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ジャンヌレにルーシー・リー、美しいコレクションを持つロンドン在住コレクターの自宅へ

  • 2025.12.24
Rich Stapleton

ロンドンのプリムローズ・ヒルに位置する、家具コレクターのラジャン・ビジャラニの自宅。かつてイギリス出身の陶芸家エマニュエル・クーパーがスタジオとして使用していた家を改装し、自身のコレクションを展示するホームギャラリーとしても機能する空間だ。今年の10月に開催されたアートフェア「フリーズ・ロンドン」では、自宅を舞台に展覧会『Electric Kiln』を開催した。数々の貴重なコレクションと、その上質なインテリア空間を覗いてみよう。

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インド・チャンディーガル訪問を機にコレクターの道へ

20年前にインドのチャンディーガルを訪れたことをきっかけに、コレクションを始めたラジャン・ビジャラニ。チャンディーガルはインド北部の都市で、ル・コルビュジエとピエール・ジャンヌレの都市計画で知られる街だ。2004年から2007年にかけて、ビジャラニはチャンディーガル市内と周辺の住宅や公共施設から、オリジナルの家具作品を直接収集し、コレクションを築き上げた。

収集した作品は、20世紀のアート&デザインの専門家であるマイケル・ジェファーソンと共に現地で検証し、コレクションの一部は丁寧に修復作業が施されている。

<写真>アートフェア「フリーズ・ロンドン」での展示風景。チェアとデスク共にピエール・ジャンヌレのもの。

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ビジャラニの自宅兼ギャラリーは、かつてロンドンを拠点に活躍した陶芸家エマニュエル・クーパーのスタジオだった。その歴史的なタウンハウスをリスペクトを込めて修復し、親密な展示空間としても活用している。

<写真>アートフェア「フリーズ・ロンドン」での展示風景。キッチンの窓際に、ルーシー・リーやエマニュエル・クーパーの作品を並べた。自宅というプライベートな空間に作品を展示することで、陶芸作品の温かみがより一層伝わる構成だ。

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2024年10月に初めて自宅で展示を開催した時は自身のルーツとも重なる、南アジア系のアーティストとデザイナーを紹介する内容だった。2回目となる今年は画家のフランク・アウアーバッハ、陶芸家のルーシー・リー、エマニュエル・クーパーの3名にフォーカスを当て、ピエール・ジャンヌレとル・コルビュジエのモダニスト家具とともに展示し、没入感がありながらも親密な鑑賞空間をつくりあげていた。

<写真>チェアやスツール、コーヒーテーブルなど、さまざまなピエール・ジャンヌレの作品が置かれたリビングルーム。左のチェアは1955~56年にかけて制作されたチーク材の「ハイコートチェア」。壁に掛けられた絵画はフランク・アウアーバッハの作品。

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ラジャン・ビジャラニへの4つの質問

1. ピエール・ジャンヌレなどのデザイナーによるインテリア作品の収集を始めたきっかけ、そして今回の展覧会にルーシー・リーの作品を加えた理由を教えてください。

私は昔から、ただ眺めるだけのものではなく、実際に使われ、魂と実用性の両方を備えたオブジェクトに惹かれてきました。ピエール・ジャンヌレやルーシー・リーといったクリエイターたちは、深い誠実さを持って制作に取り組んでいました。彼らの作品には、素材、形態、そしてプロセスそのものに「嘘のなさ(誠実さ)」があります。それが私にとって、非常に心を落ち着かせてくれるものだと感じています。

2. 自宅は陶芸家のエマニュエル・クーパーの旧自宅兼アトリエを改装したものですね。この場所にまつわるストーリーを教えてください。

エマニュエル・クーパーはこの家を住居としてだけでなく、自身のスタジオとしても使用していました。初めてこの場所に足を踏み入れたとき、彼が何かをつくり、実験していた当時のエネルギーを今でも感じることができました。そして素晴らしく豊かな光が溢れていて、瞬時に心を奪われました。自宅を改装する際、過去の痕跡を完全に剥ぎ取ってしまうことはしたくありませんでした。むしろ、その歴史の上に積み上げていきたいと考えたのです。リノベーションは「変貌」させるというより、一種の「継続」であり、空間の精神を尊重しながら、私自身のアートやデザインとの関わりを反映した形へと進化させていく作業でした。

<写真>ルーシー・リーによって1948年に制作された、色とりどりのボタンやブローチ。押し型成形や手びねりといった手法が使われている。

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3. コレクターとして、どのような作品やアーティストに惹かれますか?

学問や分野の境界線を曖昧にするアーティスト、つまり「機能、工芸、アート」が今日において何を意味するのかを問い直すような人たちに興味があります。私にとって「マテリアリティ」は重要です。手で触れられるような質感があり、それがどのようにつくられたのかという痕跡が残っている作品に惹かれます。また、不完全さに対する敬意もあります。手びねりの器であれ、彫刻的な椅子であれ、人を惹きつけるのは、そこに宿る人間味です。キャラクターや、かつての営みを感じさせる作品に私は共鳴するのです。

4. 自宅をギャラリーとして一般公開するというコンセプトが興味深いです。なぜ「ホームギャラリー」という形態を選んだのでしょうか?

きっかけは、人々がもっと親密な形でアートと出会える場をつくりたいと思ったことでした。一般的なギャラリーは、時として威圧的だったり、現実離れして感じられることがあります。一方、家庭的な環境の中では、作品はまた違った呼吸をはじめます。家具や光、そして会話の中で、アートがどのように共存するのかを理解することができるのです。また、アートと共に暮らすという体験を共有し、対話を促したいという思いもありました。この場所は進化し続けており、展示が重なるごとに前の展示の層が積み重なっていきます。アートと環境との間にある終わりのない対話こそが、この場所を生き生きとさせているのだと思います。

<写真>アートフェア「フリーズ・ロンドン」での展示風景。ルーシー・リーとエマニュエル・クーパー の作品がテーブルの上に整然と並べられた。過度な装飾性を省いたミニマルな作風は、今もなおコレクターの心を惹きつけている。

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<写真>ルーシー・リーが1980年に制作した磁器製の花瓶。2層以上の異なる色の素材を重ね、それを引っ掻いて下地の色を露にするズグラッフィート技法が用いられた作品。

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ラジャン・ビジャラニ(Rajan Bijlani)
1984年ロンドン生まれ。南アジアのモダニズム、文化遺産に造詣の深いインド系英国人のコレクター。シンド出身の北インド系の家系に生まれ、ロンドンで育ちながらも南アジアと英国の双方に強い結びつきを持ち、自身の経験から鋭い感性を育んできた。

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Giorgio Possenti
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