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2025年、面白かったドラマ! 人気脚本家の新たな名作、“死”に向き合った良作も

  • 2025.12.29
(左から時計回りに)今田美桜、横浜流星、松坂桃李、広瀬すず クランクイン! width=
(左から時計回りに)今田美桜、横浜流星、松坂桃李、広瀬すず クランクイン!

近年、各局ともにドラマの本数が増えている。さらに配信業者との協業により、数々のドラマが“リアルタイム”ではなくても気軽に“一気観”できる視聴方法も増えてきており、ただ単に視聴率が高いイコール“良いドラマ”という指標の意味が問われている(スポンサーにとっては重要だが)。そんななか「今年面白かったな」と思うドラマをあげてみたい。

【写真】2025年を彩ったドラマ、主演俳優で一気にチェック!

■「逆転しない正義」を軸に日本の朝を彩った『あんぱん』

まずは半年に渡って放送されるNHK朝の連続テレビ小説。2025年内にスタートして完結したのは、『あんぱん』。日本の子供なら誰もが通るだろうという『アンパンマン』を生み出したやなせたかしさんと、その妻・小松暢さんの絆を描いた物語だ。ヒロイン・のぶを演じたのは今田美桜。嵩(たかし)を演じたのが北村匠海だ。

誰もが知るキャラクターである「アンパンマン」の誕生秘話を、たかしとのぶの幼少期からの関係性(実際の出会いとは違うが)を描きながら、戦争という非常に重いテーマと正面から向き合った。「逆転しない正義」という一本の軸を常に感じさせるなか、ユーモアもしっかり織り込み緩急自在に描き切った中園ミホの脚本は秀逸だった。

さらにのぶを演じた今田、その妹たちの河合優実、原菜乃華のバランスの良い三姉妹、その母・羽多子役の江口のりこ、嵩の母・富美子役の松嶋菜々子らの家族構成も秀逸。どの俳優も緩急剛柔のキャラクターを思うがままに操り、視聴者を飽きさせなかった。

のぶとたかしの幼少期から、青年期、戦争期、東京……と各パートで登場するキャラクターも個性的で飽きることなく最後まで作品を観ることができた。パン職人の屋村草吉役の阿部サダヲの突拍子のなさはもちろん、嵩の人生の指針となる出会いになる八木信之介役の妻夫木聡、嵩の作詞家としての才能を引き出した、いせたくや役の大森元貴など、キャスティングの妙も作品を彩った。

■「江戸のメディア王」を横浜流星が好演した大河『べらぼう』

2025年のNHK大河ドラマは、葛飾北斎、喜多川歌麿などの浮世絵師や作家らを世に送り出し、「江戸のメディア王」と呼ばれた蔦屋重三郎の生涯を描いた『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』。主人公の蔦重を、大河ドラマ初出演にして、初主演となる横浜流星が演じた。

横浜と言えば、極限までストイックに役に取り組む姿など、硬派なイメージが強かったが、本作では吉原で育ち、決して恵まれたバックボーンではなかったなか、持ち前のバイタリティとユーモアで軽やかな蔦重を演じた。当初は、どんな演技を見せるのかと思ったが、とにかく快活で生きのいい“カラッとした”蔦重を好演した。

苦難の連続が波のように押し寄せるなか、反骨精神やクリエイティブな発想で乗り切る蔦重は、観ている人に元気や活力を与える。そんな主人公を追っているだけで、自分も飛び跳ねたように感じられる力を与えてくれるという意味では、非常に秀逸な物語だった。

登場人物たちも多彩。蔦重に厳しいながらも、常に味方になってくれた吉原「忘八アベンジャーズ」のアクの強さに始まり、歴史の教科書で「化政文化」と括られ太字になっていた葛飾北斎や歌川広重、喜多川歌麿らが、俳優たちの名演により、非常に人間味あふれる姿で描かれた。なかでも目が離せなかったのは、北尾政演役の古川雄大。絶妙なヘタレ具合を絶妙なさじ加減で演じ、かなりツボだった。

さらに、蔦重を取り巻くヒロインたちも、作品に深い趣を与えた。幼少期から蔦重と苦楽を共にしてきた花の井(後の瀬川花魁)との、吉原という場での出会いならではの切ないほどの悲哀は、前半戦の物語の中心を担っていた。またそれを引き継ぐ形の妻・ていとの同士感あふれる愛情も、何とも切なくもほのぼのとしており、作品を追い続ける大きなモチベーションになった。瀬川を演じた小芝風花、ていに扮した橋本愛という2人の女優の実力を存分に垣間見ることができた。

■10月期日曜劇場では競馬を通して“継承”を描いた

連続テレビ小説、大河ドラマに並び注目度の高い枠。2025年は、1月期に『御上先生』、4月期に『キャスター』、7月期に『19番目のカルテ』、10月期に『ザ・ロイヤルファミリー』という4作が放送された。

『御上先生』は、文部科学省のエリート官僚・御上孝(松坂桃李)が、ある事情から超進学校に赴任し、生徒たちと共に日本の教育や社会にはびこる問題に立ち向かう姿を描いた。詩森ろばの脚本は、現代の日本の教育や官僚のあり方に強いメッセージ性を含んでおり、その重厚な脚本に、主演の松坂をはじめ、生徒役の若手俳優たちも期待に応え好演が目立った。

『ザ・ロイヤルファミリー』は競走馬にかける人々の物語という、一見なじみが薄いジャンルを描いているが、そこはさすが日曜劇場。“継承”というテーマで重厚な人間ドラマに昇華した良作だった。レースシーンも、第1話、2話では、ゴール前の描写など、ややCG感が否めない部分もあったが、途中からはジョッキーカメラの映像を駆使するなど見せ方を工夫して、決して陳腐に見えないような臨場感あふれるレースシーンになっていた。20年という歳月を描くだけに、やや足早になってしまう部分もあったが、劇的欲求を得られる作品になった。

■三谷幸喜、野木亜紀子、大石静…人気脚本家の新たな名作も

10月クールで大きな注目を集めたのが、三谷幸喜が、1984年の渋谷を舞台に希望を見出す人たちを描いた『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系) 。三谷にとって実に25年ぶりとなる民放GP帯連続ドラマ脚本。“視聴率”的に不調と伝えられることが多かったが、作品の内容的には、W・シェイクスピアの『ハムレット』の登場人物になぞらえたキャラクターたちが、1980年代という風俗にうまく溶け込み、演劇という“文化”を伝えていくというストーリーラインは、非常に見応えがあった。

同じく10月クールでスタートした野木亜紀子脚本の『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)も、観始めと観終わりのテイストが大きく変わるダイナミックな作品だった。会社をクビになり、すべてを失ったサラリーマンの文太(大泉洋)が、謎の企業「ノナマーレ」に就職して“ちょっとだけ”能力を持ったエスパーとして世界を救う――。前半は影を落とす部分はありつつ、コミカルな展開だったが、途中から状況は激変。最終的には「生きること」への希望がジンワリと伝わる、恩着せがましくないエールも秀逸だった。豪華キャストの競演と相まって、非常に面白いドラマになった。

7月クールに放送された大石静脚本の『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)。過去何度も共演している阿部サダヲと松たか子が、風変わりな夫婦になって繰り広げるサスペンスだ。大石自身、2人で「ホームドラマ」を描きたかったと話していたが、互いにセリフなしで“間”を埋めるのが非常に秀逸な俳優なので、コミカルな芝居はもちろん、サスペンスも非常にいい。松演じるネルラ家ファミリーのアクの強さも、癖になるドラマだった。

■安定の続編ものから“死”に向き合った良作も

4月期に放送された『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)は、安定の面白さ。しっかり現実を描いているのに、観ている間は、どこか違う世界線にいるような心地よさが秀逸だった。10月期に放送された『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)は、第1話目で竹内涼真演じる主人公の海老原勝男が、自身のモラハラ気質により、清々しく振られるところからスタートする話だが、全10話ある連続ドラマで、すでに第1話で改心を始めていくところが「早すぎる」と思いつつも、最後まで興味を持たせる竹内のセリフを発しないときの愛らしさが魅力的だった。周りを取り巻くハートフルな仲間たちも素敵。特に後輩・南川役の杏花は、物語にとてもいいエッセンスを加えていた。

4月期放送の『しあわせは食べて寝て待て』(NHK)は、地に足がついた暮らしを丁寧に描き、とても感情移入できる良作。桜井ユキ、加賀まりこ、宮沢氷魚の素晴らしい演技も染み入る。6月放送の『ひとりでしにたい』(NHK)は、とにかく考えさせられるドラマ。「死」という重いテーマをポップかつかわいらしく描く作品のテイストはとても惹(ひ)かれた。当然主人公・山口鳴海を演じた綾瀬はるかの演技が魅力的だったことは言うまでもない。

1月放送の『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系)は、演技派の俳優たちの奥行きのある芝居が楽しめた。サスペンスだからこその余白を、言葉で説明しなくても表現できるので、ドラマにしてはゆっくりと考えながら観られた。これまで親がいない役をさんざん演じてきた広瀬すずだが、本作で演じた、父を亡くした山下小麦というキャラを、これまでとは違う引き出しで好演した。

10月放送の『シナントロープ』(テレビ東京系)は、いま注目の若手俳優たちがこぞって出演。芯を食わないまま進んでいく物語で、キャラクターのエッジが重要な要素となるなか、見事といえるような配置。今後の映像界を支えていきそうな俳優たちの佇まいは大きな注目だ。

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