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物語とシンクロし映画への理解がさらに深まる――『国宝』『KPOPガールズ!』『チェンソーマン』など2025年の映画を彩った主題歌の数々

  • 2025.12.31

『国宝』(公開中)が邦画実写歴代1位の興行収入となり、22年ぶりに記録を更新した2025年。『8番出口』(25)、『秒速5センチメートル』(25)など話題作が続いたほか、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(公開中)をはじめ、『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』(25)や劇場版『チェンソーマン レゼ篇』(公開中)など、アニメ映画も数多くヒット。それに伴って主題歌にも注目が集まり音楽シーンを賑わせた。そこで本稿では、ヒットチャートを彩った映画主題歌と共に2025年の公開作を振り返っていく。

【写真を見る】悪魔の心臓を持つ“チェンソーマン”となったデンジの戦いを描く劇場版『チェンソーマン レゼ篇』

米津玄師がチャートを席巻した2025年

これまでも、『シン・ウルトラマン』(22)の「M八七」、『君たちはどう生きるか』(23)の「地球儀」、『ラストマイル』(24)の「がらくた」など、多くの映画主題歌を担当し、「話題作に米津あり」と言わしめる米津玄師。1月に劇場先行で上映された『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』(25)の主題歌「Plazma」でロケットスタートを切った。

そして、9月に公開された劇場版『チェンソーマン レゼ篇』では「IRIS OUT」と「JANE DOE」を、10月公開の『秒速5センチメートル』では「1991」をそれぞれ手掛けている。どこかコミカルさも感じさせるアッパーなスウィングナンバー「IRIS OUT」は“踊ってみた”の流行も手伝い2025年ではトップクラスのヒットに。宇多田ヒカルとのコラボで注目を集めたジャジーなバラード「JANE DOE」、新海誠監督が作品に込めた思いを汲み取ったエレクトロナンバー「1991」という作風の異なる3曲は、米津玄師の懐の深さが発揮される形となり音楽チャートのトップ3を独占する快挙を成し遂げた。

ミセス&椎名林檎が注目作をさらにブースト

また上半期で印象的だったのは、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴とtimeleszの菊池風磨のW主演で話題を集めた『#真相をお話しします』(25)。同作ではMrs. GREEN APPLEが主題歌「天国」も担当しているが、彼らは11月にライブフィルムとドキュメンタリーの2本の映画が同時公開。ライブフィルムが日本人アーティスト史上初のIMAX上映を果たすなど映画づいた1年になった。また、原作がWeb小説サイトで投稿されるやたちまち議論が巻き起こり、映画もモキュメンタリーホラーとして反響を呼んだ『近畿地方のある場所について』(25)では、椎名林檎が主題歌「白日のもと」を担当。ゴリゴリのロックで映画にさらなる深みを与えている。

そして、Netflixで6月から配信されたミュージカルアニメーション映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』(25)が、世界的ヒットを果たしたことは特筆すべきだろう。K-POPグループがアイドル活動の傍ら妖怪退治をするストーリーで、劇中に登場するガールズグループ、ハントリックスが歌う「Golden」が、アメリカのビルボードで6週連続1位を記録。さらにグラミー賞にもノミネートされており、K-POPグループとしては初めてソング・オブ・ザ・イヤー部門にノミネートされる快挙を達成している。さらに、ハントリックスのライバルとなるボーイズグループ、サジャボーイズも人気を集め、それらの楽曲を集めたサウンドトラックもアルバムチャートで1位を獲得し、作品全体の音楽自体が評価される形となった。

この『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』は、Netflixで91日間の再生回数が3億2500万回を突破、さらに第83回ゴールデン・グローブ賞ではアニメ映画賞、主題歌賞、興行成績賞にノミネートされている。音楽面以外でも、テーマ性のある物語、ソニー・ピクチャーズ アニメーションが手掛けるハイクオリティの映像などが多くの層に刺さったようだ。

センセーショナルな映画に欠かせない存在、King Gnu

映画において今年の顔となった『国宝』は、サウンドトラックを担当する原摩利彦が作曲、坂本美雨が作詞に参加し、King Gnuの井口理がボーカルを務めた「Luminance」が映画と共に人気を博した。映画のシーンを使用したMVもYouTubeで950万回を超える再生数を記録。歌舞伎という深淵な世界を、神秘的なサウンドと美しいハイトーンボーカルで表現した同曲。映画音楽やポップスという垣根を越えた芸術性の高さに賞賛の声が上がった。

King Gnuは、劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』の主題歌「TWILIGHT!!!」も担当している。多数の登場人物と事件が一つに結ばれていく伏線回収、ミステリアスさとその裏にあるせつない想いが見事に表現され、「コナン」ファンを大いに沸かせた。また『劇場版 呪術廻戦 「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』では、テレビアニメ第2期オープニングテーマ「SPECIALZ」が劇中歌として再登場。King Gnuは『劇場版 呪術廻戦 0』(21)でも主題歌「一途」とエンディングテーマ「逆夢」を手掛けており、彼らの音楽は「呪術廻戦」にとって重要な要素の一つ。今作も、苛烈な戦いの果てに待ち受けるさらなる戦いの日々を予感させるものだった。

また、日本映画として史上初の全世界興行収入1000億円を突破した『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』では、テレビシリーズ「遊郭編」のオープニングテーマ「残響散歌」を歌ったAimerによる「太陽が昇らない世界」と、「鬼滅の刃」ブームの火付けとなった映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌「炎」で第62回日本レコード大賞を受賞したLiSAによる「残酷な夜に輝け」という2つの主題歌が人気に。「残酷な夜に輝け」は、「魔法少女まどか☆マギカ」や「ソードアート・オンライン」で知られる梶浦由記が作詞、作曲、編曲を手掛けており、LiSA×梶浦のタッグとしては、いずれも「鬼滅の刃」シリーズの主題歌である「炎」、「明け星」、「from the edge」がヒットしている。LiSAの歌の表現力と梶浦による圧倒的なドラマ性を持った楽曲は、シリーズには欠かせない存在。楽曲を聴けばその名シーンが脳裏によみがえるほどだ。

Ado×宮本浩次×まふまふ、星野源らの主題歌

下半期は、『沈黙の艦隊 北極海大海戦』(25)の主題歌でAdoが歌った「風と私の物語」、星野源による『平場の月』(25)の「いきどまり」などがヒット。「風と私の物語」は作詞&作曲を宮本浩次、編曲をまふまふが担当し、異色のコラボが実現。宮本ならではの壮大なスケール感と、それをシンプルかつ巧みに編曲したまふまふの手腕、そしてエモーショナルに歌い上げたAdoの歌唱力。「まさかこの3人が!」という意外なアンサンブルが日本映画史に残る名曲を生みだした。宮本は『爆弾』(公開中)の「I AM HERO」も歌唱含め手掛けており、ラップを取り入れたワイルドなロックチューンは、「風と私の物語」とは異なる魅力を放っている。

星野は、これまでに『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』(23)のエンディング主題歌「光の跡」なども制作しているが、今回の「いきどまり」では、劇中のせつない情景とセリフの行間を読むような、美しくしっとりとしたピアノと星野のファルセットボーカルが印象的だ。

ほかにも、Creepy Nutsによる『アンダーニンジャ』(25)の主題歌「doppelganger」、back numberによる劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』(25)の主題歌「幕が上がる」、『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』(24)ではをあいみょんが主題歌「スケッチ」を担当。また、インディーゲームの実写化で話題を集めた映画『8番出口』のコラボレーションソング「88888888」を、今年のアイドルシーンを彩ったFRUITS ZIPPERの松本かれん、CUTIE STREETの桜庭遥花によるユニットPiKiが担当したことも記憶に新しい。

映画の興収と音楽のヒットチャートが、とにかく密接だったという印象がある2025年。音楽市場もストリーミングを中心に過去最高の盛り上がりを見せ、話題作の音楽を手掛けたアーティストはいずれもチャート上位でシーンを賑わせた。映画側がこの人ならばとアーティストを指名し、アーティスト側もその作品を深く理解することで生まれたいくつものムーブメント。映画と音楽が手を取り合って、エンタメシーンを引き上げていることが如実になっている。

文/榑林史章

※「doppelganger」の「a」はウムラウト付きが正式表記

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