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「普通の家族」って何? 平凡だったはずの家族の形が少しずつ歪んでいく――「家族のあり方」を揺るがすコミックエッセイ『わたしは家族がわからない』【書評】

  • 2025.12.26

【漫画】本編を読む

「普通」という言葉ほど、人を縛るものはないのかもしれない。

『わたしは家族がわからない』(やまもとりえ/KADOKAWA)は、「普通」だったはずの3人家族の平穏な日常が少しずつ変容していく過程を、父、母、娘それぞれの視点から描いた作品だ。

役所勤めで真面目な父、「普通がいちばん」が口癖のパート勤めの母、そして元気いっぱいの保育園児の娘。大きな問題もなく、平凡で安定した家庭。しかし、ある日突然、理由も告げぬまま父は姿を消し、そして1週間後、何事もなかったかのように帰宅する。その出来事は家族の中で深く掘り下げられることもなく、母によって「なかったこと」にされた。

数年後、中学生になった娘は、父親が自宅から離れた駅で何度も目撃されていることをクラスメイトから聞かされる。違和感を覚えた娘は父を待ち伏せし、幼い頃の曖昧な記憶――大好きだった父が家に帰ってこなかったあの1週間と、現在の父の不可解な行動とを重ね合わせていく。父はいったい何を隠しているのか。あの日、家族に何が起きていたのか……。

しかし本作は、失踪した出来事そのものよりも、「普通でいるために、問うことを飲み込んできた家族」に焦点を当てている。波風を立てないために見て見ぬふりをし、家庭を壊さないために疑問を抱えたまま暮らす。その積み重ねが、家族の形を静かに、そして確実に歪ませていく過程が淡々と描かれていく。物語の終わり方は、受け取る側の価値観によって、印象が大きく変わるだろう。

タイトルの「家族がわからない」という言葉は、家族という関係について問いかけてくる。わかり合えないことが悪ではなく、わかり合えている「ふり」を続けることの危うさ。本作はその事実を過剰な感情表現に頼ることなく、読者の心へ深く刻み込む。

文=ゆくり

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