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戸田奈津子が明かす“映画人生最大のショック”とは?ワーナー映画の記憶とハリソン・フォードの素顔を語る

  • 2025.12.23

2025年内をもって日本での劇場配給業務を終了するワーナー ブラザース ジャパン。その100年の歴史の集大成として、メモリアルイベント「ワーナー・ブラザース映画ファンフェスティバル」が開催中だ。12月22日には、丸の内ピカデリーで『ブレードランナー ファイナル・カット』のトークイベントが行われ、字幕翻訳家の戸田奈津子、フリーアナウンサーの笠井信輔が出席した。

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「ワーナー・ブラザース映画ファンフェスティバル」『ブレードランナー ファイナル・カット』のトークイベントが行われた
「ワーナー・ブラザース映画ファンフェスティバル」『ブレードランナー ファイナル・カット』のトークイベントが行われた

ワーナー・ブラザース映画の日本国内での歴史は、いまから遡ることちょうど100年前、アメリカに本店を構えるワーナー・ブラザース・ジャパン・インコーポレーテッドの日本における営業所として、1925年(大正14年)に設立されたところから始まった。本イベントは、12月31日で日本での劇場配給業務を終了することに伴い、長きにわたってワーナー・ブラザース映画作品を愛したファンへの感謝の意を込めて、これまで同社が配給してきた数多くの洋画、邦画作品のなかから厳選された珠玉の13タイトルを特別上映するもの。12月15日から23日の9日間にわたって東京・大阪の2会場で行われている。

ワーナー映画の思い出を明かした戸田奈津子
ワーナー映画の思い出を明かした戸田奈津子

ステージに上がった戸田は、「今日はこんなすばらしく、ちょっと悲しい会にお呼びいただきましてありがとうございます。ワーナーさんとは深い、長い縁がございます。それがこのような幕切れとなってしまったのがとても悲しいんですが、いいワーナーの映画をたくさん観て、懐かしい日々を思い出したい」としみじみ。付き合いは「半世紀になるかも」と微笑みながら、「字幕もやらせていただきましたし、撮影現場に行って取材するという楽しい旅にも、ずいぶん行かせていただきました。最初は『マッドマックス』。メル・ギブソンがまだ若い青年だった。数えきれないほど思い出がある」と歴史を振り返った。

「リドリー・スコットが想いを遂げた作品をたくさんの人と観ることができてうれしい」と話した笠井信輔
「リドリー・スコットが想いを遂げた作品をたくさんの人と観ることができてうれしい」と話した笠井信輔

この日は、初公開から25年を迎えたSF映画の傑作を、リドリー・スコット監督自身の再編集、デジタル修整で復活させた『ブレードランナー ファイナル・カット』の上映が行われた。ハリソン・フォード演じる捜査官とレプリカントと呼ばれる人造人間の追跡劇が展開する。本作の字幕は担当していないという戸田だが、笠井は「戸田さん、これまで何本の字幕をやっていらっしゃるんですか?」と質問。戸田は「数えてはいないんですが、年間50本やっていましたから。1500本くらいかな」と膨大な数を口にしていた。

『ブレードランナー ファイナル・カット』の魅力を語り合った
『ブレードランナー ファイナル・カット』の魅力を語り合った

『ブレードランナー ファイナル・カット』の魅力について話が及ぶと、戸田は「リドリー・スコットの美意識。彼の面目躍如の映画。大好きな映画の1本」と惚れ惚れ。「何度観ても新しい発見のある映画」だという。笠井は、スコットだけでなく、デヴィッド・フィンチャーやクリストファー・ノーランら錚々たる監督の名前をあげながら、「ワーナーは、作家性の強い監督さんを育て上げてきた。その監督の作品を連続して上映しながら、押し上げていく。リドリー・スコットはその最たるもの」だと分析。

『ブレードランナー ファイナル・カット』をスクリーンで堪能すべく、たくさんの観客が駆けつけた
『ブレードランナー ファイナル・カット』をスクリーンで堪能すべく、たくさんの観客が駆けつけた

大きくうなずいた戸田は、「話も複雑でツイストのあるストーリー。なによりも映像がすばらしかった。リドリー・スコット監督とお仕事をご一緒したことがあるけれど、映像の人なんです。インタビューをしていても、ここはオレンジにしたかったとか、色や構図の話をする。目がアーティスト。この映画にも不思議な街が出てくるけれど、『ブラック・レイン』では大阪が出てくる。でもそれは、我々が知っている大阪じゃない。『ハンニバル』のフィレンツェも、我々が知っているフィレンツェじゃない。いつも、アーティストである彼の目を通した映像。それが彼らしさ」だと熱を込めた。

【写真を見る】 戸田奈津子、ハリソン・フォードとの写真をお披露目!
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さらに、主演のハリソン・フォードとは『スター・ウォーズ』での来日以来、47年の付き合いがあるという戸田。「無名のころから、大スターになるまでの過程を見た」存在だと切りだし、「『スター・ウォーズ』で来日した時は、まだ公開前なので誰も彼のことを知らなくて。銀座を2人で歩いても、誰も振り向かない。天ぷらそばなんて食べていても、誰も気づかない。それがあれよあれよと大スターになった」とにっこり。「それでもまったく変わらない。真面目で誠実で、芸能人らしいところがない」ところが彼の大きな魅力だと続け、「自分のことをスターだなんて、絶対に言わないですよ。自分のことを『アクター』とも言わない。彼の口癖は、『アイアム、ストーリーテラー』。そういう目で自分を見ている」と間近で見てきたからこそわかるエピソードを語った。

スクリーンに、フォードと戸田が一緒に撮影した写真が投影されるひと幕もあった。戸田は「年を取ってからは、大学の先生みたいな雰囲気」だと目尻を下げながら、「おうちに行ったこともあります」と告白。ゴージャスな豪邸というよりは、丘の上に立つ温かみのある建物だそうで、「奥さんがいて、途中で彼が帰ってきた。黒づくめの革ジャンで、オートバイに乗って帰ってきた」と続々と飛びだす裏話に、観客も興味深げに耳を傾けていた。

「ワーナーはすばらしい宝物を持っている会社」
「ワーナーはすばらしい宝物を持っている会社」

戸田と笠井が、本作が劇場で今後観られる機会は「もしかしたら最後かもしれない」と口を揃えるなか、「『ブレードランナー』には5つのバージョンがある、そのなかでも研ぎ澄まされたものが、『ファイナル・カット』。デジタル編集した特撮部分が非常に美しい」と紹介した笠井は、「(フォード演じる)デッカードが人間なのかと考えながら観るとおもしろい」とオススメ。「ワーナーはすばらしい宝物を持っている会社」と改めて敬意を表した戸田は、「映画人生も長いですが、私が一番ショックだったのは、フィルムがなくなってデジタルになったこと。あとはメジャーがなくなっていくこと。ワーナー、フォックス、パラマウントも全部なくなっていく。育ってきた映画は全部、その会社のもの。手足をもぎ取られるような感じがしてすごく悲しいです。映画はいま、若い子が来ないと言われています。ぜひまた復興して、すばらしい映画の時代が来ることを待ち望んでいます」と映画愛をあふれさせ、大きな拍手を浴びていた。

取材・文/成田おり枝

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