「競馬には行ってない」と誓う父。だが、大掃除中に見つかった、1枚の紙切れが家族の絆を壊す【短編小説】

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

大掃除は、溜まった埃だけでなく、隠していた秘密までも暴き出してしまうようです。

私の父は、数年前に競馬が原因で家庭を崩壊させかけたことがあります。その際、母と私は「次はない」と厳しく突き放しました。

父は土下座までして「もう二度としない。競馬には絶対に行っていない」と誓い、それ以来、休日も家で大人しく過ごすようになっていました。

しかし、今年の年末。家族総出で始めた大掃除の最中、その信じがたい裏切りが露呈しました。

父の書斎にある本棚の掃除したときのことです。本の裏から、ひらりと一枚の小さな紙切れが落ちてきました。私は嫌な予感がして、その紙を拾い上げました。

指先が震えました。それは、最近の日付が印字された競馬の馬券でした。

しかも、賭けられていた金額は、小遣いで遊べる範囲を遥かに超えた高額。父が「残業で遅くなる」と言っていた日、彼はこっそり競馬場に足を運んでいたのです。

「お父さん、これは何？」

私が差し出した紙を見て、父は一瞬で顔面を蒼白にさせました。

「あ、あぁ……それは、拾ったものだよ。何かの間違いだ」

そんな見え透いた嘘を、父は震えながら繰り返します。しかし、母はもう騙されませんでした。母の手には、通帳が握られていたのです。そこには、家の貯金から少しずつ引き出された、言い逃れできない記録が残っていました。

「もう十分よ。あなたの誓いは、この紙切れ一枚の価値もなかったのね」

母の言葉は冷徹でした。

「今日で終わり。私たちはもう、あなたの嘘を背負っていくつもりはないわ」

父は力なくその場に座り込みましたが、私たち家族の心はもうここにはありません。

一枚の紙切れが、積み上げてきた信頼を粉々に砕き、私たちは晴れやかな気持ちで、嘘つきな父を捨てて新しい一歩を踏み出す決意をしました。

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