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【12月・1月公開映画】放送作家・町山広美が厳選!年末年始に注目の映画2選!

  • 2025.12.19

InRedの長寿映画連載「レッド・ムービー、カモーン」。放送作家の町山広美さんが、独自の視点で最新映画をレビュー。

誰からも顧みられずとも 自分は自分を見てるから

男2女1。物語によく使われる構図だ。とりわけ映画では、男の作り手がその三角形に願望や自己憐憫やらを気持ちよく流し込んできた。 だから、『グッドワン』の変奏は笑える。父親とその親友、おっさん二人と17歳の女子サム。色気なき三角形で、NY郊外の広大な自然公園に2泊3日、トレッキングを楽しむのだが。 父親は、離婚に泣く友マットを励ます俺、再婚を遂げた上に前妻の娘が趣味につきあってくれる俺に満足げだ。マットはそんな友に甘えて、キャンプの準備もザツ。サムを困らせ、延々とつまらない話を聴かせ、しょうもないちょっかいを出す。車の窓を開けて風を当ててきたりとか。うざい。 サムはそれらに、うすいニコニコを返す。タイトルが意味するところの「いい子ちゃん」。何より父親がそう決めつけていて、トレッキングの技術が身についてる彼女の様子に、父親から素直に教わってきた子ども時代が見える。 でも、心に澱が溜まっていく。澱になる些細な違和感の解像度が、この映画はとても高い。例えば、若い男性グループと遭遇して父親たちが盛り上がる場面。カメラは、彼らに顧みられずともニコニコする、サムの顔にさす筋肉の強張りを捉える。演じるリリー・コリアスの表現力、そして本作で長編デビューを遂げた監督・脚本のインディア・ドナルドソンの、観察力と抽出力の賜物だ。ああこういうモヤモヤ知ってる、と多くの若い女性や元若い女性が思うだろう。この映画には、ずっと居たのに顧みられなかった人物の視点、ずっとあったのに顧みられなかった感情からアメリカ映画を作りなおす女性監督の先輩、ケリー・ライカートの影響が見える。 さてサムはどうする。じゃれ合うおっさん二人は、サムに一個の人格を認知せず、壁打ちさながら、自分らばかり感情を垂れ流してくる。こんな、鋭い痛みはないがダメージが蓄積していく暴力に、どう対抗するのか。 その結末を、エンディングの曲が縁取る。シンガーソングライターの先駆けでありながら埋もれ、50年以上も顧みられない存在だったコニー・コンヴァース。早すぎた才能を親に疎まれ失意のうちに失踪して人生を終えた彼女が、理知と情感の織りなす声で歌った、孤独との親密。サムが、ひとりの人間として自分を築こうとしている、孤独を引き受ける準備があることを祝福するようにその歌は響く。

世界屈指の量産監督ホン・サンスによる『小川のほとりで』は、女2男1の3人が囲む美味しい食卓を核としながら、重層的に展開される。 ジョニムは、ソウルの女子大で講師を務める40歳の女性。学生の演劇イベントのため、指導者として叔父を招く。前任者と学生の間で恋愛がらみのトラブルが起きたがゆえの、急なお願い。かつて叔父は人気俳優だったが、失脚したようだ。ジョニムの恩師である学部長、彼女はもともと叔父のファンで、二人は食卓を囲むうち急接近。ジョニムは居心地が悪そうだ…。 周囲は恋愛で騒がしいのに、主人公自身に起こる出来事はない。彼女は、何も起こらないよう心がけて生きているからだ。だから「グッドワン」同様、孤独についてのお話でもあるが、主人公を出来事の周縁に立たせることで描き出してみせる企みが凄い。 そして最も感動的な場面にも彼女は不在で、この映画のモブ、その他大勢に見えた学生たちからもたらされる。劇の本番を終えた酒の席で叔父が学生に、「こんな人間になりたい」を詩で即興してみてと頼む。詩人の国韓国らしい、おっさんの感傷的なムチャぶり。でもそれに誠実な言葉が次々返されるのだ。自分という人間を作ろうとしている、自分を真摯に見つめる若い言葉が、突き刺さる。

『グッドワン』

24年 アメリカ 89分 監督・脚本:インディア・ドナルドソン 出演:リリー・コリアス、ジェームズ・レグロス、ダニー・マッカーシー 1/16(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

©2024 Hey Bear LLC.

『小川のほとりで』

24年 韓国 111分 監督・脚本:ホン・サンス 出演:キム・ミニ、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、ハ・ソングク、カン・ソイ、パク・ミソ 12/13(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

© 2024 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.

文=町山広美

放送作家、コラムニスト。担当番組に「有吉ゼミ」「マツコの知らない世界」など。東京と沖縄で2拠点生活をしている。

イラスト=小迎裕美子

※InRed2025年10月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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