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「自覚症状」が出てからでは、もう遅い…専門医が「10年かけて進行する」と警告する"隠れ糖尿病"の実態

  • 2025.12.22

健康で長生きするには、どうすればいいのか。国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科の坂本昌也教授は「健康診断で“数値がよかった”と安心してはいけない。日本人は体質的に食後に血糖値が急上昇しやすく、“糖尿病”を見逃す可能性があるからだ」という――。(第3回)

※本稿は、坂本昌也『世界中の研究結果を調べてわかった!糖尿病改善の最新ルール』(あさ出版)の一部を再編集したものです。

自分の指で血糖値を確認する人
※写真はイメージです
親が糖尿病であれば、子への遺伝リスクは3倍

糖尿病は生活習慣病のひとつですが、ほかの病気と同じように生活習慣だけでは説明できない部分もあります。その要因と考えられるのが遺伝です。

親が糖尿病の場合、その子どもが糖尿病になるリスクは約3倍に高まるとされ、親族にいると約2倍高まるといわれています。といっても、遺伝的な要素を持っているからといって、必ず糖尿病になるわけではありません。遺伝の影響は3~4割と考えられています。

糖尿病と遺伝の関係
出所=『世界中の研究結果を調べてわかった!糖尿病改善の最新ルール』

ただし、同じ生活をしていても、遺伝的な要素を持っている人は持たない人に比べて発症年齢が若く、30代、40代で発症する人もいます。また、合併症が進みやすく、腎臓や神経へのダメージが出やすいともいわれています。

親や親族に糖尿病の人がいることがわかったら、「人より早めにサインが出た」と受け止めて、これまで以上に検査を怠らないことです。「親が糖尿病だから自分もなる」とあきらめる必要はまったくありません。

いまのところ健診の数値に問題がなかったとしても、これからの検査も細かくチェックしておきましょう。

糖尿病以外でも、親や親族に心臓、脳、腎臓の病気がある人がいれば、念入りに検査しておくことです。もちろん、遺伝的な素因がないからといって安心するのも間違い。糖尿病、高血圧、脂質異常症は、不規則な生活や暴飲暴食、運動不足などに起因する生活習慣病だということは忘れないでください。

「今年の結果」よりも、「数値の変動」を見る

健診を受けると、多くの人は「今年の結果がどうだったか」という一点に注目しがちです。数値が基準内なら安心し、少しでも超えると不安になる。しかし本当に注目しなければいけないのは、一度きりの数値ではなく「変動」です。

いまは、その変動をどうとらえるかが医療のトレンドになっています。

体重、ヘモグロビンA1c、血圧、eGFR(腎機能の指標)などは、単に高いか低いかだけではなく、どのように変動しているかを見ることが重要です。なぜなら、変動することにもリスクが隠れているからです。

例えば、体重の変動がもっとも大きかった人は、安定していた人に比べて死亡率が2倍、心筋梗塞や脳卒中のリスクも2倍、さらに糖尿病発症リスクは78%も高まるという報告があります。収縮期血圧(一般には「上の血圧」「最高血圧」といわれる)が不安定な人も死亡リスクが上がり、eGFRの変動が大きい人は腎機能の低下が早いことが我々の研究でもわかっています。

もちろん、基準値を超える数値が悪いのは当然ですが、そこに至るまでの経過を見なければ本当のリスクは判断できません。

例えば80点の成績をとった人がいたとして、それが50点、60点、70点と上がってきての80点なのか、それとも100点をとり続けてきた人の80点なのかで、80点のとらえ方が異なってくるからです。

検診の「空腹時の血糖値」だけでは判断できない

健診の数値に一喜一憂するのではなく、日内変動、日差変動、季節変動、年間変動など、さまざまな時間軸でどう推移しているかを見ることが欠かせません。わたしたちが注視しているところでもあります。

血糖値にしても、ヘモグロビンA1cが基準値内だからといって安心できるわけではなく、食後に大きく上がってその後急激に下がる「血糖値スパイク」が繰り返されていれば、血管へのダメージは進んでいます。

LDLコレステロールには季節変動があり、それが体重と相関していることも報告されています。BMI、血糖値、血圧、コレステロールの長期的な変動は心不全のリスクとも関わることもわかってきています。

基準値に入っているから安心、外れたから不安ではなく、自分の数値がどう推移してきたのかに注目するようにすると、よりリスクを実感できるようになります。

そもそも糖尿病は、瞬間的な血糖の状態を測る「空腹時血糖値」だけで判断できません。空腹時血糖値が基準値内だと安心する人も多いようですが、日本人の場合、それだけでは糖尿病を見逃してしまうことがあります。

日本人は、欧米人に比べてインスリンを分泌する力が弱い方が多いため、空腹時は正常でも食後に血糖値が大きく上がる「かくれ糖尿病」が多いからです。

「食後の高血糖」は自覚症状がほとんどない

食後の高血糖はやっかいです。というのは、自覚症状がほとんどないため、本人は健康だと思っている人が多いのです。

しかし実際は、毎食後に血糖値が急上昇し、そのたびに血管の内側が傷つき、動脈硬化が進んでいます。心筋梗塞や脳梗塞、腎不全といった合併症リスクが高まるのも、この見えない変動が積み重なるからです。

この食後高血糖は、糖尿病を発症する10年くらい前から始まっているといわれています。

かくれ糖尿病を見逃さないための検査が、「75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)」です。これは空腹時にブドウ糖の入った水を飲み、その後の血糖値を追う検査で、通常は空腹時と2時間後の数値で診断します。

75g経口ブドウ糖負荷試験の流れと糖負荷試験後の血糖値
出所=『世界中の研究結果を調べてわかった!糖尿病改善の最新ルール』

ところが日本人の場合、空腹時と2時間後の数値が正常でも、1時間後の血糖値が高ければすでにリスクがあることがわかってきており、「1時間値」に注目すべきだという議論も進んでいます。

内臓脂肪が多めの人や高血圧の人は、すでに境界型や糖尿病になっている可能性があると繰り返し説明してきました。ところがこれらは本人はもちろん、医師でさえ気づいていないケースが多く、検査をしなければわかりません。そういう人たちが心筋梗塞などで入院したときに75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行うと、約半数が糖尿病と診断されたというデータがあります。また、心疾患で心臓カテーテル治療を受ける患者さんの多くが、検査によって糖尿病または予備軍と初めて指摘診断される方も多くいらしています。

「かくれ糖尿病」を放置するのは危険

かくれ糖尿病のまま、長い間、血管を傷つけてきたということです。逆にいえば、もっと早く糖尿病に気づけていれば、心筋梗塞や狭心症などを発症することはなかったかもしれないということです。

本書でお話ししたように、糖尿病は10~15年をかけて進行する病気です。しかも、その間はほとんど自覚症状がありません。もし、境界型から血糖コントロールしていれば、さらに心疾患のリスクを抑えられたはずです。

肥満や高血圧を指摘された人は、空腹時血糖やヘモグロビンA1cの数値だけに安心することなく、後に詳しく述べる持続血糖測定(CGM)やOGTTを受けることを検討してもよいでしょう。

かくれ糖尿病に気づけるかどうかが、その後の心臓や脳の健康を大きく左右します。気づかないまま放置すれば、血管のダメージは進み、ある日突然命に関わる病気として襲いかかってくることもあります。

気になる食後の血糖値は、実は自宅でも測ることができます。それが、アメリカの糖尿病学会でも推奨している、持続血糖測定(CGM)です。

日本ではまだインスリンを使っている人など一部にしか保険適用がありませんが、本

当はもっと幅広く使ってよいツールだと考えられています。

“貼るだけの最新機器”で血糖値の変動がわかる

最新のCGMは1円玉ほどの大きさで、上腕にパチっと貼るだけ。約2週間、24時間の血糖変動(正確には、間質グルコース値)を記録できます。スマホとも連動し、夜間の血糖変動まで記録できるため、自分では気づけないリスクも把握できます。

坂本昌也『世界中の研究結果を調べてわかった!糖尿病改善の最新ルール』(あさ出版)
坂本昌也『世界中の研究結果を調べてわかった!糖尿病改善の最新ルール』(あさ出版)

現状では、日本で自費購入できる機器は、最新型と比べると少し大きめ(500円玉くらい)で、価格は6000~7000円程度です。

CGMを使うと、「この食事のあと血糖値が急上昇した」「食後に少し歩いたら上がり方がゆるやかになった」など、自分の血糖値がどう変動しているか客観的にわかるようになります。

また、白米より玄米のほうが血糖値の上がり方がゆるやかだったり、ストレスが強い日は血糖値が乱れやすかったりなど、「なんとなく体にいい」ではなく「たしかに効果がある」と納得できるようになります。

血糖値の変動を手軽に可視化できるのがCGM。糖尿病の患者だけでなく、境界型の人にも、健康に不安を抱える人にとっても大きな武器となるはずです。

(参考文献)
・『糖尿病専門医研修ガイドブック 改訂第9版』/日本糖尿病学会
・April 6, 2017 N Engl J Med 2017;376:1332-1340 DOI: 10.1056/NEJMoa1606148 VOL.376 NO. 14
・米国糖尿病学会2023
・Circulation 76, No. 6, 1224-1231, 1987
・Int J Cardiol. 2019 Oct 15:293:153-158.
・Diabetes Care. 2005 May;28(5):1182-6.

坂本 昌也(さかもと・まさや)
国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 部長
国際医療福祉大学 医学部教授。国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科部長。東京都出身。東京慈恵会医科大学医学部卒。東京大学・千葉大学大学院時代より、糖尿病、心臓病、特に高血圧に関する基礎から臨床研究に渡るまで多くの研究論文を発表。日本糖尿病学会認定指導医・糖尿病専門医、日本内分泌学会認定指導医・内分泌代謝専門医、日本高血圧学会認定指導医・高血圧専門医、日本内科学会認定指導医・総合内科専門医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本医師会認定産業医、厚生労働省指定オンライン診療研修、臨床研究協議会プログラム責任者養成講習会を修了。現在も研究を続けながら若手医師や医学部生の指導も担当している。

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