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被害者に賛否→「子どもの声は騒音じゃない?」「地獄?」その正論が人を壊す…道路族トラブルで精神崩壊した女性の決断【作者に聞く】

  • 2025.12.29
ありふれた殺意_P02 三ノ輪ブン子(@minowabunko)
ありふれた殺意_P02 三ノ輪ブン子(@minowabunko)

「道路族」という言葉の認知度が急速に高まっている。これは住宅街の私道や公道を遊び場にし、騒音や器物破損などの迷惑行為を繰り返す子どもと、それを放置する親を指す造語だ。2016年頃に被害者による情報共有サイト「道路族マップ」が開設されたことでネットを中心に知られるようになり、2020年からのコロナ禍による在宅時間の増加が、この問題を社会的なイシューへと押し上げた。

今回紹介するのは、そんな道路族による騒音被害に悩み、次第に狂気へと駆り立てられていく女性を描いた漫画『ありふれた殺意』だ。作者の三ノ輪ブン子さん(@minowabunko)に、本作に込めた意図を聞いた。

ありふれた殺意_P03 三ノ輪ブン子(@minowabunko)
ありふれた殺意_P03 三ノ輪ブン子(@minowabunko)
ありふれた殺意_P04 三ノ輪ブン子(@minowabunko)
ありふれた殺意_P04 三ノ輪ブン子(@minowabunko)
普通の生活がしたいだけなのに… 三ノ輪ブン子(@minowabunko)
普通の生活がしたいだけなのに… 三ノ輪ブン子(@minowabunko)

「ピヤアアア!」窓の外から響く奇声に涙が止まらない

「ここは地獄だ」主人公の女性は、耳を塞いで床に伏せながら絶望する。彼女の自宅兼仕事場のすぐ外では、毎日決まった時間になると子どもたちの遊ぶ声が響き渡るのだ。「ピヤアアアアアアア」「キャアアアア」という甲高い奇声や笑い声は、窓を閉め切っても容赦なく侵入してくる。在宅ワーク中の電話相手の声すら聞き取れないほどの騒音。仕事は手につかず、蓄積したストレスは限界を超え、いつしか彼女の目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。

精神的に追い詰められた彼女をさらに苦しめるのは、「子どもは社会みんなで育てるもの」という世間の正論だ。「テレビでも言っている。子どもの声が騒音だという人の方が迷惑だって」被害者であるはずの彼女は、騒音を許容できない自分自身を責め、自己否定の泥沼へと沈んでいく。そして、その歪んだ感情はやがて危険な「殺意」へと変貌を遂げる。

音は目に見えない「怪物」である

本作を描いたきっかけについて、三ノ輪さんは「騒音問題の善悪を論じる以前に、『音』が人間に与える恐怖や影響力の強さを描きたかった」と語る。近隣トラブルの中でも、騒音問題は殺人事件に発展するケースが少なくない。三ノ輪さんは、音には人間の意思や努力ではどうにもならない、拒絶反応を引き起こす「特性」があるのではないかと分析する。「音はまるで目に見えない怪物のようであり、『うるさい』という感情と同時に『怖い』という感情も強く呼び起こすものではないでしょうか」理屈では割り切れない生理的な嫌悪感こそが、人を狂わせる要因なのかもしれない。

「被害者にしかわからない」読者からは賛否両論

本作には読者から多くの反響が寄せられた。「この苦しみは被害者にしか理解できない」「騒音は本当につらい」といった深い共感の声がある一方で、「主人公の女性は病気だ」「子どもを悪く言うコメント欄の方が怖い」といった意見もあり、まさに賛否両論の様相を呈している。また、ラストシーンに登場する車の運転手についても考察が飛び交っており、最後まで気が抜けない構成となっている。

三ノ輪さんは現在、都市伝説系ホラー『ただのうわさです』(原案:飯倉義之)を連載中だ。「口裂け女」などの古典的な怪異を令和の視点で描くなど、ホラー作家として精力的に活動している。「音」という暴力に晒された人間の末路。あなたはどう感じるだろうか。

取材協力:三ノ輪ブン子(@minowabunko)

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