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「『式日』では岩井さんが痺れを切らして、勝手に演出を始めて…」庵野秀明と鈴木敏夫が岩井俊二の監督30周年記念トークイベントで秘話を明かす

  • 2025.12.20

『Love Letter』(95)や『スワロウテイル』(96)、『リリイ・シュシュのすべて』(01)などで知られる岩井俊二監督。そんな岩井監督の映画監督30周年を記念した特別上映企画「IWAI SHUNJI Film Works 30th Anniversary 1995-2025」の開催に合わせて、12月19日に豪華クリエイター陣が集うスペシャル企画が開催。岩井監督に加え、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの庵野秀明監督、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが駆け付け、三者が関わった映画『式日』(00)の上映&トークイベントを行った。

【写真を見る】「もともと考えていた企画は、ある方に反対されて頓挫しました」と語る庵野秀明監督

トークイベントでは『式日』制作時の裏話が語られた 撮影:ソムタム田井
トークイベントでは『式日』制作時の裏話が語られた 撮影:ソムタム田井

庵野監督の故郷である山口県宇部市を舞台に描かれた実写映画作品『式日』。主演を岩井監督が務め、プロデューサーを鈴木氏が務めた同作は、庵野監督にとって実写2本目の作品であり、岩井監督が演じたのは、主人公の“描くべきテーマを見失った映画監督”であるカントクだった。タイトルの「式日」は、儀式を行う日を意味する古語。物語は、創作の意味を見失った映画監督・カントクが都会を離れ、故郷を彷徨う中で、孤独を抱え“誕生日の前日”を生き続ける女性と出会うところから始まる。彼女の心の闇に触れ、受け止めたいと願うカントク。一方、彼女はカントクに恋愛感情を抱き、依存していく。「来るはずの明日」から逃げ続ける彼女と、現実に戻れないカントクの奇妙な32日間が、ドキュメンタリー風のタッチで描かれる。

『式日』撮影時のメイキング写真も公開された 撮影:ソムタム田井
『式日』撮影時のメイキング写真も公開された 撮影:ソムタム田井

『式日』は、スタジオジブリの実写レーベル「スタジオカジノ」にとっても記念すべき1作目に当たる作品だが、どういった経緯で制作されることになったのか?鈴木プロデューサーによると、もともとは特撮映画になる予定で企画が進んでいたという。「庵野監督には『風の谷のナウシカ』以来、いろいろとジブリ作品に関わってもらっていて。このあたりで何か、庵野監督で映画を作ろう…という話になったんです。そうして戦艦が出てくる大規模な特撮映画をやろうということになっていたんだけど、いろいろ変わっていって、こちらの『式日』に落ち着いたという次第です」

『式日』でプロデューサーを務めた鈴木敏夫氏 撮影:ソムタム田井
『式日』でプロデューサーを務めた鈴木敏夫氏 撮影:ソムタム田井

こちらの変遷については、庵野監督から意外(?)な裏話が語られた。「特撮はやっぱり作るのが大変そうで、話を進める中で『実現しないんじゃないか?』という危惧が出てきたんですね。で、実現できそうな内容の特撮に方向転換したんですけど、絶対的な権力を持つMさんに反対されてしまい、頓挫しちゃったんです。でもそこで『実現可能であれば、お金は稼げなくてもいい』と言ってもらって。じゃあお金が稼げない、とことんアートな映画を作らせてもらいます…ということで、『式日』の企画がスタートしたわけです。ただ、企画そのものは話が通って、順調に準備を進めていたんですけど、主役がなかなか決まらなくて。僕としては、役者よりも監督という職業を経験した人でにお願いしたくて、鈴木さんに相談したところ、岩井さんに声をかけていただいて。そうしてご飯を食べながら、出演のご相談をさせていただいたんです」

『式日』で監督・脚本を手掛けた庵野秀明監督 撮影:ソムタム田井
『式日』で監督・脚本を手掛けた庵野秀明監督 撮影:ソムタム田井

出演のオファーを受けたとき、岩井監督はちょうど『リリイ・シュシュのすべて』を制作していた最中だったという。時期的に厳しいかも…と思われたが、庵野監督より自身の作品の制作も同時に進められるプランを提示され、出演を快諾。そうしていざ、現場に参加したところ、自身の出番の多さに驚愕したと話す。「庵野さんが考えられる“監督”という役柄をやってほしい…というご相談だったので、役者としてではなく、ある意味、監督として現場に入らせていただくといった感覚でしたね。その頃はちょうど、『リリイ・シュシュのすべて』という作品でインターネット配信を行うタイミングだったので、これを同時にこなすのは難しいかなと思ったんですけど、『現場で撮影している以外の時間は、ホテルに戻ってそちらの作業をしていただいて大丈夫』とのことだったので、まあ、なんとかなるかなって思って。なので深く考えず、安請け合いをしてしまったんですけど、その後に送られてきた台本を見たら、登場シーンがものすごく多くて。これは本当に両立できるのか?と動揺したことを覚えてます」

『式日』では主演を務めた岩井俊二監督 撮影:ソムタム田井
『式日』では主演を務めた岩井俊二監督 撮影:ソムタム田井

そうしていざ撮影がはじまると、庵野監督からは具体的な演出の指示はなく、役者の自由な発想に任せるというスタンスで現場は回っていった。だが、とあるシーンの撮影中、そうした方針に岩井監督が痺れを切らしてしまったそうで、1シーンだけ、岩井監督が演出をつけた場面があるという。庵野監督は「主演の二人の前を、小学生の子どもたちが横切っていくワンショットがあるんですけど、僕はそこ、子どもたちには演出せずに、好きなときに行っていいよと伝えたんです。そんな感じなので、なかなかうまくはいかないんですけど、何回か回していちばんいいテイクを使おうみたいな感覚で撮っていたら、岩井さんが痺れを切らしてしまって。何人かの目立つ子を呼んで、君はこのタイミングで出てきて。君はこのタイミングで走って…と、細かく指示を出していたんです。じゃあここは岩井さんにお任せしよう、となって、僕はただ見ているだけでした」と明かす。

現場でのやり取りについて話す、庵野秀明監督と岩井俊二監督 撮影:ソムタム田井
現場でのやり取りについて話す、庵野秀明監督と岩井俊二監督 撮影:ソムタム田井

この話を受けて、岩井監督が「そんなことありましたっけ?痺れを切らすとか、あんまりないんだけどなぁ」と答えると、庵野監督は「あのシーンの撮影時は『俺だったらこうするのに!』というオーラが出ていました。でも逆に、新鮮でおもしろかったと思いますよ。改めて作中でこちらのシーンを見てみると、ここだけ岩井さんの映画っぽい雰囲気になっているので、ご覧になられる際はぜひ、注目してみてください」と返し、客席の笑いを誘った。

取材・文/ソムタム田井

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