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「相手が誰か」でクリトリス刺激の“期待値”が変わる

  • 2025.12.25
Credit:Canva

思ったよりも深い話です。

アメリカのラトガース大学(Rutgers)で行われた研究によって、想定するセックスによってクリトリス(陰核)への刺激が「どれくらい入るか」や、オーガズム(性的絶頂)が「どれくらい起きそうか」という期待値が大きく変わることが示されました。

加えてこの研究が面白いのは、オーガズムを相手の能力の話に閉じ込めず、私たちが無自覚に持っている性行為展開の台本の設計問題として切り出した点にもあります。

キスをして、いちゃいちゃして、そのあと性交へ――という流れは、あまりにも“それっぽい”ため、私たちはそれを自然な展開だと思いがちです。

しかし新たな研究は私たちが無意識に思い込んでいる漠然とした「性の台本」にも大きな罠が潜んでいる可能性を示唆しています。

研究内容の詳細は2025年6月17日に『Archives of Sexual Behavior』にて発表されました。

目次

  • 女性がオーガズムしにくいのは、そもそも「性の台本」に問題がある
  • ぼんやりと描く性行為の「自然な展開」が危ない

女性がオーガズムしにくいのは、そもそも「性の台本」に問題がある

女性がオーガズムしにくいのは、そもそも「性の台本」に問題がある
女性がオーガズムしにくいのは、そもそも「性の台本」に問題がある / Credit:Canva

人間は、ときどき本番より先に「結末」を予習してしまう生き物です。たとえば同じ相手でも、雰囲気や前段の会話ひとつで「今日はこうなるだろう」という見込みが頭に浮かびます。

すると体の反応や、相手への構え方まで変わってしまう。性の場面でも、この“予習”は静かに働きます。

背景には、いわゆる「性行為の進行イメージ」があります。

性行為は、その場の即興だけで走るものではなく、社会で学んだ“展開予測”に強く引っ張られる、と研究者たちは考えてきました。

実際、多くの人々の「自然な展開(台本)」では「キスをして、少しイチャイチャして、そのあとは挿入して、最後に彼が射精する」というものを思い浮かべる人も多いでしょう。

しかしその台本は本当に自然なのでしょうか?

あるいは生物学的に自然だとしても、男性の射精に加えて女性側の満足も重視した設計なのでしょうか?

残酷なことに、その答えは必ずしもYESとは言えないことを知っている人は多いでしょう。

代表的な研究例として、親しい相手との性行為で、異性愛男性はオーガズムが起きた割合が86パーセント、異性愛女性は62パーセントだった、という報告が紹介されています。

多くのカップルは自らが信じる展開(台本)になんとなく従って性行為を進行させていきますが、女性の約4割弱がオーガズムを得られないまま終わっているというわけです。

もちろん一般に生殖という観点からみて、男性の射精は重要ですが、女性のオーガズムは必須とは限りません。

しかし多くの男性が性行為で女性のオーガズムを目指しているなかで、達成率6割というのは、かなり残念な結果と言えるでしょう。

そしてこの結果は、カップル当事者の能力不足や経験不足が主要な原因だと考えるには、無理があるものです。

そこで今回研究者たちは、もっと根底にある「自然な展開(台本)」だと思い込んでいた部分に、何らかの欠陥が存在する可能性があると考え調査を行うことにしました。

ぼんやりと描く性行為の「自然な展開」が危ない

ぼんやりと描く性行為の「自然な展開」が危ない
ぼんやりと描く性行為の「自然な展開」が危ない / Credit:Canva

無意識的な台本に本当に問題があるのか?

答えを得るため研究者たちは実験を計画しました。

ただ今回の研究において、被験者たちに性行為をさせることはあまり得策ではありません。

性行為相手の顔や体系の好み、付き合った年数、その日の体調や気分、過去の経験、相手の体への理解など、実際の性行為を実験に組み込むと「自然な展開(台本)」の評価が不可能になる可能性があったからです。

たとえばある被験者Aと別の被験者Bが性行為をしてクリトリスへの刺激の期待度やオーガズムのあるなしを測定するという最も基本的な性科学実験をするとします。

しかし被験者Aと被験者Bがお互いの外見的好みに完璧に合致していた場合、台本など関係なしに「ただ満足した」という感想だけが得られます。

映画で例えるなら、台本は平凡なのに、俳優が凄すぎて映画の興行成績が抜群に良かった場合と言えるでしょう。

これでは「台本」の評価は不可能です。

そこで今回研究者たちは、シスジェンダー(出生時の性別と性自認が一致)でバイセクシャル女性に「純粋な台本」を読んでもらう手法を採用しました。

(※より正確にはバイセクシャル/パンセクシャルに区分される女性被験者でした)

台本はまず「想定する相手が女性」「想定する相手が男性」の場合が比較されました。

結果、被験者女性は相手を女性だと想定したとき「クリトリス刺激の見込み」、「自身の快感に協力してくれる見込み」「自分にオーガズムが起きそう度」の3点について、相手が男性の時よりも一貫して高い評価を行いました。

たとえば「自分がオーガズムが起きそう度」を1〜7点でみると、男性相手の平均は4.81点だったのに対して女性相手では平均5.69点になっていました。

被験者女性は「男女どちらでも付き合えるバイセクシャル」であるため、このような平均点の差は単なる性別の好みだけでは説明しにくい面がありますと筆者は見ます。

(※たとえば同じ女性同士だとクリトリス刺激を十分に行ってくれることを考慮している可能性などです)

そこで研究者たちはデータの分析を深め、男女差の出る原因を探りました。

その結果、統計分析によって「クリトリス刺激の見込み」→「自身の快感に協力してくれる見込み」→「自分にオーガズムが起きそう度」という連鎖が存在することが示されました。

次に研究者たちは「想定する相手が男性」の場合に「過去は挿入のみだった」「いつもクリトリス刺激が入る」「自分が最も確実にオーガズムに達するやり方が入る」という3パターンを台本に追加し、被験者女性に再度評価してもらいました。

すると「いつもクリトリス刺激が入る」「自分が最も確実にオーガズムに達するやり方が入る」という短い文章が台本が入っただけで、被験者女性たちの「自分にオーガズムが起きそう度」が女性相手と同レベルといえる程度まで上昇していることが明らかになりました。

過去に行われた現実ベースの研究では、オーガズムの期待(どれくらい起きそうか)は実際のオーガズム頻度と強く結びつくことが報告されています。

以上の結果は、女性のオーガズム期待は「相手が誰か」だけで決まるのではなく、性の台本も重要であることが示されました。

つまり私たちがなんとなく脳内に抱いている「性行為の台本」は「クリトリス刺激」という部分を強化する脚注を入れることで、女性側のオーガズムの「起きそう度」を上げられる可能性があるわけです。

もし性行為について考えるときがあったら、自分の「性行為の台本」がなんとなく作られたものから、相手の満足を組み込んだ改良版にアップグレードする方法を考えてみるのもいいかもしれません。

元論文

An Experimental Investigation of Sexual Scripts by Partner Gender: Anticipated Clitoral Stimulation and Partner Orgasm Pursuit Shape Women’s Orgasm Expectations
https://doi.org/10.1007/s10508-025-03169-4

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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