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『時計じかけのオレンジ』との共通点も?名優がポルノまみれの“超問題作”で体現した、歴史に名を刻む「悪のカリスマ」とは

  • 2025.12.28

映画史上にその名を刻む“問題作”として世界中でカルト的人気を誇る歴史大作を、公開から45年の歳月を経て現代によみがえらせた『カリギュラ 究極版』が2026年1月23日(金)より公開される。それに備え、本作の歩んできたスキャンダラスな歴史を振り返りながら、主人公カリギュラ役を演じたマルコム・マクダウェルの“狂気の演技”を紐解いていこう。

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監督の解雇に泥沼裁判…45年前の公開当時なにがあったのか?

1960年代に創刊した雑誌「ペントハウス」の創設者であるボブ・グッチョーネが、映画史上最高額の製作費を投じた“自主製作映画”として企画を立ち上げたのが1976年のこと。セックスとアートを融合させ、史上もっとも退廃的とされる皇帝カリギュラを描く歴史大作として、イタリアの鬼才ティント・ブラス監督とイギリスの大物俳優たちを招集。公開前から大きな期待が集められた。

しかし制作中にさまざまなトラブルに見舞われ、製作費は2倍に膨れあがり、脚本家やスタッフらが訴訟を起こす事態に。さらに撮影完了後にブラス監督は解雇され、編集と音楽の担当はクレジットを拒否。グッチョーネが勝手にポルノシーンを追加したり脚本を書き換えた状態で1980年にようやく公開を迎えるが、批評家からは酷評の嵐。

卑猥な作品としてフィルムが警察に押収されたり、撮影時のわいせつ行為をめぐる泥沼の裁判にもつれ込むなど問題は後を絶たず、それでも興行的には大成功を収めた。その後、グッチョーネの死後の2016年になり、すでに破棄されたと思われていたフィルムが奇跡的に発見。90時間以上の素材を大幅に再編集し、削除されたシーンと共に“本来の意図”が復元された『カリギュラ 究極版』として現代に再降臨する。

物語の舞台は紀元1世紀の前半。ローマ帝国の王室は、第二代ローマ皇帝ティベリウス(ピーター・オトゥール)のもとで堕落しきっていた。初代皇帝のひ孫であるカリギュラ(マクダウェル)は、ティベリウスの異常性癖に辟易としながらもその王座を虎視眈々とねらっていた。やがてローマ皇帝の座を強奪することに成功したカリギュラは、内なる欲望を抑えきれず、徐々に暴君の片鱗を見せ始めることに…。

マルコム・マクダウェルが魂を削って皇帝カリギュラを体現!

【写真を見る】淫乱女を妻に迎え、近親相姦に興じる暴君の悪行…すべては史実に基づくできごとだった!? [c] 1979, 2023 PENTHOUSE FILMS INTERNATIONALPhoto credit: Courtesy of Penthouse Films International
【写真を見る】淫乱女を妻に迎え、近親相姦に興じる暴君の悪行…すべては史実に基づくできごとだった!? [c] 1979, 2023 PENTHOUSE FILMS INTERNATIONALPhoto credit: Courtesy of Penthouse Films International

カリギュラ役を演じたマクダウェルの代表作といえば、やはりスタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』(71)を思い浮かべる人も少なくないだろう。管理社会への反逆として“ウルトラ・ヴァイオレンス”に耽る不良少年アレックスを演じ、映画史における悪役の概念を覆した彼は、それから数年後にカリギュラとしてまた新たな“悪のカリスマ”を体現した。

アレックスとカリギュラ、両者には“若くして手に入れた絶対的な力”ゆえに“タガの外れた暴走”をするという共通点が見受けられる。暴力という衝動で社会を蹂躙するアレックスに対し、皇帝という地位を武器にローマ帝国そのものを己の欲望の実験場へと変貌させるカリギュラ。なぜマクダウェルは、この二つの狂気的な役柄を類稀なる説得力をもって演じ抜くことができたのか。それは、彼が持つ独特の無邪気さがあってのことだろう。

残虐な行為の最中であっても、まるで子どもがいたずらを楽しんでいるかのような純粋な喜びが垣間見える。こうした“無邪気さと残酷さの同居”こそが、観る者に生理的な戦慄と、抗いがたいカリスマ性を感じさせる。マクダウェルは本作の撮影中、カリギュラという暴君に完全に入り込み己の魂を削った。そのため、公開後の信じられない改変と論争に大きなショックを受け、一時的には映画出演ができなくなったことでも知られている。

そんなマクダウェルが体現する“暴君カリギュラ”による数々の悪行や奇行は、いずれも歴史書に記された史実に基づいたものでもある。「絶対的な権力は、絶対的に腐敗する」というテーマとリアリズムを軸にして、単なるスキャンダラスな映画ではなく、権力によって人間性が崩壊していく過程をまざまざと映しだしていく正真正銘の“超問題作”。この比類なき歴史スペクタクルの全貌は、是非ともその目で確かめていただきたい。

“暴君カリギュラ”を鬼気迫る演技で体現したマルコム・マクダウェル [c] 1979, 2023 PENTHOUSE FILMS INTERNATIONALPhoto credit: Courtesy of Penthouse Films International
“暴君カリギュラ”を鬼気迫る演技で体現したマルコム・マクダウェル [c] 1979, 2023 PENTHOUSE FILMS INTERNATIONALPhoto credit: Courtesy of Penthouse Films International

文/久保田 和馬

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