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「初日は意外とみんな間違える(笑)」「またこの量のセリフを覚えるのかと思うけど…」稲垣吾郎が明かす“舞台のリアル”

  • 2025.12.20
稲垣吾郎さん。

舞台「プレゼント・ラフター」(Present Laughter)で主人公の人気俳優役を演じる稲垣吾郎。2025年7月から10月まで“ハリー役”を務めた舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」に続き、再び英国男性を演じつつ、大人の恋愛コメディに挑む。後篇では、どこか彼自身に重なるところもある役どころについて、そして2026年に向けた抱負も語ってもらった。


戯曲を書いたノエル・カワードから感じたバイタリティ

稲垣吾郎さん。

――この戯曲を書いたノエル・カワードは、俳優でもあり、とてもおしゃれな人だったそうです。男性がファッションとしてタートルネックを着たり、スカーフを首に巻くのは、カワードが100年くらい前にロンドンの舞台で着て登場したのが最初で、そこから流行したそうですよ。

ノエル・カワード、すごいですね。タートルネックって、フランスの実存主義の人たちの間で流行った、黒いタートルネックのイメージがあるけれど、その前なんですね。それは知らなかった。ファッションリーダーみたいな人だったんですね。100年前まで、タートルネックを男性が着てなかったというのにも、びっくりですよね。

――それまでイギリスでは、タートルネックは防寒着とか作業着という扱いだったらしく、街着として着ることはなかったらしいです。すごい影響力ですよね。

バイタリティを感じますよね。彼の資料を見ると、劇作家であり、作詞作曲家であり、俳優でもあるなど、いかに多彩な活動をしてきた人物かがよくわかります。ポール・マッカートニーやデヴィッド・ボウイをはじめ、イギリスの多くのアーティストや俳優たちが彼を尊敬しているのも納得です。

彼が脚本を手掛けた映画『逢びき』(1945年)は観たことがありますが、さらに掘り下げて、色々と勉強したいと思っているんです。

翻訳物のストレートプレイに挑戦したかった

稲垣吾郎さん。

――先日まで演じられていた大人になったハリー・ポッター(舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」)もとても吾郎さんに似合っていましたが、今回の喜劇俳優ギャリーもまるで当て書きのようです。「ガウンを17枚持っている」というセリフとか、まさにパブリックイメージの吾郎さんですよ。

あのセリフを僕に言わせるところが面白いよね。僕もガウンは着ますけど、さすがに17着は持ってない(笑)。でも、このギャリーという俳優の部屋着にもこだわっているところは見習いたいよねえ。僕もこういう英国式スタイルのファッションへの憧れはもちろんありますし、音楽も好きですし。

――脚本を読んだ時の、率直な感想を教えてください。

80年以上前にこんな作品を書いて、上演していたという事実に驚かされますよね。初演が1942年、まさに戦時中ですよ。でも、そういう時代だからこそ、コメディという表現が必要とされていたのかもしれない。当時の人たちがどんな思いでこの作品を観ていたのかなと想像するんですけど、実は昔も今もあんまり変わってないのかな、とも感じます。演劇だからこそ、今の時代だと叩かれちゃいそうなことも、コミカルに辛辣に描けるんですよね。

翻訳物のストレートプレイをやりたい、という思いもあったのでとても楽しみです。今年は舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」を半年ぐらいやっていたので、ちょっとまた気分も変わっていいですね。以前、舞台「VENUS IN FUR」(2013年)をやった時、すごく面白かったんです。演出家とオーディションにやって来た女優による二人芝居で、パワーバランスが徐々に、そして劇的に変化していく物語でした。

今回もシチュエーション・コメディで、舞台はほぼ同じ場所のまま、登場人物が次々と入れ替わり、スピード感がすごい。ただその分、セリフの量もすごくて、またこのセリフ覚えなきゃいけないのかな、とびっくりしますよね。でも、これを全部覚えている自分が2カ月後にはいるんですよ。

膨大な量のセリフを覚えるコツとは……?

稲垣吾郎さん。

――いつもすごいなと思うのですが、大量のセリフを覚えるのにコツはあるんですか?

舞台をやっていてそう言われることは多いのですが、褒められるのはすごく嬉しい(笑)。でも、やれと言われたら、誰でも絶対にできますし、覚えられますよ。僕に特殊な能力があるわけでは全然なくて、やらなきゃいけないからやるしかない。稽古も1カ月ぐらいあるから、ずっと繰り返し喋ってればいつか覚えられる。しかも、実は初日とかは意外とみんな間違えてますからね。

「ハリー・ポッター」の時も、最初の1週間より、演じ終えて1カ月経った今の方が、多分セリフの精度が上だと思います。実は昨日散歩しながらちょっとハリー・ポッターのセリフを喋ってみたら、まあまあまだ覚えているんですよ。面白いですよね。でも、あんまりそうやって覚えすぎちゃうのも危険なんですけどね。音で覚えているというか、もう舌が形状記憶してるみたいな感じ。

僕は朝、散歩しながらセリフを覚えています。それがすごく頭に入るんですよね。携帯とかで台本を写真に撮って、それを見ながら歩いて覚える。家だと好きなことしちゃったり、猫に邪魔されたりするから。いつも台本は猫に噛まれてボロボロですよ(笑)。

面白いのは、寝る前に全然セリフが覚えられてないと思っていても、寝るとその間に脳が整理されていて、朝起きた時には入ってたりするんですよね。不思議ですよね、なんかパズルが完成していくみたいな感じで。だからセリフを覚えるっていうのは、ちょっとゲーム感覚もあって、僕はそんなに苦じゃないんです。

――ギャリーは人気者として人に囲まれて暮らしつつも、孤独を感じて悩んでもいる。俳優としてそういう部分は通じるところがあるのではないですか?

僕自身はシンプルな人間だから、なんだか嘘ついてるみたいだなと思ったりもします。そんなに思慮深くはないし、眉毛が2センチぐらい上がって生きてるようなところがあるのに、なぜか眉間にしわを寄せてるみたいな役が多いので。人からはそう見えるのか、と。

――眉毛が2センチ上がるって、どういう感じなんですか?

(眉毛に手を当てて、上に引き上げながら)こういう、なんか穏やかに、考えすぎない感じ。舞台だと眉間にしわを寄せないといけない苦悩を演じることが多い。そもそも、主人公が苦悩するから悲劇だって喜劇だって、面白いんじゃないですか。だから、苦悩がちゃんと似合う人間でないといけないのかなとも思うし、でも実際に考えすぎる繊細な人間だったら、できない職業かもしれないですよね。

いいのか悪いのかわからないですけど、僕は客観的なところがあって、冷めた自分がいないといけないと思っている。でも熱くなって無我夢中な人に、見る人は心を奪われるじゃないですか。来世ではそういう俳優になりますよ(笑)。

僕もギャリーもせっかち。不思議と自分を見ているよう

稲垣吾郎さん。

――「プレゼント・ラフター」は現代的な物語ではあるけれど、1940年前後のロンドンが舞台です。吾郎さんは以前もベートーヴェンなど過去のヨーロッパに生きた人物を演じていますが、こういう場所も時間も違う人物を演じる時は、どのように役作りをされるんですか?

もう単純に稽古をして、迷いなくやる。自分はそういう人なんだ、って思ってやっていくしかないですし、それが説得力になっていくと思うんです。

本当は当時ならではの細かい所作とかもあるんだと思うんですけど、僕はそこまで緻密な演技というのはあまり得意ではないので、強引に役を自分側に引っ張っていく感じですかね。

――ギャリーは男の人も女の人も好きで、誰からも愛されたいと思う人物です。

うん、ちょっとそういうのは、俳優の性(さが)みたいなとこがあるかもしれない。わからなくはないですよね。そのくせ、身内に厳しくてね。

――ご自身にもそういう部分がありますか?

あるかもしれないです。

――よくラジオで僕は“イラチ”(せっかち)だ、っておっしゃいますよね(笑)。

それは嘘ではないんですけど、ただ、言った方が面白いかなと思って言ってるところもあるんですよ。でもやっぱり僕はせっかちだし、ギャリーもそういうところがある。

――ギャリーは常に慌てていて、落ち着きがない気がします。

そう、そういうところ。なんか不思議と自分を見てるような感じがするんです。あんまり認めたくないけど、そうなのよ(笑)。

――2026年への抱負を一言お願いします。

では「プレゼント・ラフター」で。これは今の楽しさとか、その場が楽しければいい、みたいな意味らしいんです。だから刹那的に、後先を考えずに今が楽しければいい、と言っておきます(笑)。でも1年間て、楽しく今を過ごすことの積み重ね。刹那的だし、ほんと英国的な言葉ですよね。

稲垣吾郎(いながき・ごろう)

1973年12月8日生まれ、東京都出身。アーティスト、タレント、ラジオパーソナリティなど幅広く活躍。俳優としては1989年に連続テレビ小説『青春家族』でドラマデビュー。翌1990年に『さらば愛しのヤクザ』で映画デビューを果たす。以降、ドラマ、映画、舞台などで見せた演技力が高く評価される。

文=石津文子
写真=平松市聖
スタイリスト=黒澤彰乃
ヘアメイク=金田順子

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