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災害時の「お金と法律」(第2回 生活再建の第一歩を踏み出すために~罹災証明書を知っておこう)

  • 2025.12.29

罹災証明書という名前を知ってほしい

南海トラフ地震や首都直下地震はいつ起きてもおかしくないと言われるようになりました。そうでなくても、豪雨や台風による被害が各地で頻発しています。私たちは、地震、津波、豪雨などで自宅を失ったり、大規模な修繕が必要になったりすることを常に想定しなければならなくなりました。では、もし自宅が被災してしまった場合、そこから生活再建のための一歩をどうやって踏み出していけばよいのでしょうか。

自宅の被災に備えて、ぜひ知っておいてほしい言葉があります。それは「罹災証明書」です。「りさいしょうめいしょ」と読みます。住んでいる自宅(住家)の被害の程度について、市町村が証明する書面です。国が定めている統一書式(2020年改訂版)の記載例を紹介します。

家の被害の区分は? 全壊、半壊など6段階

住家の被害の程度が大きい順に、全壊、大規模半壊、中規模半壊、半壊、準半壊、一部損壊の6段階の区分が設けられています。様々な支援制度やサービスの利用などの際に、自らの被災状況をすぐに説明できるなどのメリットがあります。

なぜ、罹災証明書が大切なのか?

罹災証明書という制度の存在を知っていることは、希望につながると考えます。災害直後に、何もかも失って絶望の淵に立たされた被災者からは、「いったい何から始めてよいのかわからない」という声があふれます。

罹災証明書は、被災者が市町村に交付の申請をした場合、市町村が住家被害認定を行い、その結果を記載して発行するものです。これは、災害対策基本法という法律に基づく市町村の法的義務になっています。ということは、被災された方の多くは、自ら罹災証明書の交付を申請することで、市町村の公的手続きと繋がる機会があるということです。「たったそれだけのことか」と思うかもしれませんが、確かな一歩の存在を知っていること自体が、希望につながるのではないかと考えています。

罹災証明書の入手については、焦る必要はありません。災害後には、市町村のホームページなどで罹災証明書の発行手続き開始のお知らせがあるはずです。大規模災害では手続き開始までに数週間やそれ以上かかる可能性もありますが、いつかはそのような公的手続きが始まるという知識を備えておき、その情報を逃さないようにすることが大切です。

罹災証明書が便利に使える場面とは?

罹災証明書により、少なくとも自宅の被害認定の結果は明確になっています。また、そのことは市町村も把握している情報です。これにより、たとえば義援金の配分や、被災者生活再建支援金といった大規模災害時特有の給付金支給などがよりスムーズになります。市町村側で円滑な処理ができれば、その分、被災者への支援開始も早くなるはずです。罹災証明書は色々な手続きをスムーズかつ便利に進めるアイテムだと考えてよいかもしれません。

なお、罹災証明書がなければ何も支援を受けられない、ということはありません。そもそも災害直後の救助、捜索、医療、福祉サービスの提供、避難所での生活開始、各種救援物資の供給、その他必要な災害救助については、行政機関が被災者の申請を待たずして積極的に行うことになっています。ですから「罹災証明書がなければ被災者とは認められない」などということではありません。

原則として「申請」が必要!

罹災証明書の発行を受けるためには、被災者自らが市町村の窓口に申請する必要があります。罹災証明書に限りませんが、ほとんどの行政サービスは申請主義で運用されています。申請主義とは、行政サービスなどを受けようとする人が申し出ることによってはじめて当該サービスのための行政手続きが開始される、という考え方です。

災害により家が壊れた時には、将来の各種手続きに備えて罹災証明書を申請する必要があるということを「知っておく」ことが重要となります。

私は、東日本大震災をきっかけとして、今に至るまで、数々の教育機関、企業、市民団体、専門団体などで授業や研修を行ってきました。その際、できるかぎり「罹災証明書という制度を知っていますか」など、公的支援制度についての認知度を簡単に尋ねています。受講者全体のうち、「知っている(一応説明できる)」という人は1割未満、「名前は聞いたことがある」という人は3割未満、「知らない」人は6割以上、というのが、学生や社会人を問わず大まかな傾向でした(岡本正『災害復興法学Ⅲ』参照)。今後はこの状況が大きく変わることを願っています。

罹災証明書の早期発行に向けた工夫

罹災証明書は、被災者の申請を受け、住家被害認定のうえで発行となるため、発行までに時間がかかります。明らかに「全壊」(損害割合50%以上)と分かる場合は、比較的スムーズな発行が期待できますが、「大規模半壊」(損害割合40%以上)か「中規模半壊」(損害割合30%以上)かなど専門家が詳細な調査のうえで判定しなければならない場合も多く、時間がかかることはやむを得ない面があります。

一方で、早期発行に向けた取り組み事例も過去には多く見られます。たとえば、広範囲の洪水被害、津波被害、土砂災害、火災延焼被害などが確認できるエリアでは、一軒一軒調査をするのではなく、当該区域内にあるすべての住家を一括で全壊認定する工夫は、東日本大震災以降の大規模災害で度々行われてきました。また、ドローンなどによる空撮映像だけで明らかに全壊と判定できる住家についても、現地調査を待たずして全壊の罹災証明書を発行することができるはずです。

2025年11月18日におきた大分市佐賀関の大規模火災では、航空写真で一見して全壊と分かるものについては直ちに全壊判定とし、該当者については罹災証明書を即日交付する対応がとられました。

脱・申請主義へ向けて

罹災証明書を市町村側の裁量で自発的に発行し被災者へ交付することは、法令上禁止されているわけではありません。南海トラフ地震や首都直下地震など壊滅的な被害が予想される災害でこそ、申請を待たずして市町村が積極的に罹災証明書を被災者へ交付する対応が必要になってくるはずです。2023年8月8日の国会(衆議院災害対策特別委員会)では、政府担当者が「罹災証明書を申請によらず交付することを禁ずる法律上の規定はないというふうに認識しております」と答弁していることにも注目したいところです。

次回は、罹災証明書制度の具体的な内容や、類似制度との違いについてお話しさせていただきます。

岡本正先生の写真

<執筆者プロフィル>
岡本正(おかもと・ただし)
弁護士/気象予報士/博士(法学)
1979年、神奈川県出身。慶応義塾大卒。銀座パートナーズ法律事務所。内閣府出向や東日本大震災での復興支援経験を活かし「災害復興法学」を創設。新潟大学研究統括機構客員教授、岩手大学地域防災研究センター客員教授、防災科学技術研究所客員研究員、人と防災未来センター特別研究調査員などを歴任するほか、慶應義塾大学などで多数の講座を担当。著書に「被災したあなたを助けるお金とくらしの話 増補版」(弘文堂)。

https://www.koubundou.co.jp/book/b593021.html

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