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購入商品の写真をAIで加工、粗悪品として返金を求める詐欺が横行【中国】

  • 2025.12.26
AI加工で粗悪品だと騙し、返金を要求する詐欺 / Credit:Canva

多くの国で、ネットショッピングで届いた商品に不備があった場合には、返品や返金が可能です。

しかし、その「購入者保護」の仕組みを逆手に取った詐欺行為が、いま中国で深刻な問題になっています。

中国では近年、人工知能(AI)を使って商品写真を劣化したように加工し、「壊れて届いた」と偽って返金を求める行為が相次いで報告されています。

果物や衣類、日用品まで幅広い商品が対象となっており、出品者だけでなく、電子商取引(EC)プラットフォーム全体の信頼性を揺るがす事態となっています。

目次

  • 中国で、届いた商品の写真をAIで加工し、粗悪品として返金を求める詐欺が横行
  • AI詐欺による対策は進んでいるのか?AI時代の相互不信の構図とは?

中国で、届いた商品の写真をAIで加工し、粗悪品として返金を求める詐欺が横行

今回問題になっている詐欺の最大の特徴は、商品そのものではなく、「証拠写真」が偽造されている点にあります。

実際には問題のない商品を撮影し、その画像にAI処理を加えることで、「不良品・粗悪品が届いた」ように見せかけるのです。

たとえば、届いたばかりの果物の写真を撮影し、AIに指示してカビが生えているように加工するケースが報告されています。

新品の電動歯ブラシを、金属部分が錆びているように見せる画像をAIで生成した例もあります。

また、ワンピースの襟元がほつれているような写真や、割れていない陶器のマグカップにヒビを加えた画像も確認されています。

これらはいずれも、実際に起きていても不思議ではない問題を自然に再現している点が共通しています。

そのため、一見しただけでは本物との区別が難しく、出品者側が不正を証明するのは容易ではありません。

こうした詐欺が広がった背景には、中国のネット通販で広く利用されてきた「返品不要・返金のみ」の制度があります。

中国のECプラットフォームでは、商品に問題があると主張された場合、写真や動画を証拠として提出すれば、商品を返送しなくても返金が認められる仕組みが活用されていました。

この制度は、購入者の利便性を高め、トラブルを迅速に解決する目的で導入されてきました。

しかし、証拠が画像だけで成立するという条件は、AI技術の発達によって大きな弱点となったのです。

写真を偽造できてしまえば、実際に商品を受け取りつつ、不正な返金請求が成立してしまうからです。

さらに中国のECでは以前から、安価な商品を購入し、些細な欠点を理由に返金だけを要求する常習者が存在していました。

こうした人々は俗に「羊毛党」と呼ばれており、AIはこの行為をより簡単に、より巧妙に、より大量に行えるようにしてしまいました。

その結果、特に果物店などの小さなショップから、同様の被害を訴える声が相次いでいるのです。

では、AI時代に特有のこの問題にどうやって対処できるでしょうか。

AI詐欺による対策は進んでいるのか?AI時代の相互不信の構図とは?

一部の出品者は、提出された写真の不自然さから不正に気づいています。

照明の当たり方が一部分だけ異なっていたり、商品の輪郭が歪んでいたり、縁の処理が不自然だったりと、AI生成画像に特有の痕跡が見つかる場合があります。

実際にAI画像検出ツールを使用した結果、提出された写真が92%の確率でAI生成と判定された事例も報告されています。

ただし、AI検出の精度は完全ではなく、判定結果だけで返金請求を否定することは難しいのが現状です。

こうした中で注目されているのが、出品者が購入者に動画の提出を求める対応です。

静止画はAIで容易に加工できますが、商品全体や破損箇所を連続した動きの中で自然に映す動画を偽造する難易度は、現時点では大きく跳ね上がります。

実際、動画の提出を求めた途端、購入者が返金請求を取り下げたケースも報告されており、動画要求は現実的な抑止策と考えられています。

さらに制度面でも動きが始まっています。

中国の大手ECプラットフォームでは、「返品不要・返金のみ」というオプションを見直す動きが出てきました。

また、購入履歴や返金履歴をもとに、購入者の信用度を評価する仕組みも導入されています。

さらに中国は、AI生成画像などをめぐる不正利用の増加を受けて、2025年9月1日から、AIで生成した画像や動画にはラベルを付けることが求められるようになりました。

法律の専門家は、AI生成画像を使って返金を得る行為は詐欺に該当する可能性があると指摘しています。

中国のネット上でも、「モラルの問題では済まされない」「悪質な利用者は永久に排除すべきだ」といった厳しい意見が目立っています。

この問題が示しているのは、AIそのものが新しい悪意を生み出したというより、もともとあった仕組みの弱い部分がAIによってはっきり見えてきた、という点です。

しかも皮肉なことに、売り手はAIで商品写真を美しく加工し、買い手はAIで商品を劣化させるという、相互不信の構図も生まれつつあります。

写真を証拠として信頼してきた仕組みは、AI時代に入り根本から揺さぶられています。

中国で起きているこの問題は、ネット通販に限らず、画像を根拠に判断する社会全体が直面する課題を突きつけているのかもしれません。

参考文献

China consumers use AI to alter product photos, claim refunds for goods that appear damaged
https://www.scmp.com/news/people-culture/trending-china/article/3334109/china-consumers-use-ai-alter-product-photos-claim-refunds-goods-appear-damaged

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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