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インカレサークルの忘年会で先輩が語り始めた恐怖の体験談……廃寺で出会った首のない“男の子”の影

  • 2025.12.30
写真はイメージです。提供:アフロ

北九州の書店員であり語り手担当のかぁなっきさんと、映画ライターであり聞き手担当の加藤よしきさんのコンビ「Fear飯」がホストを務める怪談語りチャンネル「禍話(まばなし)」。2016年から生配信サービス「TwitCasting」で始まったこの番組は、コアなホラーファンすらも唸らせる実話怪談をこれまでに3000話以上発表してきました。

今回はそんな禍話から、ある廃寺を訪れたことでおぞましい事態に巻き込まれてしまった男性の体験談をご紹介します――。


笑い話の後には……

写真はイメージです。提供:アフロ

一年も終わりに近づいてきたある年の冬。

大学生だったSさんはその日、チェーン店居酒屋を貸切りにした大規模な忘年会に足を運んでいました。大学間で繋がって交流を広げる非公式の“インカレサークル”。人間関係を増やすために参加していたはずが、気づけば十数人の知り合いグループ、それも同じ大学内で集まった小さなコミュニティで落ち着いてしまっていたSさん。

結局、その日の忘年会でも有名校の大きなテーブルが大声で盛り上がっている片隅で、いつもメンバーで集まってこじんまりと飲んでいたそうです。

数時間経って一度飲み会は解散になり、大まかなグループに分かれた二次会が始まると、Sさんたちのグループは自分たちだけで飲み直すことになりました。

「先輩、一次会キツかったんじゃないですかぁ~?」

「そっちこそ嫌そうだったじゃん!」

「あはは! 確かに~」

どんちゃん騒ぎもひと段落つき、気心の知れた仲間の空気にやたらホッとしたそうです。

「そういや、最近観た映画が超怖くて~」

「怖いって言うと俺この前さぁ!」

笑い話も一通り話し終え、一同はいつしか聞きかじった怖い話を語り合う流れになりました。

「N先輩はなんか怖い話ないんですか?」

「怖~……」

「ね! ヤバイですよね、この話!」

「皆、結構怖い話知ってんだなぁ~……」

「……もう飲み物大丈夫?」

「あ、じゃあ貰っちゃいます。カシオレで大丈夫です!」

「俺はもう少し食べちゃおっかなぁ~」

かなり盛り上がったものの、流石にあらかた語り終えて話の流れが途切れたタイミングがありました。

写真はイメージです。写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

ふと、後輩の女の子が口を開きました。

「そう言えば、N先輩はなんか怖い話ないんですか?」

誰も彼に話を振らなかったことを気にかけてくれたのでしょう。

しかし、彼女が声をかけたN先輩という人は、Sさんの大学のOBでありながらインカレサークルに度々顔を出す、ちょっと距離感の掴みにくい人で、正直、何を話したら良いのかわからず、N先輩自身も口数が少ないのとあいまって、皆彼の存在をもてあまし気味でした。

一年の最後ということもあり、その日は皆それなりにめかし込んで参加していたにも関わらず、首元がだらりと伸びきった、言葉を選ばずに言えば小汚い服装で来ていたN先輩。この二次会だって誰が誘うでもなくぼんやりとついてきたこともあって、皆なんとなく話を振らないでいたのです。

「え、俺?」

妙に湿り気とおびた長い前髪とうつむきがちの姿勢で見えなかったN先輩の視線が、スゥッと前を向きました。

「……あるよ」

「いや、ないなら全然いいっすよ! というか、Nさんも何か飲みますか?」

話題を変えようと先走ってSさんが口を挟んだにも関わらず、何かを思い出そうとしているような表情のN先輩はふとこう言ったのです。

「……あるよ。俺さお寺とか回るのが好きでさ、そのときの話なんだけど」

大方無愛想にスルーされると思っていたため一同は驚いたそうですが、素性のろくにわからなかった先輩の趣味から続く怖い話が一体どんな内容なのか、皆一様に興味を惹かれていました。

写真はイメージです。提供:アフロ

N先輩はその日、自分のバイクに乗ってツーリングに出かけていたのだそうです。

目的はもちろんお寺。

何のためにお寺を回ったのかは語ってくれませんでしたが、代わりにお寺を訪ねるタイミングに関してはやたらと熱っぽく語ってくるのが奇妙でした。

「お寺ってさ、昼はダメなんだよ。参拝客もそうだけど住職が結構厳しく監視しているからさ」

「監視って、拝みに行くんじゃないんすか……?」

N先輩は睨むでも見つめるでもないジトっとした一瞥をSさんに投げると、彼を無視して話を振った後輩女子に向かって続きを語り始めました。

「行くのは夜な。人もいないし。ああ、別に鍵こじ開けたりはしないよ。お墓を見て回るだけ。まあ、入れないときは遠くから見ることになっちゃうときもあるけど、それはそれで好きだからさ」

首のない小さい男の子の影がスゥーー

その日は夜の8時ごろに目的のお寺に着いたというNさん。

山奥の誰もいない、というより廃寺となっていた場所だそうで、バイクを停めるとフラッシュライトを取り出し、ライダースーツを突き抜けるような寒さに身を縮めながらお寺に向かって歩いていったのだそう。

「俺、写真とかは撮らないんだよ。ぐるぐる回って雰囲気楽しむだけ。そのときも一周回ってさ、最後にもう一周行くかって角曲がった時にさ、意識なくなったんだ」

「えっ!?」

思わず小さな声をあげる後輩の女の子。嬉しかったのか、N先輩はニヤッと笑うと話を続けました。

写真はイメージです。提供:アフロ

「起きたらさ、お寺の本堂の中で寝ていたんだよ。誰かに毛布被せられて。慌ててスマホ見たら2時間も経っていたんだぜ」

月明かりだけが照らす薄暗い本堂の中。

薄い障子戸はどこもぴっちりと閉じられ、人の気配はない。

自分は一体誰にここに連れられてきたんだ……――当然、酒なんて飲んでいなかったはずなのに記憶がぽっかりと空いている。そのことに、今になって猛烈な恐怖が湧いてきた、そのときだったそうです。

「その障子戸の外、多分縁側か外廊下みたいなところにさ、首のない小さい男の子の影がスゥーーーー……って現れたんだよ! あはは、俺超ビビっちゃってさー! 怖いだろ! なっ!?」

「なんで男の子ってわかったんですか」

急に大きな声を出して、さも“怪談のオチですよ”と言わんばかりに手を広げたN先輩。

確かに不気味ではありました。しかし、これで終わりというのはどうにも腑に落ちません。肝心の不気味な子どもが出てきて、ここから何が起きるのかという段階に思えたのです。

自慢げなN先輩の表情をよそに、一同は話の尻すぼみな終わり方に黙ってしまいました。

そのとき、最初に話を振った後輩の女の子が聞き返してしまったのです。

「あの、先輩、その子どもって首がなかったんですよね……」

「うん」

「じゃあなんで男の子ってわかったんですか……シルエットだけなら髪型とかでも見えないとわからなくないですか……?」

写真はイメージです。提供:アフロ

「え」

N先輩は、彼女の言葉に面を食らって黙りこくってしまいました。その表情は考え込むように下を向き、どんどんと曇っていったのが皆の不安を煽ったそうです。

「……そういえば、なんでなんだろうな、なんでだ……。あっ、そうだ『夜は寒いでしょう。どうぞゆっくりしていってください』って声かけられてさ、その声が男の子だったんだよ。別に首なくても声がしたらそれくらいわかるだろ?」

そう言って顔を上げたN先輩は笑っていたそうです。

文=むくろ幽介

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