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マライアが歌い、アルマーニが讃えられる。「冬季オリパラ2026」今わかっている9のこと

  • 2025.12.29
©IOC / MiCo26,Getty Images

イタリア北部を舞台に開催される「ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック・パラリンピック競技大会」(オリンピックは2026年2月6日から22日まで、パラリンピックは3月6日から15日まで)。あのマライア・キャリーが開会式で歌い、イタリアを象徴するデザイナー、ジョルジオ・アルマーニがトリビュートされる予定。スポーツの祭典でありながら、音楽やファッション、建築、価値観までもがクロスオーバーする、少し特別な五輪が始まろうとしている。

今回の大会がこれまでと大きく違うのは、「五輪のために街をつくる」のではなく、街や地域のあり方に、五輪をそっと重ねるという考え方。ミラノとコルティナ・ダンペッツォ、性格もスケールも異なる2つの場所が、あえて共同開催というスタイルを選んだ背景には、サステナビリティや地域分散、文化の多様性を大切にしたい、これからの五輪の新しいビジョンがある。

世界有数の経済都市ミラノと、ドロミテ山脈に抱かれた歴史ある山岳リゾート、コルティナ。都市と自然、最先端と伝統。その間を行き来しながら、新しい物語を描こうとしているのが「ミラノ・コルティナ2026」。それでは本大会について、いまわかっていることをチェックしていこう!

1.マライア・キャリーが、開会式の主役として登場

Denise Truscello / Getty Images

パリ2024大会の開会式で、レディー・ガガのパフォーマンスが世界中の話題を集めたのも記憶に新しいが、次にそのバトンを受け取るのはマライア・キャリー。2026年2月6日に行われる「ミラノ・コルティナ2026」の開会式で、パフォーマンスを披露することが正式に発表された。舞台は、ミラノのジュゼッペ・メアッツァ(サン・シーロ)競技場。彼女の出演は、開会式の中心テーマである「ハーモニー(調和)」を体現するものだという。

音楽と並んで世界観を形づくるもうひとつの重要な要素が「衣装」。開会式の衣装デザインを手がけるのは、映画『ほんとうのピノッキオ』『シラノ』でアカデミー賞にノミネートされたイタリア人衣装デザイナー、マッシモ・カンティーニ・パッリーニ。映画やオペラで培った物語性と色彩感覚をスタジアム規模のライブ演出へと落とし込むとのことで、こちらも見逃せない。

サン・シーロ・スタジアムに設えられるメインステージも、競技場という枠を超え、人と人、地域と地域をつなぐ「共有の場」として構想されている。競争だけでなく共存を、勝敗だけでなくつながりをというメッセージがある。音楽とスポーツを融合させ、包摂、尊重、文化交流といった価値観を世界に向けて発信するとのこと。マライアの歌声は、この大会の最初の記憶として、強く刻まれるはず!

2. ジョルジオ・アルマーニへのトリビュートが行われる予定

2025年9月4日、91歳でこの世を去ったジョルジオ・アルマーニ。「ミラノ・コルティナ2026」の開会式では、このイタリアを象徴するデザイナーへのトリビュートが行われる予定。

長年にわたり、「エンポリオ アルマーニ」のスポーツラインである“EA7”を通してイタリア代表選手団の公式ウエアを手がけ、スポーツの世界にエレガンスと機能美を持ち込んできた存在。ファッションの枠を超え、イタリア文化そのものを築いた人物を、五輪という世界的な舞台でどう讃えるのか。どんな演出で、どんなメッセージが届けられるのか。開会式の中でも、とりわけ注目したい瞬間のひとつになりそう!

3.北イタリア全域で開催される、史上最大級の分散型五輪

コルティナ・ダンペッツォの街並み。北東にそびえるのは標高3221mのモンテ・クリスタッロ。 CLAUDIA GRECO / Aflo

ミラノ、コルティナ・ダンペッツォを中心に、ロンバルディア州、ベネト州、トレンティノ・アルト・アディジェ州など、北イタリア全域を舞台に開催される。

今回の大会は、史上最大級となる本格的な分散型五輪であり、開会式もミラノのサン・シーロ・スタジアムを中心に、複数の会場をリアルタイムでつなぐ多拠点・同時開催という新しいスタイルが採用された。

ひとつの都市にすべてを集約するのではなく、それぞれの地域が主役となり、土地の個性や文化を生かす設計が特徴。巨大な施設を新設せず、既存インフラを活用することで、地域の暮らしを壊さない。大会が終わったあとも価値が残り、次の世代につながっていく。共同開催という選択は、現実的で、そしてこれからの五輪を考えるうえで、ひとつの答えを示している。

4.サステナは「スローガン」ではなく「前提条件」

2025年12月4日にギリシャ・アテネで開催された「ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック」の聖火引継式の様子。 Milos Bicanski / Getty Images

上述の【3】で紹介したように本大会では、サステナビリティは後付けの理念ではなく、大会設計の出発点に置かれている。競技会場の約85%は既存または仮設施設を活用し、新設は最小限に抑制。再生可能エネルギーの使用や循環型素材の採用に加え、開催地を分散させることで移動距離そのものを減らす工夫も徹底されている。

大会のために街をつくり変えるのではなく、地域のあり方を尊重し、その先の未来につなげていく。「ミラノ・コルティナ2026」は、持続可能性を掲げるものではなく、最初から組み込むものとして実践する五輪となっている。

5.プラダ財団の文化空間に挟まれた選手村

©IOC / MiCo26

毎回注目度の高い選手村は、本大会のためだけにつくられた場所ではないと言う。場所は、ミラノ南東部ポルタ・ロマーナの旧車両基地跡地。

大会期間中は約1700床が各国選手団に提供される予定だが、2026年3月以降、この場所は学生寮として新しい日常を迎える予定だ。にぎわう街並みと、かつての蒸留所を改修して生まれたプラダ財団の文化空間に挟まれたこのエリアは、ミラノの「いま」と「これから」が自然に交差する場所。

©IOC / MiCo26

施設内には、快適な滞在を支える食事やリラックスできる空間、24時間使える共有スペースが整えられる予定で、競技会場やサン・シーロへのアクセスもスムーズとのこと。

とはいえ、この選手村のいちばんの魅力は、便利さや新しさだけではない。大会が終わったあとも街に残り、使われ続けることを前提にした設計そのものが、「ミラノ・コルティナ2026」が描く五輪のかたちを物語っているワケだ。

6.冬季五輪史上、最高レベルのジェンダーバランス

国際オリンピック委員会(IOC)史上初の女性会長が誕生。元競泳金メダリストのカースティ・コベントリー会長。 Milos Bicanski / Getty Images

「ミラノ・コルティナ2026」は、冬季五輪史上もっともジェンダーバランスが取れた大会になる予定と言われている。女性アスリートの参加比率は約47%と、これまでの冬季五輪の中でも過去最高レベルに到達する。

競技面でも大きな変化があり、2026年大会では女子スキージャンプのラージヒルが初めて正式種目として採用される。長年「危険すぎる」「女性の身体には不適切」といった偏見のもとで排除され、女子競技が正式種目として認められたのは2014年ソチ大会からという歴史を考えれば、これは画期的な一歩。

国際スキー連盟(FIS)レースディレクターを務める吉田千賀さん。写真は、2024-25シーズンのスキージャンプ女子ワールドカップ(W杯)ガルミッシュ・パルテンキルヘン大会にて。 GEPA pictures/ Thomas Bachun / Aflo

この動きを支えてきたのが、日本人で女子スキージャンプ競技責任者を務める吉田千賀さん。女子競技の国際的な普及と制度整備に尽力してきた彼女の長年の取り組みが、ついに五輪の歴史を動かしたワケだ。

1956年、イタリア・コルティナで開催された冬季オリンピック開会式で、イタリアのアルペンスキー、ジュリアーナ・ケナル・ミヌッツォ選手が、参加選手を代表してオリンピック宣誓を行った。これは、女性として史上初の宣誓だった。 ROBERT RIDER-RIDER / Aflo

さらに象徴的なのは、1956年のコルティナ大会で、女性が史上初めてオリンピック宣誓を行ってから70年後にあたる2026年大会では、女性がもはや象徴的存在にとどまらず、競技だけでなく、運営、放送、演出、安全対策といった大会の最前線を担っているという事実。女性たちが「参加する側」から「五輪を動かす側」へ! その変化が、ごく自然な風景として現れるのが本大会。

7.デザインのキーワードは「ヒューマン・ジェスチャー」

「ミラノ・コルティナ2026」のピクトグラム。 Hearst Owned

エンブレム、ピクトグラム、ビジュアルアイデンティティ…「ミラノ・コルティナ2026」のデザインは、一貫して人の動き=ジェスチャーから生まれている。

なかでも注目したいのが、スポーツを簡潔な図記号で表すピクトグラム。アスリートの動きと気品を感じさせるデザインで、オリンピック16種、パラリンピック6種の計22種で構成されている。完璧さよりも人間らしい動きや熱量を大切にするそのデザインは、イタリアらしい美意識と大会の温度を視覚的に伝えている。

8.メダルは「勝利」ではなく、「道のり」を讃えるデザインに

オリンピック用のメダル(画像上)、パラリンピック用のメダル(画像下)。金メダルの材質は、999純銀 + 999.9金で、重量に換算すると純銀500g + 金6g。銀メダルの材質は、999純銀で500g。銅メダルの材質は、銅100%で420gとなっている。 ©IOC / MiCo26

本大会で授与されるメダルは、勝者の栄光だけでなく、そこに至るまでの時間と人のつながりを可視化するデザインとして誕生。メダルはふたつの異なる要素が重なり合う構造で、アスリート個人の努力と、それを支えてきたコーチやチームメイト、家族、コミュニティの存在を象徴している。さらに、デザインには「ミラノとコルティナという2都市」なども2つの半円として込められているそう。ブランドおよび大会ビジュアルの責任者を務めるラファエラ・パニエさんは、「違いの中にこそ強さがある」というメッセージを込めたと語っている。

製造を担うのはイタリア国立造幣局(IPZS)。使用される金属は製造過程で回収されたリサイクル素材で、鋳造(ちゅうぞう)には再生可能エネルギーのみで稼働する誘導炉を使用。パッケージにもFSC認証素材が採用されるなど、サステナビリティへの配慮も徹底されている。直径80mm、厚さ10mmという存在感のあるフォルムは、エレガンスと重みを両立し、手にした瞬間の記憶を強く刻む設計だ。

9.選手村以外で、TEAM JAPANを支えている「食」は?

「JOC G₋Road Station」で提供予定の「Power Gyoza DON」。 味の素㈱

大舞台で戦うアスリートにとって、コンディションを左右するのはトレーニングだけではない。とりわけ海外大会では、「何を、どう食べられるか」が心身の安定に直結する。選手村の外に設けられる栄養サポート拠点「JOC G-Road Station」(味の素株式会社)は、前回のパリ大会では、選手村近隣に開設されたこの拠点を、約4000人もの日本代表選手・スタッフが利用したという。

「ミラノ・コルティナ2026」では、ミラノを拠点に活躍する日本人シェフ・徳吉洋二氏とともに開発された特別メニュー「Power Gyoza DON」が用意される予定。イタリアの季節野菜を取り入れつつ、うま味を効かせた餡と香ばしく焼き上げたギョーザを主役にした一杯は、食欲が落ちがちな大会期間中でも、自然と箸が進む工夫が詰まっている。華やかな競技の裏側で、こうした“日常に近い食”が、選手たちの挑戦を静かに支えているのかもしれない。

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