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お隣さんはどう見ても“反社”? しかも思いがけず「内緒の関係」に…『ナイショのお隣さん』【書評】

  • 2025.12.19
ナイショのお隣さん 風花 / 白泉社
ナイショのお隣さん 風花 / 白泉社

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期待の新人作家・風花による『ナイショのお隣さん』(白泉社)は、「こういう少女漫画が読みたかった」と思わせてくれる1冊だ。新人とは思えない安定した画力と、“王道”の中にさりげなく仕込まれた意外性のあるストーリー。恋の始まりを、甘さとちょっとしたスリルを交えながら描いていく展開に、思わず引き込まれてしまう。

どう見ても“反社”な隣人男性とひょんなことから関係が!?

主人公の春日理乃は、山奥の田舎から上京してきた女子高生。アパートでの一人暮らしにも少しずつ慣れ、楽しい毎日を送っていたが、ひとつだけ問題があった。隣の部屋に、どう見てもヤクザな男性・藤堂馨が住んでいるのだ。「反社とは絶対に関わらない」と心に決めていた理乃だったが、ある日、藤堂が玄関前で倒れているのを見つけてしまう。それをきっかけに、なぜかご飯を作ってあげる関係が始まり……!?

本作は『花とゆめ』ならではの少し変わった設定を軸に、ときめきがたっぷり詰まった作品だ。気になる人を見つめる心の揺れが丁寧に描写されており、「とにかく甘酸っぱいラブストーリーが読みたい!」という人にぴったりだろう。

何かに没頭すると生活が崩壊してしまう隣人・藤堂に頼まれ、理乃は「ご飯係」を引き受けることに。強面で近寄りがたい雰囲気の藤堂だが、理乃の手料理を食べてふっと笑う顔は、年相応の青年そのもの。その柔らかい笑みに、思わずきゅんとするはずだ。

電車も信号もない村で育った理乃にとって、都会の生活は戸惑うことばかり。コーヒーショップでの注文の仕方ひとつとっても勝手が掴めない。そんな理乃のために、藤堂は一緒にお店に行き、買い方を教えてくれる。「こんなことのためにすみません」と恐縮する理乃に対し、「理乃ちゃんにとっては『こんなこと』やなかったやろ」と優しく返す藤堂。他愛ないやり取りのはずなのに、どうしてこんなにも印象に残るのだろう。

「他の人のご飯を食べてほしくない」無自覚なヒロインの発言に、“お隣さん”もタジタジ

はじめは藤堂を怖がっていた理乃だが、ともに過ごすうちに彼の優しさに気づいていく。交流を続け、彼女自身にも変化が訪れる。慣れない都会を歩くことに弱気だった理乃。しかし、街中へ一人で買い物に出かけるようになるなど、一歩を踏み出せるようになっていくのだ。

また、理乃の中には「もっと大人になりたい」という気持ちも芽生えていく。歳の差を意識してもどかしく思う一方で、「藤堂さんには笑顔でいてほしい」「他の人のご飯を食べてほしくない」など、さらりと無自覚な発言も。これには大人なはずの藤堂も思わずタジタジ。理乃は藤堂に振り回されていると思っているが、実は振り回しているのは彼女のほうなのかもしれない。

そして本作には、読者の予想を軽やかに裏切る“意外な仕掛け”がある。詳細は秘密だが、思わず「一杯食わされた!」と声を上げてしまった。新人作家とは思えないミスリードと構成力の巧さだ。

『ナイショのお隣さん』第1巻は12月19日発売。手料理を通じて距離が縮まっていく関係。ふたりは果たして、ただの“お隣さん”のままでいられるのだろうか……。

文=倉本菜生

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