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《ジブリ、みんなのうた》すごく気になる“あの歌”の人! 『ゲド戦記』から『コクリコ坂』まで。天才・谷山浩子が大人の“自意識”を浄化する理由

  • 2025.12.25

早いもので、2025年も終わりである。今年最後の再ブームは、谷山浩子さんである。カーッ、50代半ばの中年がチョイスする表現ではないとわかってはいるが、あえて言う。私の神! 私のパワーフードは鶏のから揚げ。パワースポットは自分の部屋のすみっこ。パワーシンガーソングライターは谷山浩子さんなのだ。

名前を知らない人も、彼女が手掛けた曲の多くを耳にしているはず。ジブリ映画『ゲド戦記』の挿入歌「テルーの唄」、映画『コクリコ坂から』の挿入歌「朝ごはんの歌」などの楽曲提供をした方である。40代以上の方なら、斉藤由貴さんの「MAY」「土曜日のタマネギ」の作詞をした方、と言えば「おおー!」となってくれるのではなかろうか。

幻想とカオスとユーモアと言葉遊びが一つの翼になり、バッサーッと羽ばたくイメージの歌詞とメロディー。それが浩子さんの、星のきらめきが声になったような高音に乗り、一丸となって私の世界をスクラップアンドビルドしてくるのである。

悩みだけでなく、悩んでいる自分の存在すらも、霧のように消えてなくなるような感覚が爽快。喪失感と爽快感って似ているかも。

今年ラスト、皆さんと一緒に体感したい。ぜひ目をつぶって想像してほしい。不思議の国のアリスの如く、スルスルと想像の穴を浮遊しながら落ちていってみよう。ゆっくり地面に尻もちをついて、周りをきょろきょろ見回すと、黒に限りなく近い緑の森があり、真ん中にピアノが一つ。

谷山浩子さんの歌が聞こえる――。

撮影筆者。数あるCDの中からランダムで並べてみました。この谷山浩子専用CDケースをカバンに入れて持ち歩き、通学中CDプレイヤーで聴いてたなあ(遠い目)。ちなみに、部屋の照明が直接ぶち当たり、ハレーションを起こしているジャケットは「水玉時間」。名盤です!

自意識過剰の過去と「まっくら森の歌」

NHKオンデマンドより。かわいすぎるだろう!!

私が彼女の存在を知ったのは「みんなのうた」で歌われていた「まっくら森の歌」がきっかけである。勝手に小学校の頃と思い込んでいたが、一応調べてみると、この曲が『NHKみんなのうた』で初めて放送されたのは1985年8月。ウソやだバリバリ中学生! 記憶って本当に頼りにならない。

でも、なるほどそうか。思春期ど真ん中の私は、大げさでなく、自分の力では到底たどり着けない、パラレルワールドへのチケットをもらった気がしたのだ。

「光の中でみえないものが やみの中でうかんでみえる」

イントロのピアノと歌い出しの声と歌詞に、背骨がキューンとなった! 超ド級の感激のため、もはや胸でもお腹でも頭でもなく、背骨に走る稲妻。これだこれだ、これなんだよ!(泣) 欲しかった言葉が、欲しかった音で、欲しかった声に乗り、響いてきたあの感動と不思議な安堵感、今でも忘れない。

当時の私は、自意識過剰が服を着て歩いている状態。私の行動や失敗をたくさんの人に見られ笑われていると思い込み、ビクビクしているような子であった。叶うならばタイムマシンに乗り、当時の自分の背後に降り立ち「アンタのこと気にするほど世間は暇じゃないぞアホがッ」と、後頭部をハリセンで叩きたいが、しょうがない。人の目がとにかく怖かったのだ。

ということで、空想世界に閉じこもることになるのだが、一時期、それも、とてももろく不確かに思えた。自分の心が信用できない、己がサッパリわからない!

こんな恐ろしく面倒な精神状態のとき出会えたのが「まっくら森の歌」だったのだ。励ますわけでもない。希望的な歌詞があるわけでもない。けれど、ただただ浸ることができた。

この声の持ち主の曲を聴かねば。急いでCDショップで「谷山浩子谷山浩子谷山浩子」と念仏のように唱えながら探し、3rdアルバム「もうひとりのアリス」を購入し、これが全曲またもや心にカウンターパンチ状態で、その後アルバムを片っ端から購入。とはいえ、サブスクなんて便利なものがない時代、CD1枚3000円(泣)。ちくちくちくちく集め、大切に、大切に聴いた。

ちなみに、「まっくら森の歌」が収録された14thアルバム「しっぽのきもち」をダビングしたカセットテープが残っているのだが、見よ、我ながらかわいいじゃないか、「しっぽのきもち」の書き方。カラーペンで浮かれまくっている!

筆者撮影。ああなんとエモいカセット文化……!

令和は「鏡よ鏡」の時代?

1978年3月10日発売「もうひとりのアリス」(発売元:キャニオンレコード)。このアルバムの中にも「鏡よ鏡」という楽曲があり、歌詞が面倒くさくて怖くて最高である。

アルバムに入っている楽曲は、私の大好物な、ほの暗い曲も多かったが、心の埃がそよ風でお掃除されるような爽やかな曲もある。マザーグースのような言葉遊びが入った曲もあり、秘密の呪文を手に入れたような嬉しさも感じたものだ。

そうするうちに、これまで「重いよ~面倒だよ~」とヒーヒー持て余していた超ヘビー級自意識が、実は、簡単に他人に踏み入れられない、自分だけの王国――。そんな風に思えるようになってきたのである。

ぬおおお! 2025年の最後に、こじらせまくっていた若い日々を振り返ってしまった(汗)。いや、これもいい。これも年の越し方の一つだ。

それに、ちょっと思うのだ。令和は、時代そのものが自意識過剰、独り相撲ではないか。世の中、他人や外の世界に気持ちがいくのではなく、心の内へ、内へと深まる傾向強め。Creepy Nutsのお二人も世界中で大ヒットした『Bling-Bang-Bang-Born』でこう歌っていたではないか。「鏡よ鏡答えちゃって」と。

鏡よ鏡。ねえねえ私! と自分に問いかけまくる。これは今や「こじらせ」ではなく、ブームの最先端なのではないかーッ!

ということで、私の自意識過剰も少々マシになった程度で、考えすぎの独り相撲は継続中だ。

自分も同じタイプだぞという方、ぜひぜひウィキペディアでもいいので、谷山浩子さんのディスコグラフィーへレッツゴーしてみてほしい。「お昼寝宮・お散歩宮」「漂流楽団」「アトカタモナイノ国」「悲しみの時計少女」など、魅力的なタイトルがズラリ。そのなかに、やけに心にしっくりきて、目が離せない言葉があれば、それがあなたの王国の扉を開ける暗号だ。ガチャリ!

手塚治虫の「火の鳥」が舞う! 「フェニックスで弾き語り」

筆者撮影。どうしてもクリアファイルが欲しくて早めにコンサート会場に行ったら、すでに物販コーナーは行列ができていた……。購入したとたん声が出た。もはやクリアファイルではなく、A4サイズの護符。神々しいパワーを感じる。

谷山浩子さんはなんと今年で53周年。大大大ベテランである。ただ、デビューが15歳とすごく早い。じゅじゅ15歳!! 作詞作曲家を目指し、中学校時代からキングレコードに曲の持ち込みを始めたというからびっくりだ。そしてシンガーソングライターとしてデビューする前の1970年に、後のフィンガー5となるベイビー・ブラザーズのシングル「白い天使」のB面曲に「僕たちの秘密」が採用されている。SNSとかない時代でこのスタートダッシュ(汗)。すごい行動力と、すごい才能だ。

そして現在も彼女はチャレンジャーなまま。発売中のセルフカバーアルバム「フェニックスで弾き語り」も、録音前のウォーミングアップも録音の様子もスタッフとのやり取りもすべてさらけ出す「ピアノ弾き語り公開レコーディング」という、とんでもなくハードルの高い試みで作られた1枚である。

「フェニックスで弾き語り」は、手塚治虫さんの名作「火の鳥」がインパクト大の、真っ赤なジャケットに包まれている。しかも再生を押せば、翼を広げた火の鳥とシンクロするように、名曲「翼になれ」が始まるのだ。

それはすごい静かな迫力。どんな重い心の扉もギギギと開く。開いてしまう。

筆者撮影。「ヒロコとニャンコと音楽の魔法」(NHK出版・2023年)。谷山浩子さんがNHKテキスト「みんなのうた」に3年間連載していたエッセイに、書き下ろしを加えたもの。「みんなのうた」ファンも必見だ。ピポパポパ!

「手塚治虫さんのマンガで育ってきた」という谷山浩子さん。彼女の楽曲はしっかりとそのエキスを吸い込み、とてつもなく美しく、時にユーモラス、同時にヒリリと残酷だ。破壊、滅亡を想像させるものも多い。

それを聴くたびに、心のなかにあるたくさんの世界がパッと消え、また生まれ、増えていく。あかりが灯るように。

おかげで何度もよみがえることができる。そうして、ややこしい考え方しかできない自分にも、不思議なほどホッとする。

ホッとして泣けてきて、音楽ってすごいなあ、と思うのである。

田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

文・写真=田中 稲

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