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徐々に混濁し始める記憶……様子のおかしい先輩が体験した廃寺での恐怖がもたらす戦慄の結末

  • 2025.12.30
写真はイメージです。提供:アフロ

土曜23時から生配信サービス「TwitCasting」で生配信されている「禍話(まがばなし)」は、2016年の開始以来、数千話に及ぶ怪談を積み重ねてきた実話系怪談チャンネルです。その膨大なアーカイブは青空怪談となっており、創作の参考にしたり、自分なりにリライトしたりして楽しむファンも多く、令和の怪談文化に新しい波を生み出しています。

そんな禍話から今回は、とあるインカレサークルの先輩が語った不気味な一夜と、そこから続く不可思議な出来事をご紹介します――。


「首がなかったら声なんかしなくないですか……?」

写真はイメージです。提供:アフロ

「く、首なくても声がわかるって、え……」

戸惑いの表情でSさんに助けを求める後輩。Sさんは彼女の代わりにはっきりと聞きました。

「あの、気になっちゃったんですけど、首がなかったら声なんかしなくないですか……?」

N先輩の表情はみるみるうちに曇っていきました。

「……そうだよな。え、なんか、なんか大事なことが思い出せないんだけど。い、今、思い出すから……。起き上がって影が見えて、声かけられて、そこまでは確実に覚えている。でも、それから、俺……なんかされ……」

ブツブツと自問自答を続けるN先輩の様子に、その場の空気は凍ってしまいました。

「せ、先輩も結構酔っちゃったみたいだし、怖い話はこの辺にして今年の総括と来年の目標みたいなの語っていこうぜ!」

「君の言う通り昨日だよ」

首のない男の子に話しかけられた。そんな強烈な体験の記憶が途中でバッサリと途切れることなどあるのだろうか。一体、N先輩は何を思い出そうとしているのだろう。それは本当に“思い出した方が良いこと”なのだろうか――必死に後輩たちを盛り上げながらも、Sさんの脳裏にはじわじわと疑問が広がっていました。

ガタッ!

突然、N先輩が立ち上がりました。

「ど、どうしたんですか……?」

まるで自分が飲み会に来ていることを今思い出したかのような表情でボーッとしているN先輩は「トイレ行ってくるわ」とぼそりと呟いて歩いて行ってしまったそうです。

彼がいなくなったことで一同は口々に、N先輩がまともな状態ではないのではないか、自分たちに一体今何ができるのかなど、溜め込んでいた不安をコソコソと漏らし始めました。

「でも、別に一次会の時からそんな飲んでなかったよな?」

「はい……。酔っておかしくなったとかそういう感じじゃないですよね、あれ」

「というか、私ずっと隣だったからわかったんですけど、先輩の服めっちゃ埃で汚れているんですよ。特に背中側とか。それになんか汗臭いというか、忘年会なのにお風呂とか入って来なかったんですかね……」

「気を病んじゃうとお風呂とか入れなくなるって聞くし、ちょっと心配だよな」

「そういうことなんですかね……。あの、こんなこと言うと私も変かと思われるかもしれないんですけど、先輩の話聞いていると、私どうにも――」

写真はイメージです。提供:アフロ

気がつくと、トイレから戻っていたN先輩が一同の座るボックス席のそばに立っていました。

「昨日だよ」

「え」

「君の言う通り昨日だよ、お寺行ってきたの」

忘年会は重い空気に包まれ……

「あ……はい」

もうSさんにも取り繕えないほど、その場の空気はどんよりと沈みきってしまいました。

「帰るわ」

「え? あ、ちょっと先輩!」

「いいって……!」

結局、N先輩はそのまま飲み会の席を後にし、Sさんたち一同も重い空気のまま忘年会をお開きにしたそうです。

◆◆◆

写真はイメージです。提供:アフロ

年明け、Sさんは実家に帰省していました。

散々な忘年会でどうなることかと思いましたが、三が日の夜になんだかんだ実家で楽しくお酒を飲みながら過ごしていると、気持ちもまた明るくなっていったそうです。

それに、あの時飲んだサークルの仲良しグループの面々から、メッセージアプリのグループチャットに「年明けに旅行に行ってきた~!」「うちのおせち見てください!」など、他愛のない楽しそうな写真が次々と送られてくるのを見ていると、あの日の出来事が本当に起こったのかさえ怪しく思えました。

翌朝、Sさんはカーテンからチラチラと差し込む朝の光で目を覚ましました。

シンと透き通った冷たい田舎の冬の空気。

「痛ッ……!」

ベッドから起き上がろうとした瞬間にズキリと痛む頭。昨晩飲みすぎて倒れるように寝ていたことを思い出し、時間を確かめようとスマホを手に取りました。

「もう15時じゃん……」

ふと、メッセージアプリに数十件のメッセージが来ていることに気がついたのです。

【N先輩からのメッセージ見ました?】

昨日も例のグループチャットでダラダラと話していましたが、一通り近況報告やら雑談やらが収まっていた印象があったので、Sさんは「なんでまた盛り上がっているんだ」と軽い気持ちでアプリをタップしたそうです。

一覧を開くと、グループチャットと同時に各メンバーとの個別チャットにもそれぞれ無数のメッセージが届いていました。

【先輩、N先輩からのメッセージ見ました?】

【Sさん! Nさんのメッセージやばくないですか……?】

【N先輩、ちょっとシャレにならない気がするので、こういう時って病院とか勧めた方がいいんですかね……?】

写真はイメージです。提供:アフロ

一体みんな何を言っているんだ……――恐る恐るグループチャットを開くと、N先輩から大量のメッセージや写真、動画が届いていました。

【あの後されたことが、どうしても思い出せなくて、ちょっとまた寺に来てみた。まぁ、思い出すと思う】

【少し待ってみたいと思います】

【また来てくれるはずなのd、返事すこし遅れるかもしれん。待っててくれると助かる】

一体何を言っているのか分からない誤字混じりの文章。

チャットメンバーからの問いかけには一切返事をしないまま、昼過ぎの時間帯になって再びN先輩から、今度は写真が連続で添付されていました。

N先輩はその後……

写真はイメージです。提供:アフロ

その一連の写真は全部ブレており、一体何を撮っているのかすぐにはわかりませんでしたが、見比べていくとどうやらどこかの山にある建物ということがわかってきました。

最後に、一枚だけブレのない写真が添付されていました。

快晴の空の下、生い茂る雑草の中にポツンと佇む一軒の廃寺の写真でした。

それから一同が何を聞いても、N先輩からの返信がくることはありませんでした。

ですが、大学が始まる直前、突然グループチャットに一本の動画が投稿されたのです。

【ハァ……ハァ……わかった】

【おい、君、離れなさい!】

【わかった……うぅ……わかった……】

【聞いているの!? 君だよ、離れなさいって!!】

【わかったァ! わかったァ!! わかったァ!!!】

カメラを回していた先輩は、人気のない大学の門を揺さぶるようにそう叫び続けており、不審に思った警備員の人ともみ合いになっていました。

突然、ガサガサっとカメラの向きが変わり、自撮り状態の先輩の顔が映し出されたのです。

その顔は異様にやつれており、長かった髪の毛は無造作に刈り上げられ、まるでお寺の住職のように見えました。

【ハァ、ハァ、わかったよ、全部、みんな諦めてあの寺出たんだ……だから――】

そこで動画は終わり、N先輩はすでにグループチャットから退出していました。

それ以降、誰も先輩とは連絡がつかなくなり、その行方は今でもわかっていません。

文=むくろ幽介

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