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ポーランドの名所を巡る旅へ!『旅の終わりのたからもの』ちぐはぐな父と娘の心に響くロードムービーの舞台

  • 2025.12.26

民主国家としての土台を築く激動の時代であった1991年のポーランドを舞台に、ちぐはぐな父と娘が家族の歴史を辿る旅路を、ユーモラスかつ温かく描いた異色のロードムービー『旅の終わりのたからもの』(2026年1月16日公開)。本作に登場する、ポーランドの様々な名所を一挙、ご紹介!

【写真を見る】ルーシーとエデクが落ち合う“旅の出発点”となるオケンチェ空港(現:ワルシャワ・ショパン空港)

第74回ベルリン国際映画祭ベルリン・スペシャル・ガラ作品、トライベッカ映画祭2024インターナショナル・ナラティブ・コンペティション作品である本作 [c]2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS
第74回ベルリン国際映画祭ベルリン・スペシャル・ガラ作品、トライベッカ映画祭2024インターナショナル・ナラティブ・コンペティション作品である本作 [c]2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS

本作の主人公は、NYで生まれ育ち成功するも、どこか満たされない娘ルーシーと、ホロコーストを生き抜き約50年ぶりに祖国ポーランドへ戻った父エデクの親子だ。家族の歴史を辿ろうと躍起になる神経質なルーシーと、娘が綿密に練った計画をぶち壊していく奔放なエデク。ちぐはぐな親子がポーランドのいろいろな歴史遺産を巡り、悲惨な過去と痛ましい現実に向き合いながら、2人だけの“たからもの”を見つける珍道中を描く、笑って泣けて心温まる今冬必見の1本である。

メガホンをとったのは、ドイツ出身のユリア・フォン・ハインツ。彼女が16歳の頃にリリー・ブレットの「Too Many Men」を読んだことがきっかけで、今回の映画が実現した。舞台となるのは、まだ戦争の傷が色濃く残る1991年のポーランド。ルーシーとエデクの旅路に登場する歴史遺産を含む名所を辿ることで、ポーランド旅行をしているような気分も楽しんでいただきたい作品だ。

オケンチェ空港(現:ワルシャワ・ショパン空港)

【写真を見る】ルーシーとエデクが落ち合う“旅の出発点”となるオケンチェ空港(現:ワルシャワ・ショパン空港) [c]2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS
【写真を見る】ルーシーとエデクが落ち合う“旅の出発点”となるオケンチェ空港(現:ワルシャワ・ショパン空港) [c]2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS

1934年に開業し、第二次世界大戦中にはナチス・ドイツ占領下で軍事拠点として運用され、占領体制を支える重要な役割を担った。1989年の冷戦終結を機に新ターミナル建設が始まり、1992年に運用開始。旧来の空気と新しい時代の気配が共存し、旅の出発点として独特の緊張感と期待が漂っていた。2001年に作曲家ショパンの名を冠し現在の名称となった。

ここは、別々の便でワルシャワに到着したルーシーとエデクが落ち合う“旅の出発点”となる。到着早々、列車に乗ろうと切符を買ったルーシーをおきざりにし、空港で出会ったばかりのタクシー運転手の車を貸切る自由奔放なエデク。早くも噛み合わないやり取りが続き、波乱の旅路の始まりを予感させる。

ワルシャワ・ゲットー

ルーシーに「ゲットーの壁を見に行こう」と提案するエデク [c]2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS
ルーシーに「ゲットーの壁を見に行こう」と提案するエデク [c]2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS

1940年、ナチス・ドイツ占領下のワルシャワ中心部にユダヤ人隔離地区が設置され、高い壁やバリケードで外界から遮断された。最大約40万人が強制収容され、飢餓や病気が蔓延する極めて過酷な環境に追い込まれた。1943年には武装抵抗となるワルシャワ・ゲットー蜂起が起き、地区は破壊され、戦後には消滅した。1990年代の街には点在する痕跡が静かに過去を伝え、変わりゆく都市の中で記憶と向き合う場となっていた。

両親の故郷ウッチに行きたいルーシーを無視して、「ゲットーの壁を見に行こう」と提案するエデク。ところが、訪れた現地には記念碑も看板もない。探し求めた“壁”はどこにも見当たらず、ルーシーの胸の奥では、静かな苛立ちが積み重なっていく。

フレデリック・ショパン博物館

世界的な作曲家の生涯を伝える国立施設フレデリック・ショパン博物館を訪れた2人 [c]2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS
世界的な作曲家の生涯を伝える国立施設フレデリック・ショパン博物館を訪れた2人 [c]2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS

戦後、作曲家フレデリック・ショパンの生涯を伝える国立施設として、オストログスキ宮殿を拠点とし再建された。資料が整えられていく過程そのものが文化復興を象徴し、静かなバロック建築の空間に音楽と歴史が交差するこの場所は、戦争と迫害の記憶を抱える都市において、芸術と人間の精神の力を示す場として、現在も世界中の人々に希望と文化の価値を伝えている。

ルーシーが綿密に練った計画を無視し、エデクはポーランド各地の観光地へと彼女を連れ回す。その奔放な行動にとうとう堪忍袋の緒が切れたルーシーを見て、エデクは渋々ながらウッチへ向かうことを受け入れる。

ウッチ

ウッチを訪れたルーシーは、戦前の家族の記憶に初めて触れる [c]2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS
ウッチを訪れたルーシーは、戦前の家族の記憶に初めて触れる [c]2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS

ポーランド中部に位置し、19世紀に繊維産業で発展した都市だ。第二次世界大戦下にはウッチ・ゲットーが設置され、約16万人のユダヤ人が過酷な隔離生活を強いられ、やがて絶滅収容所へ送られた。戦後は、荒廃の記憶を抱えながらも、国立映画大学が設立されるなど映画や芸術の中心地として再生し、歴史的建築を活かした文化施設が整備された。痛ましい過去と共に、創造の力が息づく都市である。

エデクや母の思い出が詰まった街で、ルーシーは、戦前の家族の記憶に初めて触れる。かつて家族と暮らした家の外観だけ眺めて帰ろうとするエデクだったが、ルーシーは「私はこのために来た」と言い、ドアをノックしてしまう。

アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所

アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所。エデクが初めて打ち明ける壮絶な記憶とは… [c]2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS
アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所。エデクが初めて打ち明ける壮絶な記憶とは… [c]2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS

1940年にポーランド南部に設置されたナチス最大の絶滅収容所。欧州各地から多数のユダヤ人が強制移送された。多くは到着直後に殺害され、収容生活の過酷さによって命を奪われた。ビルケナウには巨大なガス室と焼却炉が設けられ、犠牲者は110万人以上に上るとされる。戦後は記念施設として整備され、草地の広がる跡地に倒壊したガス室や焼却炉、鉄条網や監視塔が残されている。

これまで決して語ろうとしなかった、深く刻まれた痛ましい記憶を、エデクがいま初めて打ち明ける。その壮絶な家族の記憶の一端を聞いたルーシーは、言葉を失う。やがて旅が終わりを迎えるとき、2人が見つけた“たからもの”とは?ぜひ映画館で確かめていただきたい。

文/山崎伸子

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