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【独占インタビュー】なぜ団体戦なのか──レジェンド桜庭和志が語る、グラップリング大会『QUINTET』に込めた想い(前編)

  • 2025.12.30

1993年8月にUWFインターナショナルからプロデビューした桜庭和志。1998年に総合格闘技のPRIDEに戦いの場を移し、グレイシー一族との名勝負をはじめ、ヴァンダレイ・シウバ、ミルコ・プロコップなど世界のトップ選手達と戦い続けてきた。2017年にUFC殿堂入りを果たしたレジェンドが、2018年に自ら立ち上げたグラップリング大会『QUINTET(以下、クインテット)』に込めた想いと、今後の戦略について語った。

クインテット ドバイ ―― 柔術が根づく国で感じた、確かな手応え

――2025年10月に中東のUAE・ドバイで『クインテット』が開催されましたね。

桜庭:10,000人収容のコカ・コーラアリーナで行われたんですが、クインテットは寝技の大会ですから、コンパクトに観客席を設置しました。お客さんが細かい攻防を見やすいように、天吊りの4面LEDビジョンも設置しました。

画像: ©️QUINTET 今年10月23日にドバイでQUINTET 5 が開催された
©️QUINTET 今年10月23日にドバイでQUINTET 5 が開催された

――現地のお客さんの反応は?

桜庭:本当にすごかったですね。柔術が教科書に載っているくらいの国なので、みんな競技への理解が深い。日本では体育の授業で柔道や剣道を習うじゃないですか。そんな感じなので、競技に対する知識が豊富なんです。昔、タイ人のムエタイのコーチが「なんで日本人は、野球のバッターが1塁に走ることをみんな知っているんだ?」と驚いていましたけど、日本で野球のルールを知らない人はほとんどいませんよね。それと同じで、柔術のルールも面白さも、みんながよく知っています。

――ただ、柔術とクインテットはルールが違いますね。

桜庭:柔術の場合は胴衣を着て戦うので、下からの締めなど細かい技が観客にはわからない。どちらかの選手がタップして初めて勝者に気づくことが多いんです。クインテットはラッシュガード着用なので、技が見えやすいと思います。

発想の原点は「野球」と「抜き試合」

――2018年に桜庭さんが企画・運営してきたクインテットは、独自のルールを採用しています。1チーム5人で行う団体戦で、勝ち抜きシステム。引き分けは両者退場、大将が負けたチームが敗北となります。

画像: QUINTET4 での団体戦の様子。写真提供=QUINTET

桜庭:この競技の考え方のベースは、簡単にいうと野球なんです。甲子園大会を見ると、面白いじゃないですか。基本は個人対個人の戦いだけど、打順や守備位置も重要になる。ある時、柔道の「抜き試合」を見て、「これだ!」と思いました。勝った選手が次の選手と戦う「抜き試合」なら、どちらのチームが強いかがはっきりする。大将が残っているほうが勝ちですから。打撃があるとダメージやケガを負うリスクが高いですが、クインテットはそれほど大きくありません。

――チームの総体重を430kg(レギュラーウエイト)に制限した理由は?

桜庭:5人全員が100kgを超えていたら、面白くないじゃないですか。体重を制限すると、120kgの選手がいれば、体の小さい選手も入れなければならなくなる。巨漢と小柄な選手との対戦も、この寝技の大会なら成立します。クインテットを始めた頃には、身長195cmの選手を170cmに満たない選手が倒したこともありました。

――「小よく大を制する」という世界ですね。

桜庭:競技をしていない人が見ても、面白い勝負になります。格闘技がどうしてできたかとよく考えるんですが、体が小さい人が大きい人を倒すためにテクニックを磨いてきた歴史がると思うんです。体が大きい人が有利ではあるのですが、技術があればパワーで劣る人でも十分に対抗できます。5人で1チームなので、誰に誰をぶつけるかというチームとしての戦略も求められます。

――1試合8分の一本勝負(体重差が20キロ以上ある場合は4分も選択可能)です。逃げ回って時間を使い、引き分けを狙う選手はいませんか。

桜庭:120kgの選手に対して、70kgの選手が逃げ続ける展開も、作戦としてありと言えばありです。ただ、攻めない姿勢は許されない。攻める意思が見られない場合は、すぐに指導が入ります。お互いに攻め合いながら、小さい選手が耐え忍ぶことで大きな選手を消すことができる。それも作戦のうちですね。

クインテットが始まって8年。当初の想定と新たなる進化にむけて

――クインテットが始まって8年が経ちますが、「当初の想定と違った」と感じることはありますか

桜庭:ありません。ただ、どの競技も同じだと思いますが、選手たちが戦い方に慣れてくると、一本勝ちが減ってきていきますよね。はじめの頃は一本勝ちが6割以上あったんですけど、それはある意味奇跡的です。ただ、見る側も目が肥えていけば渾身の引き分けを楽しめるようになる。野球でいえば、投手戦もあれば打撃戦もあると考えています。

画像: クインテットが始まって8年。当初の想定と新たなる進化にむけて

――10月のドバイ大会では「TEAM SAKU JAPAN」の監督を桜庭さんがつとめました(「TEAM NOGUEIRA DOBAI」の監督はアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、「TEAM BANGTAO THAILAND」の監督はボブ・サップ、「TEAM RENZO GRACIE」の監督はヘンゾ・グレイシー)。クインテットではチーム作りの部分で監督の技量も試されますね。

桜庭:5人が戦って、5試合すべてが引き分けという可能性もある。それでは面白くない。だから僕は、イレギュラーを起こせる選手を入れるようにしています。

(後編へ続く)

取材・文/元永知宏 (スポーツライター)

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