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男性は日常の評価が高く、人生の評価は低い:女性は逆の傾向【幸福の男女差】

  • 2025.12.28
Credit:canva

よく世間では、男性の方が生きてて楽、いや女性の方がイージーモードなどと議論されることがあります。

では、学術的に調査を行った場合、人生の充実や幸福感に男女で有意な差は確認できるのでしょうか? そこにはどんな男女差があるのでしょうか?

アメリカのハーバード大学(Harvard University)のティム・ローマス(Tim Lomas)氏は、世界規模の世論調査データを使って、幸福や暮らしの状態を31の項目に分け、男女差がどこに現れるのかを調べてみました。

すると興味深いことに、それぞれの項目では男性の方が高得点なのに、人生全体を点数で評価する質問では女性の方が高くなるというチグハグな傾向が見えてきたのです。

これは何を意味するのでしょうか?

この研究の詳細は、2025年11月24日付けで学術誌『The Journal of Positive Psychology』に掲載されています。

目次

  • 幸福の研究とはなんなのか?
  • なぜ「日々の実感」と「人生の採点」が食い違うのか

幸福の研究とはなんなのか?

「幸せってなんだろう?」という疑問は、日常でも私たちがよく考える問題です。

ではこの問題を、科学はどのように扱っているのでしょうか?

心理学や社会科学の分野では、個人が感じる幸福や満足感、暮らしの質といった主観的な感覚については、長年にわたって研究対象にされています。

この分野は一般に「幸福研究」や「ウェルビーイング研究」と呼ばれています。

幸福研究の目的は、「人はどんなときに、どのように生きやすくなるのか」を、個人の性格や努力だけでなく、社会環境や人間関係も含めて理解することにあります。

そのため研究では、「人生に満足しているか」「日々の感情はどうか」「生活に必要な条件は満たされているか」といった、いくつもの側面を分けて測ることが一般的です。

近年では国連の世界幸福度報告(World Happiness Report)をはじめ、各国政府や国際機関も幸福やウェルビーイングを政策評価に取り入れるようになっています

つまり幸福研究は、一部の学者だけの関心ではなく、「社会をどう設計すれば人々が生きやすくなるのか」を考えるための基礎データとして、かなり広く使われている分野なのです。

ここで重要なのは、幸福が単一の感情や状態ではないという点です。

たとえば、昨日は楽しく過ごせたとしても、人生全体には満足していない人がいます。逆に、日々は忙しく大変でも、「人生としては悪くない」と感じている人もいます。

このため幸福研究では、「その日の感情」と「人生全体の評価」を区別して扱うことが多くなっています。

ところが、男女差を扱った研究の中には、こうした違いを十分に切り分けず、限られた指標だけで結論を出してきたものも少なくありませんでした。

また、欧米の国々を中心としたデータに偏り、世界全体の傾向を見渡しにくいという問題も指摘されてきました。

こうした背景から行われたのが、今回の研究です。

アメリカのハーバード大学のティム・ローマス(Tim Lomas)氏は、「男性と女性は、幸福のどの部分で差が出ているのか」を、より広い視点から整理する必要があると考えました。それは政策立案者がどこに焦点を当てて支援するべきかを考える重要な指標になるはずです。

そこで今回の研究では、幸福を1つの質問で測るのではなく、人生の評価、日々の感情、生活の質といった複数の側面に分け、世界規模のデータを用いて男女差を比較することを目指しました。

このアプローチによって、「どちらが幸せか」という単純な問いではなく、「どの側面で差が生まれ、どこでは生まれにくいのか」を明らかにしようとしたのです。

世界142か国、約39万人の回答を「31項目」で比較

分析に使われたのは、ギャラップ・ワールド・ポール(Gallup World Poll)という国際調査の2020〜2022年データで、142か国の計391,656人分です。

研究者はこのデータから、幸福に関係する31項目を選び、男女で平均や割合がどれくらい違うかをまとめました。

31項目は、大きく分けると次の3層です。

1つ目は「人生の採点」です。

これは人生全体を何点くらいと感じるかを問うものです。

2つ目は「昨日の体験や感情」です。

「よく休めたか」「楽しさを感じたか」「ストレスや心配があったか」といった、短期のコンディションに近い質問が並びます。

3つ目は「生活の質」です。

「食べ物や住まいに困らないか」「治安をどう感じるか」「仕事の選択の自由があるか」など、日々の基盤に関わる項目です。

「男性が多くの項目で良好」だったのに「人生の点数は女性の方が高い」

全31項目のうち、男性のほうが良い値だった項目は21、女性が10でした。

男性が高かった側には、日常の体調や気分を尋ねた項目が多く含まれます。それは例えば「よく休めた」「新しいことを学んだ」「楽しさを感じた」といった内容です。

一方で女性が良好と答えた10項目には、扱われ方や頼れる人間関係、周囲との調和に関するものが目立ちました。これは例えば「昨日、敬意を持って扱われた」「困ったとき頼れる親族や友人がいる」「周囲の人とうまく折り合えている感覚」といった質問です。

そして一番の興味深い点が、人生全体を採点する「人生の評価(life evaluation)」では女性が上回ったことです。

毎日の感情や安心感、生活の余裕など多くの項目で男性の方が評価は上回っていたのに、人生の全体の評価は女性のほうが高かったのです。

つまり、男性は「日常生活における実感では満足度が高い」のに、「人生は不満」な人が多く、逆に女性は、「日々の満足度は低い」のに「人生は幸せ」と評価する人が多かったのです。

このズレは「人が自分の人生を評価するとき、どの要素がより重要なのか」という疑問の答えを示している可能性があります。

では、奇妙な男女のこのねじれはどこから生まれるのでしょうか?

なぜ「日々の実感」と「人生の採点」が食い違うのか

ここまで見てきたねじれは、「幸福」という言葉が、実は複数の別々な問いをまとめた呼び名だから起きた可能性があります。

人は「昨日ストレスが少なかったか」と聞かれると、その日の体調や出来事を思い出して答えます。

一方で「人生を何点と感じるか」と聞かれると、今日の気分だけではなく、将来への見通しや、周囲との関係、納得感のような少し大きな基準が入り込みやすくなります。

では、人生の採点を左右する要素のうち、男女で差が出やすいものはどこなのでしょうか。

先ほども述べたように論文では、女性が相対的に良かった項目として、敬意をもって扱われたか、困ったとき頼れる人がいるか、周囲と上手くやれているかが挙げられています。

つまり人間関係に関しては女性の方が良好という評価が多かったのです。

論文は、こうした社会的なつながりが幸福感に強く関係するという先行研究が多いことを踏まえ、女性が人生評価で高くなった可能性を指摘しています。

言い換えると、男性が良好と答えた多くの項目は、人生全体の幸福感には影響が少なく、逆に人間関係など女性が良好と答えた項目は人生全体の評価に影響が大きいため、総合点が逆転したと考えられるのです。

ただ、ここで重要なのは、「どの項目が重要か」は人や社会の状況によって変わり得るという点です。

「性別の差」は世界で一枚岩ではない

南アジアは男性が相対的に良い地域として目立ち、東アジアは女性が相対的に良い地域として目立ちました。

論文は、性差を「生物学的な違いだけ」で説明するのではなく、社会の仕組みや文化的条件が強く影響し得ることを示す材料として、この地域差を位置づけています。

たとえばアフガニスタンでは、男性が全指標で女性を上回っていたと紹介されています。

逆にアイスランドのように男女平等の指標が高い国では、女性が男性を上回る項目も見られ、国ごとの条件で結果が変わる可能性が示唆されます。

ここまで来ると、「男女のどちらが幸せか」を単独の答えとして求めるより、「どんな社会条件だと差が縮むのか」を問うほうが建設的に見えてきます。

年齢や学歴、収入でも傾向は変わる

この研究は、性別だけでなく、年齢や教育、収入との組み合わせでも結果が変化する点を示しています。

ここで興味深い点は、年齢が上がるほど多くの項目で、男性が良好な評価を下す傾向が広がったことです。

また、教育水準や収入が高いと、女性でも評価が良くなる項目が多く確認されました。

この結果も、「性別の違い」そのものよりも、「環境の違い」の影響が大きいことを示しています。

そのため、今回の研究は31項目の質問を分析していますが、別の質問を追加すれば、さらに異なる傾向が見えてくる可能性があると研究者は述べています。

また、今回のデータからは傾向を分析できても、「何が原因でそうなったか」までを明らかにすることはできません。

こうした点で、幸福感や人生の充実に関する男女差を調べた研究ではありますが、男女差についてどこまで言えるかには限界があります。

それでも女性が日常で人間関係を重視しがちなこと、そしてその満足感によって男性より人生の評価が高くなりやすいというのは興味深い結果だと言えるでしょう。

参考文献

Harvard scientist reveals a surprising split in psychological well-being between the sexes

Harvard scientist reveals a surprising split in psychological well-being between the sexes
https://www.psypost.org/harvard-scientist-reveals-a-surprising-split-in-psychological-well-being-between-the-sexes/

元論文

Global sex-based wellbeing differences in the Gallup World Poll: males do better on more metrics, but females generally do better on those that may matter most
https://doi.org/10.1080/17439760.2025.2587059

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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