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こんな坂本龍馬、西郷隆盛もアリ?史実と比較する『新解釈・幕末伝』登場の偉人たち

  • 2025.12.21

これまでに数々の映画やドラマの題材になった激動の時代・幕末を、「銀魂」シリーズ、『新解釈・三國志』(20)、『アンダーニンジャ』(25)などの福田雄一監督が、新たに独自の“解釈”で描く『新解釈・幕末伝』(公開中)。幕末は江戸の終わりから明治の始まりにかけて日本の歴史が大きく動いた時代で、たくさんの逸話が残されているが、知らないことも意外と多い。幕末の志士として知られる坂本龍馬、西郷隆盛らも知名度こそ高いが、果たしてなにを成し遂げた男だったのか?本当に英雄だったのか?そんな劇中に登場する歴史上の有名人たちの偉業を紹介する。

【写真を見る】ノリのよさとテンションの高さで世のなかを渡り歩く坂本龍馬

幕末を福田雄一監督が新たに映像化した『新解釈・幕末伝』 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
幕末を福田雄一監督が新たに映像化した『新解釈・幕末伝』 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

「まあまあ」が口ぐせのノリのよさで生き抜く坂本龍馬(ムロツヨシ)

土佐藩出身の浪人で、常識に囚われないカリスマ的な行動力を持つ。師の勝海舟から世界情勢を学び、日本の海軍や商業の重要性を見抜く先見の明があった。日本初の商業的な組織=亀山社中(のちの海援隊)を長崎の亀山で設立している。最も大きな功績は、宿敵だった薩摩藩と長州藩を和解させ、薩長同盟(1866年)を結ばせたこと。新たな国家体制の基本方針を記した「船中八策」を示して朝廷と有力藩による会議で国を運営する公議政体を目指したほか、このなかで幕府が朝廷へ政権を返上する大政奉還も提言。1867年にそれが実現するなど維新の最大の功労者の一人とされているが、自身は「近江屋事件」で盟友の中岡慎太郎と共に暗殺される悲劇的な最期を迎えた。

【写真を見る】ノリのよさとテンションの高さで世のなかを渡り歩く坂本龍馬 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
【写真を見る】ノリのよさとテンションの高さで世のなかを渡り歩く坂本龍馬 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

ところが、本作で描かれる龍馬は定説とはちょっと違う。「まあまあ」が口ぐせで、ノリのよさとテンションの高さで世のなかを渡ってきたようなキャラクター。薩長同盟を話し合う会談には大幅に遅れて現れ、大政奉還も龍馬のある冗談がきっかけとされている。

とにかく気難しい西郷隆盛(佐藤二朗)

江戸幕府を倒し、明治新政府の樹立に最も貢献した、大久保利通、木戸孝允と並ぶ「維新の三傑」の一人。「敬天愛人」を座右の銘とし、身分や性別、年齢に関係なく人を愛し、多くの人から慕われた。安政の大獄や島津藩主、島津斉彬の急死などによる島流しを二度も経験し、薩長同盟の締結、江戸城の無血開城を導き、日本の近代化に貢献。新政府の要職に就くが、征韓論(朝鮮への出兵を主張)で政府と対立して下野。新政府に反旗を翻す西南戦争(1877年)を起こすも、敗北して自刃する。

無表情でなにを考えているのかわからない西郷隆盛 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
無表情でなにを考えているのかわからない西郷隆盛 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

一方で本作の西郷。大きな顔や足、ゲジゲジ眉毛はイメージ通りだが、「おいどん」や「ごわす」とは言わない。いい加減で何者でもない龍馬が歴史に刻まれることを不服として、一度は賛同した薩長同盟を拒否。なのに、龍馬とおりょうの新婚旅行にまでついて行ったりする。

小心者の桂小五郎、改め木戸孝允(山田孝之)

長州藩の指導者で「維新の三傑」の一人。後述の吉田松陰の弟子であり、剣術の達人ながら、冷静な判断力と調整能力で藩を率いた。藩を代表して薩長同盟を締結し、倒幕勢力を確立。維新後は木戸孝允を名乗り、新政府の中心人物として版籍奉還や廃藩置県といった、近代国家の骨格を作るために尽力した。

ついに薩長同盟に向けた話し合いの場が設けられるが… [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
ついに薩長同盟に向けた話し合いの場が設けられるが… [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

史実ではそう言われているが、本作の桂は西郷との会談の席に際し、緊張で固くなってしまうような小心者。居眠りを決め込む相手にタジタジで、龍馬が口走ったよくわからない精神的圧迫術に頼る始末。真実は意外とそんな感じだったかもしれない。

どこかヌケている天然キャラの吉田松陰(高橋克実)

長州藩士の思想家であり教育者。自宅で開いた松下村塾で身分を問わずに若者たちを指導し、桂小五郎、高杉晋作、伊藤博文など、明治維新や新政府を牽引することになる多くの逸材を輩出した。「国のためになる人材育成」に命を懸ける幕末の志士たちの精神的な指導者だったが、29歳の若さで処刑されている。

ペリー艦隊の黒船に乗り込もうとする吉田松陰たち [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
ペリー艦隊の黒船に乗り込もうとする吉田松陰たち [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

なのに、本作の松陰は軽率極まりない。通りすがりの龍馬や西郷に、ペリー艦隊の黒船に乗り込んで海外に密航する計画をあっさり話してしまう。それが原因だったかはわからないが密航は失敗。思いがけないところでヌケている天然キャラだったのかも?

気前がよくてオープンな勝海舟(渡部篤郎)

幕臣(江戸幕府の家臣)でありながら、西洋の知識に明るい開明的な思想を持った指導者。日本の近代海軍の創設に尽力した、龍馬の師でもある。戊辰戦争(1868~69年)の最終局面で、旧幕府陣営の代表として新政府軍の総大将である西郷隆盛との交渉に臨み、江戸城の無血開城を成功に導く。江戸の町を戦火から救い、日本の平和的な政権交代に大きく貢献した。

勝海舟の提案でコンセプト茶屋へ行くことに [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
勝海舟の提案でコンセプト茶屋へ行くことに [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

本作の勝も気前がよくて、オープンな性格だ。情報通で「今日は観光だ!」とばかりに、くノ一が接客してくれるコンセプト茶屋に入ると、藩の垣根を取っ払ってみんなで楽しく酒を飲んだりしている。

刀は一流だが頭は固い岡田以蔵(岩田剛典)

土佐藩士で土佐勤王党に所属した剣客。尊王攘夷を掲げた党の実働部隊として、「天誅」と称する暗殺活動に数多く関与したことから、「人斬り以蔵」と呼ばれ恐れられた。龍馬の紹介で勝海舟の護衛を務めたこともあるが、最終的には土佐藩に捕らえられ、厳しい拷問の末に処刑された。

岡田以蔵と共に抜刀の構えを見せる龍馬だが… [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
岡田以蔵と共に抜刀の構えを見せる龍馬だが… [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

そんな以蔵のキャラは本作でも踏襲されていて、素早い剣で敵を次々に斬り倒す姿がカッコいい。しかし、刀は一流だが、頭は固そう。自分のことをカッコいいと思っている節があり、それを龍馬に見抜かれている。

セコい近藤勇(小手伸也)

江戸時代末期に京都の治安維持を目的に結成され、尊王攘夷派の志士を取り締まった武装組織、新選組。その局長を務めたのが、天然理心流の剣客である近藤勇だ。武州多摩の農民出身ながら、剣の腕と強い統率力で「試衛館」道場の仲間たちをまとめた。新選組が結成されると、京都守護職で会津藩主の松平容保の指揮下で、京都の治安維持に尽力。特に、尊王攘夷派の隠れ家を襲撃した池田家事件(1864年)での働きは、新選組の名を天下に知らしめた。

コンセプト茶屋に入るのを躊躇する近藤勇 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
コンセプト茶屋に入るのを躊躇する近藤勇 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

そんな史実から器の大きな人物という印象が湧き上がるが、本作の近藤はコンセプト茶屋の飲み代を「偵察費の領収書で落ちるのか?」と口に出してしまうセコいキャラ。

恥ずかしがり屋の土方歳三(松山ケンイチ)

新選組の副長。「鬼の副長」と恐れられるほどの厳しい規律で隊士を統制し、近藤の右腕として新選組を最強の武装集団に育て上げる。戊辰戦争が始まると、旧幕府軍の指揮官として各地を転戦。最後まで新政府軍に抵抗し、蝦夷地の函館(五稜郭)で武士の信念を貫き通した。

といった感じで厳しくて怖いという印象がある土方だが、本作の副長は“こんな性格だからそう勘違いされるのでは?”というような恥ずかしがり屋。新選組の羽織を羽織っていないのも内気なキャラの表れ?

明るくて口が上手い沖田総司(倉悠貴)

新選組一番隊組長にして撃剣師範。「試衛館」時代からの近藤の弟子で、隊士随一の天才的な剣術の使い手として知られる。新選組の主要な戦闘に参加し、池田家事件でも活躍したが、病弱で結核も患っていたため、鳥羽・伏見の戦い(1868年)ののちに若くして亡くなった。

そんな生涯だったこともあって、沖田には儚く冷たいイメージを抱きがちだが、本作では全然そんなことはなく、明るくて口が上手い。「ケチな近藤さんなんて見たくないです。近藤さんに憧れていたのに」と言って、コンセプト茶屋に強引に誘おうとする。

龍馬もビビりまくるおりょう(広瀬アリス)

京都の医者の娘で、龍馬の妻。気丈で機転の利く性格で知られる。最も有名な功績は、寺田屋事件(1866年)の際に危難を察知し、身の危険を顧みずに急を知らせ、龍馬の命を救ったこと。その後、龍馬と向かった塩浸温泉(鹿児島県霧島市)の旅は、日本で最初の新婚旅行として語り継がれている。

おりょうに泣きつく龍馬 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
おりょうに泣きつく龍馬 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

本作ではそんなおりょうの“鬼嫁”の部分をクローズアップ。「オマエらもとっとと戦え!」と怒鳴り散らす彼女に、さすがの龍馬もビビりまくる。

ツッコミ役の大久保利通(矢本悠馬)

薩摩藩出身の政治家で「維新の三傑」の一人。沈着冷静なリアリストとして、維新後の新政府を牽引した。版籍奉還、廃藩置県などの重要改革を断行し、岩倉使節団に参加して欧米を視察。帰国後は内務卿として殖産興業を推進し、日本の近代化の礎を築き上げた。

武力によって江戸幕府を滅ぼすべきと唱える大久保利通 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
武力によって江戸幕府を滅ぼすべきと唱える大久保利通 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

けれど、本作の大久保はただのツッコミ役。くだらない言い争いをしている龍馬と後藤象二郎に向かって、「どっちでもいい。非常にどっちでもいい!」と吐き捨てる。

嫌味ったらしい後藤象二郎(賀来賢人)

土佐藩士で藩政を主導した。龍馬の政治思想に共鳴し、彼の「船中八策」に基づき、前土佐藩主の山内豊信を動かすと、将軍である徳川慶喜(勝地涼)に大政奉還を進言。この進言が幕府滅亡を決定付ける重要な役割を果たした。維新後は自由民権運動に関わり、政府の要職を歴任する。

「船中八策」を掲げ、平和的な解決を目指す龍馬と後藤象二郎 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
「船中八策」を掲げ、平和的な解決を目指す龍馬と後藤象二郎 [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

本作での後藤は「『船中八策』(なんてネーミング)、ダサい!安易オブ・ザ・イヤー」と言ってバカにするなど、龍馬と火花を散らしている。「中身を考えたのは僕。船の中で(新国家構想を)考えたなんて、どうでもよくね?」とも言い放つ嫌味ったらしいキャラで、龍馬と友好な関係だったとはとても思えない。

“新解釈”は市村正親が演じる歴史学者の独自の知見によるもの [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会
“新解釈”は市村正親が演じる歴史学者の独自の知見によるもの [c]2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

誰もが知る幕末の大事件の真実が、ムロツヨシや佐藤二朗らのやりたい放題の爆演で暴かれる『新解釈・幕末伝』。だがそれらは、本作に登場する歴史学者(市村正親)の解釈に過ぎないし、信じるか否かはあなた次第。まずは大笑いしながら、楽しんでほしい。

文/イソガイマサト

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