのです。

写真はイメージです。提供:アフロ

「そうそう、あれだ、あれだ」

見つけた入り口は生い茂る木の陰に隠れており、夜の田舎道の闇に溶け込んでいました。ヘッドライトで照らしながら近づくと、小さな小山の入り口にひっそりと灰色の鳥居、そしてそこから山頂に続く石階段があるのがわかったそうです。

車を鳥居のそばに停めてエンジンを切って外に出ると、全身をキンと冷えた空気が包みました。

「予感はしていたけど、改めて正月を祝うような神社じゃないだろ、ここ」

「みんな分かってて言わないようにしてんの」

古い石階段を見上げると……

車に積んでいた小さな懐中電灯を点け、遅い足取りで石階段に近づいていく一行。

石階段の脇には、雨風にさらされボロボロになったままで放置されている、板張りの古びた家が一棟建っていました。

「こういう家ってさ、誰も住んでないのになんで解体しないんだろうなぁ」

「壊すのも高いし、壊しちゃったら壊しちゃったで、税金が高くなるからそのままにしているらしいよ」

写真はイメージです。写真:travelclock/イメージマート

「よく知ってんな」

「ばあちゃんの家がボロボロでさ、少し前に引っ越したんだけど、前の家をそういう理由でそのままにしてるんだよ」

「へー。でも、こういう家放置していると誰かが勝手に住んでそうで怖いよなぁ~」

「やめてよっ! もう、初詣なのに肝試しみたいな気がしてきた! というか、神社までの階段めっちゃあるじゃん……」

一瞬、Oさんは弱音を吐くMさんを励まそうと思ったそうですが、かすかな月明かりと懐中電灯の明かりだけが照らす石階段を見上げると、確かに遠目から見た以上に上へ上へと誘っているような、少し気味の悪い感覚に陥ったそうです。

文=むくろ幽介

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