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放送から16年「本当に画期的すぎる」今も視聴者が語り続ける“異例のNHKドラマ”

  • 2026.2.5

歴史ドラマと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、合戦、政争、裏切り、そして英雄たちの栄枯盛衰かもしれません。勝者と敗者が明確に分かれ、物語としてのカタルシスも得やすいかもしれません。それが、いわゆる「王道の歴史劇」です。

しかし、2010年に放送されたドラマ『大仏開眼』(NHK総合)は、そうした定番の枠組みを、根底から静かに覆す作品でした。武ではなく、祈り。征服ではなく、願い。誰かを倒す物語ではなく、「信じること」に人生を捧げた人々の姿を描いていきました。国家事業としての“大仏建立”を軸に、人は何を恐れ、何にすがり、それでもなお前に進もうとしたのかを静かに問いかける。極めて異色で、同時に非常に挑戦的な歴史ドラマです。

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

あらすじ

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石原さとみ 花王新製品発表会(C)SANKEI
  • 作品名(放送局):『大仏開眼』(NHK総合)
  • 放送期間:2010年4月3日〜2010年4月10日

時代は奈良時代。聖武天皇の治世、日本列島は飢饉や疫病、政争に揺れ続けていました。人々は不安と恐怖の中で日々を生き、国家そのものが、崩れかねない危うさを抱えていた時代です。

国を守り、人々を救うため、聖武天皇(國村隼)が選んだ道は、盧舎那仏、すなわち奈良の大仏建立という、前代未聞の国家事業でした。

唐から帰国した吉備真備(吉岡秀隆)、聖武天皇の背中を見つめ続けてきた阿倍内親王(石原さとみ)、そして藤原仲麻呂(高橋克典)の3人を軸に物語は進んでいきます。

大仏建立にかかる莫大な財と労力、全国から動員される人々、そして工事の過程で失われていく命。理想としては崇高でありながら、現実的にはあまりにも無謀で、矛盾を孕んだ計画でもあったのです。

ドラマは、天皇や貴族といった権力者だけでなく、仏師、僧、役人、さらには名もなき民衆の視点を交差させながら、「大仏をつくる」という行為がもたらした光と影を描いていきます。それは、信仰による救済の物語であると同時に、国家が掲げた理想に、人がどう巻き込まれていったのかを見つめる物語でもあります。

古代史ドラマとして“大仏建立”という独自の視点から当時の人々の息吹を感じることのできる稀有な作品です。

歴史ドラマとして異例すぎるテーマ設定

『大仏開眼』最大の特徴は、人物ではなく、“建立そのもの”を物語の中心に据えた点にあります。

剣を振るわない。敵を討たない。勝敗も明確ではない。それでも、画面には張り詰めた緊張感が流れ続けます。なぜ大仏をつくるのか。それは本当に人々を救うのか。祈りは希望なのか、それとも支配の装置なのか。答えの出ない問いが、一つひとつ積み重なり、観る者の心に静かに重く沈んでいく。

SNSでは、「本当に画期的すぎる」「隠れた名作」「NHK古代史ドラマでは一番好き」と語られ、今なお多くの視聴者の記憶に刻まれています。

このテーマ設定は、NHKという公共放送だからこそ成立した、極めて野心的な挑戦だったと言えます。

石原さとみが示した“静かな強さ”

本作において、物語に人間的な温度を与えている存在が、石原さとみさんです。

彼女が演じる人物は、後の孝謙天皇(称徳天皇)であり、女性天皇として政治の中枢に立ち、歴史に深く名を刻んだ人物です。時代に翻弄されながら、自分なりの信念と祈りを抱えて生きる女性として描かれます。

感情を声高に叫ぶことはない。涙で訴えることもしない。それでも、抑えた表情や佇まいの中に、確かな意思と揺るがぬ芯が感じられる。

石原さとみの持つ繊細さと内面の芯の強さが、この古代史ドラマに不思議な現代性をもたらし、観る者が“遠い時代の話”として切り離せない理由になっているのです。

“古代史ドラマの到達点”と語られる理由

古代史は史料が限られ、映像化するには想像力と慎重さが求められる分野です。その中で『大仏開眼』は、史実を尊重しながら、人の感情や葛藤を丁寧に肉付けしていきました。

派手な展開はありません。しかし、一つの国家事業に関わった無数の人生が、確かにそこにあったことを感じさせる。深く、重く、そして観終えたあとも長く残る余韻。それこそが、本作が今なお語られ続ける理由でしょう。

人はなぜ祈るのか

『大仏開眼』は、「なぜ人は祈るのか」「国家は、誰のために存在するのか」という、極めて根源的な問いを投げかけるドラマです。明確な答えは示されません。観た人の数だけ取りようがある、解釈があるのではないでしょうか。祈りという形のないものを、人々が古来から心に抱いてきたという不思議さが、強く心を掴んで離しません。

『大仏開眼』で描かれるのは、迷い、疑い、それでも願い続ける人間の姿だけ。けれど、その姿こそが、時代を超えて私たちに問いを返してくるのです。


※執筆時点の情報です