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『PROJECT Y』来日したイ・ファン監督&『愚か者の身分』永田琴監督が共鳴!“俳優のケミストリー”を引き出す演出術とは?

  • 2025.12.23

韓国を代表する俳優ハン・ソヒとチョン・ジョンソがダブル主演を務める映画『PROJECT Y』(2026年1月23日公開)。本作を手掛けたイ・ファン監督が来日を果たし、12月22日にアキバシアターで行われたトークショー付き試写会に出席。『愚か者の身分』(上映中)の永田琴監督とトークを繰り広げた。

【写真を見る】イ・ファン監督と永田琴監督が「似ている」と共鳴!トークショーの様子

第50回トロント国際映画祭、第30回釜山国際映画祭のプレミア上映で話題を呼んだ本作は、ミソン(ハン・ソヒ)とドギョン(チョン・ジョンソ)という2人の女が、底辺の現実から抜け出すために、隠された金塊を盗み出すクライムサスペンス。

来日を果たしたイ・ファン監督、「来てくださってありがとう」と日本の観客に感謝!
来日を果たしたイ・ファン監督、「来てくださってありがとう」と日本の観客に感謝!

ハン・ソヒとチョン・ジョンソの競演が実現し、鮮やかな化学反応を巻き起こしている本作。ファン監督は、俳優に対する演出について「現場では、2人に対して『とにかくやりたいことをやっていい』と言いました。自由にやってほしいと思っていたので、そういった雰囲気を作ることに努めていました。『なにをしても間違いではない。なにをしても怒らないから大丈夫だ』と伝えるようにしていた」と回想。アイデアが浮かぶとソヒやジョンソと一緒に話し合い、撮り直しもしながら「2人のいい演技を見つけ出していった」といい、「2人が持っている、俳優としてのすばらしい点も活かすことができたと思う。2人はもともと普段から仲が良くて、そういったケミストリーもこの映画のなかに入れたいと思いました。それがオープニングにも表れていると思います。2人のケミがうまく表れているオープニングシーンも、大好きです」と自信をのぞかせた。

永田琴監督、演出のポイントは「よく見ること」
永田琴監督、演出のポイントは「よく見ること」

一方、永田監督が手掛けた『愚か者の身分』は、一度入ると抜けられない闇ビジネスの世界を舞台に、運命に翻弄されながらも生き抜こうとする若者3人による、恐るべき3日間の逃走劇を描く物語。第30回釜山国際映画祭では、北村匠海、林裕太、綾野剛の3名が揃ってThe Best Actor Award (最優秀俳優賞)を受賞した。

すばらしい俳優のケミストリーを捉えたという点ではどちらの作品も共通しているが、永田監督は「私がやることと言えば、よく見ること。彼らがなにを表現しようとしているのかをよく見ていた」と演出術についてコメント。「彼らのちょっとした仕草が、どう伝わるか、どう影響するかということに注視していた。それをより広げた方がいい時は、『その表情がもっと強く、お客さんに届くように言ってみてほしい』と伝えたり、余計だったら『そこはあまり表現しない方がいいかな』と伝えた」と撮影を振り返った。とにかく暑い時期の撮影だったそうで、「かなりテキパキとやりました。ダラダラしないことが目標だった」と暑さとの勝負でもあったと笑顔を見せていた。

【写真を見る】イ・ファン監督と永田琴監督が「似ている」と共鳴!トークショーの様子
【写真を見る】イ・ファン監督と永田琴監督が「似ている」と共鳴!トークショーの様子

ファン監督は、『PROJECT Y』と『愚か者の身分』について「似ているという印象を持った」とシンパシーを寄せた。「今回の来日で、日本の監督さんと対談できると聞いて。永田監督の作品を観て、すぐに永田監督が対談相手となる理由がわかった」と破顔しつつ、「『雰囲気や情緒、感情の表現も似ているところがあるな』と思いながら、『愚か者の身分』を観ていました。俳優さんたちの演技がすばらしくて、際立っていて、パワーもある。なかにはとても怖いキャラクターも登場しています。どこか行き場がなくて、あちこち彷徨っている若者たちの姿を、永田監督は男性バージョン、私は女性バージョンとして撮った」と共鳴。

『PROJECT Y』(2026年1月23日公開)のトークショーが開催された
『PROJECT Y』(2026年1月23日公開)のトークショーが開催された

ファン監督がタイトルの意味を尋ねたり、永田監督が女性を主人公にした理由を聞いたり、ステージでは濃密な意見交換が交わされる場面もあった。ファン監督は、女性を主人公にした理由について「女性を主人公にして、家族映画を作りたいという気持ちが強かった。『PROJECT Y』には、家族の物語も隠れています。ミソンとドギョン、ドギョンの母であるガヨンは疑似家族のような関係にもなっている。母親と娘を登場させることで、家族の運命がどうなるかを見せたいと思っていた」と明かしながら、「さらにジャンル映画としての楽しみも味わってもらうために、クライムサスペンス映画という枠を借りて、この物語を括ろうと思った。ジャンル映画の楽しみを知っていただくためにも、テンポの速い編集を心がけて、母親と娘の関係はあまり強調せずに、裏に隠すような感じで撮ってみました。そういった点も感じていただけたらうれしい」と希望。永田監督は、「家族のストーリーの部分も感じていました」としっかりと伝わったと監督の手腕を称えていた。

『PROJECT Y』の“Y”の意味とは?
『PROJECT Y』の“Y”の意味とは?

また『PROJECT Y』の“Y”の意味について、「いろいろな意味が込められている」と話したファン監督。「このタイトルには、私の欲が入っているんです」と目尻を下げ、「撮影現場では、俳優やスタッフたちがベストを尽くして映画を作っています。そしてその先は、観客の皆さんに委ねられている。観客の皆さんがそれぞれの視点で、映画を完成させてくれるんだと思っています。『あなたは?』(You)、『この映画はどう?なぜ?』(Why)という問いかけをしながら、この映画を完成させてほしいという想いがあります。『Y』にはそういったいろいろな意味が込められています」と自論を述べる。『愚か者の身分』は「三部構成」だと話した永田監督も、「観た人の力を借りて、それぞれで構成して楽しんでほしいという想いがある。観た人に委ねるという意味では、考え方は同じ」と、ここでも意気投合していた。

最後に「とにかく、楽しんで観ていただきたいという想いで撮り始めた映画」と願いを込めたファン監督は、「途中から欲が出て、隠された意味を込めてみたり、メタファーも仕込んでみましたが、それは気づいても、気づかなくても大丈夫です。現場では、主演の俳優さんたちと一緒に楽しみながら撮影をすることができました。皆さんにとっても、楽しんで観てもらえる映画になることを期待しています」と呼びかけ、イベントを締めくくった。

取材・文/成田おり枝

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