「は？有給の理由は？」プライベートを詮索する課長。だが、近くにいた先輩の一言で状況が一変【短編小説】

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

「は？有給の理由は？『私用』じゃ全然わからないんだけど」

デスク越しに響く課長の不機嫌な声。私が差し出した有給休暇の申請書を指さしながら、課長は私を鋭く睨みつけました。

休暇の目的は大好きなアーティストのライブ。

しかし、正直に言えば「遊びのために休むのか」と嫌味を言われるのは目に見えています。会社規定では「私事」で通るはずですが、課長はさらに身を乗り出し、「デートか？法事か？はっきり言わないと許可できない」と執拗に追及を続けます。

周囲の同僚が関わりを避けて下を向く中、私はプライベートを根掘り葉掘り聞かれる苦痛に、ただ俯くしかありませんでした。

その時、隣のデスクで作業をしていた先輩が静かに口を開きました。

「課長、それ以上はコンプライアンス違反ですよ」

一瞬たじろぐ課長に対し、先輩は椅子を回転させて言いました。

「有給の取得に理由は不要です。本人が拒む私生活を詮索するのはパワーハラスメントに該当します。今のやり取り、記録に残しておきましょうか？」

さらに先輩は冷静に言葉を重ねました。

「ちなみに先週、課長が『急用』と称して休まれた日、ゴルフ場での目撃情報が届いています。自分の理由は伏せて部下にだけ強要するのは筋が通りませんね」

ぐうの音も出ない課長は金魚のように口をパクパクさせ、最後には「……わかった、もういい。許可する」と吐き捨てました。

力任せにハンコを押し、逃げるように自席へ戻っていく背中。周囲からは小さな笑い声が漏れました。

私が小声でお礼を伝えると、先輩は少しだけ目元を緩め、「せっかくの有給なんだから、しっかりリフレッシュしてきなよ」と短く返してくれました。

この日を境に課長の過剰な詮索はピタリと止まり、職場の空気は驚くほど軽やかになったのです。

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