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「アバター」ジェームズ・キャメロンが来日中に語った、自身の価値観を反映した“アクション”「人類がもつ悪い価値観を浄化する」

  • 2025.12.19

2009年に3D映像革命を巻き起こし、現在も世界興行収入歴代1位に君臨するジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(09)。13年ぶりの続編『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22)も世界興収第3位の記録を保持している。そんな大ヒットシリーズの最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』が公開中だ。

【写真を見る】ジェームズ・キャメロン監督が堂々宣言!「自分の映画はすべて3Dで撮るつもり」

MOVIE WALKER PRESSでは、前作『ウェイ・オブ・ウォーター』のキャンペーン以来3年ぶりに来日を果たしたキャメロン監督に直撃インタビューを敢行!自身の価値観を反映した脚本制作から、いまもなお3D映画にこだわる理由まで「アバター」制作の舞台裏を語ってもらった。

「人間の死に様がひどければひどいほど、みんなが盛り上がる(笑)」

来日中のジェームズ・キャメロン監督に直撃インタビュー! 撮影/木村篤史
来日中のジェームズ・キャメロン監督に直撃インタビュー! 撮影/木村篤史

――映画が未完成時のインタビューでは「『ファイヤー・アンド・アッシュ』はアクション映画ではない」とおっしゃっていましたが、前2作よりアクションが多いのではないかと思ったほどでした。というか、アクションだけではなく物語そのものも前2作よりヘビーというか痛かった…。

「いや、量としては同じくらいのはずですよ。表現もより暴力的になったとは思ってないんですが…私がそういう発言をしたのは今回、親密な小さな瞬間が増えたからです。例えばネイティリ(ゾーイ・サルダナ)は長男を失った悲しみや怒りを抱えていてダークなほうに導かれたりする。“痛い”と感じてくれたということは、キャラクターの心情とちゃんとシンクロしてくれたということでしょ?もしかしたら私は成功したんじゃないでしょうか。誉め言葉として捉えますよ(笑)。3作目の私が望んでいるゴールは、皆さんにエモーションを感じてもらうこと。私はこの映画を、これまでの2本よりも『タイタニック』に近いと思っているんです。

もちろんアクションもあります。でも、子どもたちの成長にも目を向けて欲しいんです。確執のあるジェイク(サム・ワーシントン)と次男のロアク(ブリテン・ダルトン)の関係性も、ロアクの成長でひとつの解決を見ることができるし、長男の死で亀裂が入っていたジェイクとネイティリも、ある決断を迫られるシーンでネイティリが自分の心と正直に向き合えて、夫婦の絆を修復できたりする。そういうところに皆さんがエモーションを感じてくれると信じています」

アクションに続くアクション!シリーズいちの盛り上がりとなる本作 [c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
アクションに続くアクション!シリーズいちの盛り上がりとなる本作 [c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――アクションが多いと感じたのは、これまで平和を信じていたキャラクターやクリーチャーまでもが闘いを選ぶからなのかもしれません。

「完全な平和主義者がいて、完全な悪がいる。ジェイクたちの立ち位置はそのど真ん中です。悪は本当にアグレッシブで、ジェイクたちの全滅を望んでいる。人間の標的になっているトゥルクン(クジラに似た知性をもつ海洋生物)は完璧な平和主義者で、なにがあろうと暴力や闘いは許さない。そして、ジェイクも暴力を望まない。しかし、自分の子どもたち、自分の一族が命を落とすかもしれないという瞬間が訪れた時どうすればいいのか?本作でのジェイクの葛藤はそこにあります。人間なら誰でも、自分の大切な人を守らなければ、コミュニティを守らなければという瞬間が来る。自分に問わなければいけない時が必ず来るんです。言い換えれば、暴力は果たして悪いのか?という問いにもなります。私は、そのようなモラル的な一線を考えながら撮ったのです。

私の考えを言うと、正義のために戦うことは必要なのかもしれない。ただし、それには大きな勇気が必要ですけどね!」

クジラに似た巨大生物のトゥルクン。ナヴィ族と交信することができる [c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
クジラに似た巨大生物のトゥルクン。ナヴィ族と交信することができる [c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――そういうあなたの価値観を反映したかのようなハイライトのアクションシーンには燃えまくりました!

「イカのような新しいクリーチャーが活躍するアクションですね?彼らに人間がやられると皆さん、めちゃくちゃ盛り上がるんです(笑)。おもしろいですよね。この映画を観てくれているのは人間なのに、同じ人間が殺されると大喜びする。誰もがエイリアンのほうを応援してしまうんです。私たちは、ナヴィ族が善、人間が悪と明言したつもりはないんですが、彼らをリスペクトしたくなる側面、私たちのそうありたいと思ってしまうような側面を描いてはいますけどね。

その一方で、登場する人間たちは、私たちが嫌いな要素をたくさん抱えている。強欲者、自然破壊者、植民地主義者…美しいパンドラの自然を蹂躙し、クリーチャーやナヴィ族を平気で殺すので、気が付けばみんなナヴィを応援しているんです。『こんな人間、死んでヨシ!』という判断を下しているためなのか、死に方がひどければひどいほどみんなが盛り上がる(笑)。まるで、人類がもっている悪い価値観を浄化しているような感覚なのかもしれません。

そういうなかで私が感じるのは“シネマ”の力です。同じ人間の死を望むんですから!シネマは、自分の立ち位置すら変える力を持っているということです」

「もしかしたらこの映画は、私にとってセラピーなのかもしれない」

――様々な点でいまの時代を反映している映画だと思いました。脚本を書いたのは随分前だと聞いていますが、時代に合わせて書き直したのでしょうか。

「おもしろいですね。すでに(本編を)観た人から同じように『すごくタイムリーな話だ』『脚本を書いたのは10年前でしょ?どうしてこうなるとわかっていたんですか?』と訊かれました。それは私にもわかりません。私が単にラッキーだっただけなのかもしれません。でも、確かにこの映画は、いまの時代に起きている分断について語っています。一緒に力を合わせて壁を乗り越えようという意志が困難に直面しているんです。この映画は、そういう状況がどうやって生まれるのかを描いています。そしてキャラクターたちは、その解決法を見つけようとします。それが私たちにヒントを与えてくれることになるといいんですが…」

ジェイクたちの前に立ちふさがる、炎を操る“圧倒的な悪役”のヴァラン [c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ジェイクたちの前に立ちふさがる、炎を操る“圧倒的な悪役”のヴァラン [c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――人間に捕まり晒し者のように扱われているジェイクを、前作から登場している海洋学者がついに改心して助けます。あなたも海洋学を専攻していたので、つい重ねてしまったのですが。

「私は最初、海洋生物学を学び、それから物理学に移りました。映画のなかで彼が『私は海洋学者です』と言ったらみんなが無視するのは、私なりのジョークなんですけどね(笑)。彼に限らず、あらゆるキャラクターに私が投影されています。すべてのアートはパーソナルであるべきというのが私の見解です。これはフランチャイズ作品だとはいえ、誰かに雇われてつくっているわけではありません。完璧に自分のストーリーテリングです。だから私が投影されているんです。ジェイクは父親で、私も5人の父親。10代のころの私は厳しい父親のせいで苦悩したものです。私のアーティスト的な側面をまるで理解してもらえず、カッとなったことが何度もありました。そういう父親が嫌だったし、そういう価値観と闘って来たのに、気が付けば5人の子どもたちに、私の父親と同じように接していた。いつの間にか、そういう父親になっていたんです。この脚本は15年くらい前に書いたのですが、10代の悩みや反抗を親と子どもの視点から見ることができたと思っています。もしかしたらこの映画は、私にとってセラピーなのかもしれませんね」

【写真を見る】ジェームズ・キャメロン監督が堂々宣言!「自分の映画はすべて3Dで撮るつもり」 撮影/木村篤史
【写真を見る】ジェームズ・キャメロン監督が堂々宣言!「自分の映画はすべて3Dで撮るつもり」 撮影/木村篤史

――前作以来に3Dで映画を観ました。3Dにこだわっているのはあなただけだと思いますが、これからも3D映画を作り続けられますか?

「私はこれからも、自分の映画はすべて3Dで撮るつもりです。なぜかといえば人間は2つの目で見ているからです。目だけではなく脳も使って映画を観ているので、意識はしてなくても脳のある場所ではいろんなものが覚醒している。だから、映像的な要素はもちろん、キャラクターたちのエモーションも3Dだからこそ高まったところはあると信じています。つまり、演技も音楽も3Dであることで少しずつパワーアップして観客をより魅了している、ということです。

にもかかわらず、世の中にはもう3D映画はない…そこには多くの問題があります。一つは興行側の問題です。光量のレベルがどうしても足りないなど、改善するためには興行サイドに出資をお願いするしかないという現実はあります。それでも私はこの先、映画が生き続けるため、劇場が存続するために3Dが果たす役割はあると信じています。映画的経験をユニークにしてくれるからです。家では絶対に味わえませんからね!」

 『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』は公開中! [c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』は公開中! [c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

取材・文/渡辺麻紀

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