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足と首がちぐはぐな場所から伸びて…〈修学旅行〉旅館のトイレで遭遇した"アレ"の正体とは?

  • 2025.12.27
写真はイメージです。©アフロ

なぜ幽霊は「髪の長い女性」なのか、なぜ「ビデオ」が呪いを伝播させるのか。

気鋭の映画研究者がジェンダー/メディアの観点でJホラーの本質を緻密に分析する『Jホラーの核心:女性、フェイク、呪いのビデオ』(ハヤカワ新書)を一部抜粋してお届けします。

ここで紹介するのは『怪談新耳袋』。いきなり始まり、いきなり終わる恐怖の物語とは……。(全2回の1回目)


説明不可能な怪異

『怪談新耳袋』は、木原浩勝と中山市朗によって蒐集された実話怪談集『新耳袋』〔扶桑社、1990年。メディアファクトリー、1998年~。角川書店、2002年~〕を原作とする映像作品シリーズである。

2003年から2010年にかけてテレビシリーズやスペシャル版、劇場版が放送・公開されたほか、ライターのギンティ小林をはじめ、木原や中山、映画監督の清水崇などが心霊スポットを訪れるスピンオフ作品『怪談新耳袋 殴り込み!』シリーズなども発売された。

最新作は、シリーズ開始から二十周年の節目となる2023年に放送された『怪談新耳袋 暗黒』である。

写真はイメージです。©Tomoharu_photography イメージマート

『怪談新耳袋』シリーズではテレビシリーズをはじめ、オムニバス形式で構成される作品の場合、収録されるドラマは一篇につき5分(初めての劇場版『怪談新耳袋 劇場版』〔2004年、監督:三宅隆太ほか〕は10~15分程度)であるため、怪奇現象の原因やその体験の結末が明確にならない話も数多く存在する。

しかも、第1シリーズから第4シリーズにおいては一日につき一篇のみが放送されていたため、番組の放送時間はわずか5分であった。視聴者は『怪談新耳袋』を通して、いきなり始まり、いきなり終わる恐怖の物語(中には面白おかしい話、不思議な話もあるのだが)と邂逅するのである。

この「邂逅」感、言い換えれば、視聴者自身が説明不可能な怪異と出くわしてしまったかのような感覚こそ、『怪談新耳袋』の最も恐ろしい特徴だと言える。

トイレのドアがひとりでに開いて……

写真はイメージです。©アフロ

『怪談新耳袋』の「邂逅」感の極致とも言える作品を、いくつか挙げておこう。

まずひとつめは、2003年に放送された第一シリーズの一篇「修学旅行」〔監督:三宅隆太〕である。

修学旅行である旅館に宿泊した語り手の少女・チアキ〔演:栗田梨子〕は、旅館の化粧室にリップクリームを忘れてきてしまう。

写真はイメージです。©アフロ

彼女が慌てて取りに戻ると、真っ暗な化粧室内でトイレの個室のドアがひとりでに開く。

チアキはドアを閉めてその場を立ち去ろうとするが、彼女の背後で再びドアが開く音が聞こえる。

もう一度ドアを閉めようとすると、何かがつっかえているかのようにドアが閉まらない。

チアキがふと視線を上げると、個室の中から白い手がドアをつかんでいるのが見える。

写真はイメージです。©アフロ

チアキが飛びのくと、ドアがゆっくりと開き、個室内から女性幽霊の足と首がすっと伸びてくる(女性幽霊のパーツは、手はドア上部、足はドアの真ん中ぐらいの高さ、首はドア下部と、それぞれちぐはぐな場所から伸びてくる)。

逃げ出そうとするチアキだが、化粧室のドアが開かない。

迫りくる幽霊に絶叫すると、化粧室の電気がつき、幽霊の姿は消えていた。

女性が出てきた個室をあらために行くと、そこには何もいない。

ほっとしたのもつかの間、ドアの影に……

写真はイメージです。©アフロ

カメラはそこにたたずむ着物姿の女性をズームで映し、チアキの絶叫が響いて物語は終わる。

「修学旅行」は、「ほっとしたのもつかの間」というある意味定番の展開でありながらも、女性幽霊が明るい空間に再び姿を現したところで終わってしまうため(しかも、カメラは高速で女性幽霊に寄る)、この幽霊が何者なのか、チアキは無事なのか、何ひとつ説明されることはない。

出会いがしらの事故のような衝撃のまま、深夜、観客はテレビの前で呆然とするほかないのである。

わずか5分の超短篇ドラマの中で、弛緩(物語の始まり。明るく日常的な場面)→緊張(ひとりでトイレに戻る。ドアが開く)→弛緩(ドアを閉める)→緊張(ドアが再び開く)と、これでもかとばかりに観客の心を揺さぶってくる傑作と言えよう。

Jホラーの核心: 女性、フェイク、呪いのビデオ (ハヤカワ新書)

定価 1,210円(税込)
早川書房

文=鈴木潤

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