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12月25日から続編開始!漫画家の竹本泉さんに『アポカリプスホテル』コミカライズ裏話と、作家生活44年の創作の引き出しについて聞いた【インタビュー】

  • 2025.12.25

終末の地球で生き延びていたのは、ホテルを運営しながら人類の帰りを待つロボットたちだった——。そんな世界を描いて話題となったオリジナルTVアニメ『アポカリプスホテル』。その傍ら、アニメの放送を追う形で、本作のキャラクター原案を務めた漫画家の竹本泉さんによって描かれたのが、コミカライズ版『アポカリプスホテルぷすぷす』(竹書房)です。

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『アポカリプスホテルぷすぷす』©アポカリプスホテル製作委員会/竹本泉・竹書房
『アポカリプスホテルぷすぷす』©アポカリプスホテル製作委員会/竹本泉・竹書房

アニメと同じ世界観の中で展開するのは、映像では描かれなかった別軸のキャラクターたちの日常。アニメと連動しつつ、さらに作品への没入感が深まるような展開に「アニメとは別の楽しさがある」「毎回読みたい」との声が続出。12月25日から始まる続編連載『アポカリプスホテルかりかり』(竹コミ!)を前に、作者の竹本さんにキャラ原案の裏話や続編の構想を聞きました。

「変な性格」のヤチヨのイメージを漫画に落とし込んだ

『アポカリプスホテルぷすぷす』©アポカリプスホテル製作委員会/竹本泉・竹書房
『アポカリプスホテルぷすぷす』©アポカリプスホテル製作委員会/竹本泉・竹書房

——TVアニメ『アポカリプスホテル』のキャラクター原案では何体ほど描かれたのですか?

竹本泉さん(以下、竹本):10体と少しくらいです。依頼されたのが5年くらい前で、その時は設定にも余白も多かったので、主人公のロボット(ヤチヨ)は男の子バージョンや大人バージョンなど複数描きました。あとはタヌキ星人と、オーナーまわり、宇宙人は触手(5話)とハルマゲ(6話)。今回は登場しませんでしたが、吸血鬼の女の子(漫画には登場)や植物(ユーグレナ)の女の子も、設定が決まっていなかったので、思いつく限り、何パターンか描きました。機械関係はほとんど描いていません。どんな構造でどうやって動くのかわからないので、想像がつかないものを描くのは難しいですね。

——主人公のヤチヨは、アニメでは感情豊かですが、『ぷすぷす』では捉えどころのないマイペースなイメージ。普段はこういう性格なのかも…と想像を膨らませるのが楽しかったです。

竹本:脚本を読んだ時、もしかしたら変な性格なんじゃないかと思い、声の入ったムービーを見たら「やっぱりそうだ」と実感しました。その時点ではもうキャラクター原案の仕事がほぼ終わっているので、「変なヤチヨ」のイメージは漫画に反映されています。アニメを観たら、そこでもまた違った感じになっていましたけど、それほどズレてもいないからいいかなと。

オリジナルTVアニメ『アポカリプスホテル』©アポカリプスホテル製作委員会
オリジナルTVアニメ『アポカリプスホテル』©アポカリプスホテル製作委員会
オリジナルTVアニメ『アポカリプスホテル』©アポカリプスホテル製作委員会
オリジナルTVアニメ『アポカリプスホテル』©アポカリプスホテル製作委員会

——漫画には「初期ロボ子さん(名前はまだない)」と「最終デザインに近いロボ子さん」としてヤチヨが登場しますが、段階的にデザインが変化したのでしょうか。

竹本:最初は細かい指定がなかったため、どうとでも変えられるように元気な女の子風にしました。途中で職場がちょっと豪華なホテルに変わったので、制服が豪華になりましたが、本人自体はほぼ変わっていません。三つ編みにしたのは、しばらく三つ編みを描いてなかったので(笑)。ロボットだし、アニメで髪がグネグネ動いたら楽しいのではと思いましたが、制作側は動かすのが大変だったようです(笑)。シルエットになった時に主人公だとわかりやすいかな、というのもありました。

——ヤチヨ以外も、愛着の湧くキャラクターばかりでした。キャラクターを考える時に大切にされていることは?

竹本:あまり何も考えてないんですよ(笑)。直近で描いていないようなデザインを入れることが多いので、それが相手の要望と合った場合は、そのまま使われますね。基本的には、自分でも気分が乗るようなデザインをしています。「アホ毛がたくさん出ている」みたいな細かい指定があると、これはどうなんだろうと思いながら描くかもしれませんが、幸いなことに、そういうことはまだないです。

終末が来てもなんとかなるんじゃないか

——キャラクターたちがアニメで動くのを見て、いかがでしたか?

竹本:褒めどころを悩むようなこともなく、とても面白い作品で良かったなと思います。殺人事件の話(10話)なんていいのか!? と思いながらも、いちばん記憶に焼きついています。そうか、ホテルだから、殺人事件もあるかもしれないなと…(笑)。

キャラクターで言うとみんな好きですけど、オーナーは怪しさ満点でいいキャラでしたね。びっくりしたのは、ポン子ちゃんの弟のフグリくん。大人の設定はアニメオリジナルだったので、こんな風になったんだ…と笑いました(笑)。

オリジナルTVアニメ『アポカリプスホテル』©アポカリプスホテル製作委員会
オリジナルTVアニメ『アポカリプスホテル』©アポカリプスホテル製作委員会

——元が可愛かっただけに(笑)。視聴者も同じ感想だと思います。本書のあとがきで、アニメをもとに漫画を描くスタイルを「アニメの同人誌」と表現されていますが、コミカライズ独自の展開があって読み応えがありました。

竹本:描いていても楽しかったですね。本編のストーリーを描くのではなく、ストーリーの隙間を埋めるような漫画を描くわけですから。昔よく、ゲームのコミカライズで4コマの漫画本がたくさん売られていたんですが、それと似たパターンだと思いました。読んだ人たちのコメントを観ると、アニメは観るけど漫画は買わない人たちも読んでくれたような気がします。アニメありきの同人誌なので、普通のコミックスよりも読みやすかったのかもしれません。他のアニメでもこういう漫画があれば、もっとたくさん買うのに…と思いました(笑)。

——終末の世界に振り回されることなく、ヤチヨたちが変わらぬ日常を送る世界にほのぼのとします。昨今の世情は複雑なので自分自身の日常ともクロスオーバーして、オアシスのような世界観に安心感を抱きました。

竹本:私の幼少期は1960年代で、10代の頃が1970年代。鉄腕アトムではないですが、科学があればなんとかなるよねっていう時代に育ったんです。今でもそう思い続けているので、パンデミックが来ても、終末が来ても、なんとかなるんじゃないかという気持ちで描いているような気がします。主人公は主観で行動していますが、その主観で行動している主人公を客観的に見て動かしている感じです。

——そういう想いがあるからこそ、読んでいるほうも終末的な世界を見ながらも明るい気持ちになれるというか、希望を持てるのかもしれません。12月25日から続編『アポカリプスホテルかりかり』の連載がスタートしますが、今後の構想は?

竹本:基本的に『ぷすぷす』と同じです。アニメありきで、話数ごとに「ここはどうなっているの?」という隙間を差し込んでいくような作り方です。今回も12話分、こんなバカなことをしてるんじゃないか…という、前回描ききれなかったことを描きます。

『アポカリプスホテルかりかり』©アポカリプスホテル製作委員会/竹本泉・竹書房
『アポカリプスホテルかりかり』©アポカリプスホテル製作委員会/竹本泉・竹書房

読者が想定しないような展開を

——竹本先生の漫画には、共感と意外性が同時にあるような気がします。漫画を描く時に大切にされていることは?

竹本:読者を選ぶような漫画ではなく、誰が読んでも読みやすい漫画を描くようにしています。SFもファンタジーも学園モノもあって、ジャンルは幅広いですが、私の漫画のどれかが読めれば、他の漫画も全部読めるように。だから、政治、宗教、野球の話題には触れないようにするといいですね(笑)。

その中で、読者が想定しないような展開を描きます。『ぷすぷす』でいえば、設定はアニメと同じだけど、展開は別物。別作品のようにも思えるけど世界観は同じ、という風に。連載は最初の立ち上げが大変ですが、設定がある程度決まったら、あとはキャラクターを動かすだけ。嫌いな性格の主人公は描かないですね。ああ、いえ、そんなことは…いや、描かないか。

——身近な描写もありつつ、想像できる範囲で予想を超えていくお話に心地よさを感じます。先生は『ぷすぷす』のように読み切り連載を得意とされていますが、アイデアが尽きないイメージがあります。

竹本:続きモノの連載ってあまりやったことがないんです。だいたい1回でちゃんと終わるような読み切り連載。主人公は同じだけど、毎回違う事件が起きてちゃんと結末を迎える。アイデアは色々と思いつくほうで、長編だと伏線の回収もあるので、思いついても使えないまま終わるアイデアもありますが、思いついたらすぐに描けるのが読み切り。アイデアをいくつか並べておいて、「前回はあんな話だったから今度はそこから離れて…」と自分で選んでいけるのは、読み切り連載の面白いところです。

——これだけ多作なのに、次々と描きたいアイデアが出てくるのが驚きです。

竹本:仕事の仕方なんですよ。たぶん長い連載をすれば、その連載のアイデアが思いつきますが、読み切りばかりだと、読み切りのことばかり考えるようになり、アイデアがどんどん出てきます。訓練だと思いますね。新人の頃はよく読み切りを描かされるのですが、30〜40ページくらいあって伏線と山が2つか3つ入るので、結構大変で、毎回頭を振り絞っていました。ページが短いと伏線も山も、だいたいひとつ。時間がかからないので、たくさん描けるんですよ。

——『ぷすぷす』も1話が8ページでした。続編はかなり先まで描かれているのでしょうか。

竹本:順調に描けているので、この先も1週間か10日に1本のペースで描きたいと思っています。今回はアニメがもとになっているので最初のアイデア出しがなく、早く描けるんです。たぶん同人誌を描いている人も、同じ感覚なのではないかな。時間がなくても冬コミには間に合わせるぞ、みたいな。

——10代の頃は小説や映画に傾倒して、その頃に触れた作品の設定を参考にした漫画もあると拝見しました。漫画家やクリエイターにとって、良作に触れるのはやはり大切なことでしょうか。

竹本:同世代の人って基本的に、触れているものが一緒なんですよ。同じようなアニメを観ていたり、同じようなゲームが流行っていたり。だから持っている知識が似ていて、展開が読めちゃうような作品になりやすい。他の人が見ないような作品に触れておくと、異質な知識がインプットされて、それが他とは違う面白い作品につながるかもしれないですね。

——異質な知識というと、先生が触れていたのはどんな作品ですか?

竹本:『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』や『スター・ウォーズ』はみんな映画館で観ていたと思いますが、私はテレビで映画を観るのが好きで、昔の映画が放送されるのを結構観ていました。ヨーロッパの古めの作品だと『陽気なドン・カミロ』(日本公開は1954年/イタリア・フランス)。主人公の神父に、教会に飾られたキリスト像が動いて話しかけてくる、みたいな妙な話なんですけど(笑)。若い頃からそういう変な作品を観てきたので、人が予想しないような設定や展開も存在するという考え方を知っていて、それが作品に反映されるんだと思います。

30年前にはなかったような表現が一般化されて楽しい

 オリジナルTVアニメ『アポカリプスホテル』©アポカリプスホテル製作委員会
オリジナルTVアニメ『アポカリプスホテル』©アポカリプスホテル製作委員会

——ちょっと変わったメディアミックスだと、原画を動かしてアニメーションにしたインタラクティブコミック『ゆみみみっくす』(1993年〜)で脚本や絵コンテを担当されていました。当時はかなり話題になり、この頃から長く先生の漫画を読んでいるファンも多いと思います。

竹本:あの時代にあの作品に携われて良かったと思います。ファンの方がついてきてくれるのも、あんなに手間のかかった、しかも当時はなかったジャンルの作品に携わったからかもしれませんね。ドットで描いた原画を1画面ごとに動かすなんて、今から考えれば「何それ」という感じだと思いますが、現場に行ったら、アニメスタジオのようにスタッフがガーッと並んで原画を描いていて。これはすごいことになっているなと当時は思いました。

最初は普通のアドベンチャーゲームでしたが、制作側が凝り性で、「ここはアニメにしましょう」とアニメを増やしていったら、「せっかくだから全画面アニメに」というとんでもない意見が出てきて。でも、よく考えれば漫画の仕事と同じです。脚本や絵コンテは、漫画でいえばネームなので。忙しかったですが、描きたいことを全部描けたので、漫画家としては理想的な作品だったし、周りの漫画家さんからも「あれはいいゲームだったよね」と言われます。

——まだ見ぬものを作るというエネルギーは人を動かすなと思います。他にも、あの時代にこの作品を描いて良かった、という作品はありますか?

竹本:これまでも、まだないものを作りたいという想いで描いてきたので、早めにやっておいて良かったという作品は結構多いですね。『さよりなパラレル』(竹書房)はパラレルワールドを描いた漫画。昔は今のようにパラレルワールドの概念が一般的でなく、海外SF小説を読んでいたら突然出てきて、どういうことなんだろうと頭を使いながら読んでいたので、そういう言葉が一般的になるのは楽しいことですね。自分の作品に出す時も、解説を入れていましたが今はもう多くの人が認識している。世界線っていう言葉が最初に出てきた時も、最初に小説で知ったのが「インド・ヨーロッパ線世界」みたいな表現だったので、これはわかりやすくて使いやすい言葉が出てきたと思いました。30年前にはなかったような表現が今は山のようにあるので、便利になったなと。

——続編『アポカリプスホテルかりかり』の展開も楽しみにしています。

竹本:アニメのスタッフはたぶん次の作品に取り掛かっていると思いますが、そんな中、ひとりで教室に残って追試をしているような気持ちです(笑)。引き続き、応援していただけたら、と思います。うじゃ

『アポカリプスホテルかりかり』©アポカリプスホテル製作委員会/竹本泉・竹書房
『アポカリプスホテルかりかり』©アポカリプスホテル製作委員会/竹本泉・竹書房

取材・文=吉田あき

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