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ファンの声が“本物”にした人気ゲーム『ニーア オートマタ』2Bの剣。異業種の挑戦が生んだ誠実なモノづくりの裏側

  • 2025.12.19

株式会社スクウェア・エニックス(以下、スクウェア・エニックス)の人気ゲーム『ニーア オートマタ』に登場する主人公・2Bの象徴的な武器「白の契約」。その等身大レプリカが、スクウェア・エニックスの全面監修のもとヒビノ株式会社から発売され、2025年6月6日より公式ECサイトで予約販売が開始され話題となった。

ゲームの世界観を現実へと持ち込むこのプロジェクトは、作品の熱心なファンはもちろん、コスプレイヤーやコレクターたちからも待望のアイテムとして大きな注目を集めている。

今回は、このスマートトイ(※)「白の契約」を開発したヒビノ株式会社 アニテック事業室 マーケティング担当 森脇宏恵さんに、企画が生まれた経緯から製品に込められたこだわり、そしてファンからの熱い反響について話を聞いた。

※多様な技術が搭載された次世代玩具

『ニーア オートマタ』の主人公2Bの魂が宿るとされる剣「白の契約」。スクウェア・エニックスの完全監修のもと、その等身大レプリカがついに現実世界に姿を現した 【画像提供=ヒビノ株式会社】
『ニーア オートマタ』の主人公2Bの魂が宿るとされる剣「白の契約」。スクウェア・エニックスの完全監修のもと、その等身大レプリカがついに現実世界に姿を現した 【画像提供=ヒビノ株式会社】

「感動を届けたい」コロナ禍を越え、企画者の“熱”から生まれた新規事業

――まず、これまでの事業とは全く異なる、ゲームのアイテムを開発することになった経緯を教えてください。

【森脇宏恵】弊社は基本的に音響映像系のBtoBビジネスが主体の会社なのですが、コロナ禍では大きなダメージを受けた事業もありました。そこで新規事業の重要性が高まる中、生まれたアイデアの一つがスマートトイというジャンルでした。

もともと弊社は「音と映像で、世界に感動をクリエイトする」というパーパスを掲げています。ゲームやアニメの世界観をリアルに再現したアイテムで、お客さまに新たな感動をお届けできるのではないか。そこに事業としての親和性を見出し、プロジェクトのゴーサインが出たという形です。

試作段階では1.8キログラムだったが、製品版では1.2キログラムまでの軽量化を遂げた。※これはデザインモック用のサンプルであり、量産品とは仕様が異なる可能性がある 【撮影=西脇章太】
試作段階では1.8キログラムだったが、製品版では1.2キログラムまでの軽量化を遂げた。※これはデザインモック用のサンプルであり、量産品とは仕様が異なる可能性がある 【撮影=西脇章太】

――その記念すべき第一弾として『ニーア オートマタ』を選ばれた決め手は何だったのでしょうか。人気作の『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』なども候補にあったのでは?

【森脇宏恵】はい、もちろんそういったメジャータイトルも検討しました。ですが、「ニーア」には唯一無二の独特な世界観があります。

そして何より大きかったのは、弊社の商品企画担当者自身が『ニーア オートマタ』の大ファンだったという事実です。「このすばらしい世界観をどうにかして現実世界で表現できないか」という個人的な“熱”が、すべての始まりでした。

――なるほど。企画担当者の作品愛が原点だったのですね。

【森脇宏恵】そうなんです。なかでも主人公2Bが携える「白の契約」は、ファンの間で「2Bの魂が宿っている」とまで言われる特別な存在。これを商品化したら、きっと同じように作品を愛するファンの方々に喜んでもらえるはずだ、と。

「こういうものがあったうれしいだろうな」という、自分たち自身の願望を形にするところからスタートしました。

――予約開始直後の反響は予想以上だったと伺いました。

【森脇宏恵】想定を遥かに超えるものでしたね。予約開始を金曜日の午後に設定したのは、「週末にゆっくり悩んでいただければ」という意図があったからなんです。

ところが、その考えを上回る形で、予約開始と同時に注文が殺到しました。ウェブの情報だけで「買うぞ」と決めてくださっていた方たちが、私たちの予想以上に多かったということですね。

開発中の商品。写真に写っている専用ソフトケースのほか、ライトリング付きスタンドを商品化 【撮影=西脇章太】
開発中の商品。写真に写っている専用ソフトケースのほか、ライトリング付きスタンドを商品化 【撮影=西脇章太】

“ファンと共に創る”という選択。1/1スケールへの道を拓いた声

――サイズは最初から原寸大、つまり1/1スケールで進めていたのですか?

【森脇宏恵】いえ、それがすごく悩んだポイントでして…。ゲームに登場する武器は、キャラクターが持った時に見栄えがするように、実際の人間のスケールよりも誇張して大きく描かれがちです。

そのため、全長139センチにもなる1/1スケールでは、リアルで再現すると大きすぎるのではないか、という懸念が正直ありました。

私自身も内心「ちょっと大きすぎるのでは?」と思っていたくらいです(笑)。そのため、企画の初期段階では120センチくらいの少し小ぶりなサイズも検討していました。

――その迷いを断ち切るきっかけは何だったのでしょうか?

【森脇宏恵】ファンの皆さんの声でした。2024年8月、まだ企画が本格始動したばかりの段階で、「ニーア」シリーズの関係者の方々が出演される配信番組で、等身大の試作のプロップをお披露目していただく機会がありました。その時の視聴者コメントが、私たちの背中を強く押してくれたのです。

――具体的にはどのような反応がありましたか?

【森脇宏恵】「やっぱり1/1スケールがいいよね」「本物感があって最高」といったコメントを本当にたくさんいただきました。

とりわけ印象的だったのは、女性ファンの方からのご意見です。私たちは「女性には大きすぎるかもしれない」と考えていたのですが、「いや、絶対に1/1がいい!」という声も多く、ゲームへの没入感を求めるファンの純粋な気持ちに触れることができました。まさに、ファンと共に創り上げた仕様と言えるでしょう。

細部にまでこだわりが光る 【撮影=西脇章太】
細部にまでこだわりが光る 【撮影=西脇章太】

「推し活」に寄り添う徹底したこだわり。開発陣の飽くなき挑戦

――コスプレイヤーの方々からの反響も大きいと伺いました。何か特別な工夫はありますか?

【森脇宏恵】はい、特にコスプレイヤーの方、中でも女性が扱いやすいようにということは強く意識しました。現在の試作品は1.8キログラムほどあるのですが、これではポーズを取るのも一苦労です。

そこで、軽量化を進め、最終的には1.2キログラムになりました。ただ軽くするだけでは質感が損なわれてしまうので、設計担当とは「重厚感を残しつつ軽くしてほしい」「いや、それだと質感が伝わりにくくなる」と、そのバランスを巡って日々駆け引きを重ねている状況です(笑)。

――まさに職人技ですね。他にもこだわりのポイントは?

【森脇宏恵】ギミックにも注力しました。ジャイロセンサーを搭載しており、剣の振り方に応じて光り方や斬撃音が変化します。さらに、最近の「推し活」ではSNSへの投稿が欠かせませんよね。

ファンの方から「光った状態で写真を撮りたいから、発光したまま保持できる機能が欲しい」という声をいただき、SNS投稿をアシストする「フォトモード」のような機能も搭載しています。

リアルな質感を再現するため、一部は金属で作っているのだそう 【撮影=西脇章太】
リアルな質感を再現するため、一部は金属で作っているのだそう 【撮影=西脇章太】

――ファンの声がどんどん製品をよくしていく、すばらしい循環ですね。

【森脇宏恵】ええ、本当に。ほかにも、柄の組み紐は本物の日本刀を参考に再現したり、歴戦の雰囲気を出すためにあえて汚し塗装(ウェザリング)を施したりと、細部まで作り込んでいます。

また、「大切な『白の契約』を振り回すなんてできない。普段は飾って眺めているだけでいい。特別な時にだけ触れれば大満足」というファンの声にお応えして、ディスプレイ用スタンドと、保管ケースも商品化を進めています。

異世界の武器でありながら、日本の伝統技術が息づく、まさに「用の美」を体現した結晶と言える 【画像提供=ヒビノ株式会社】
異世界の武器でありながら、日本の伝統技術が息づく、まさに「用の美」を体現した結晶と言える 【画像提供=ヒビノ株式会社】

世界へ広がる2Bの魂と、「期待を裏切らない」誠実な約束

――海外からの反響はいかがですか?

【森脇宏恵】ありがたいことに、SNSなどを通じて情報を知った海外の方からのお問い合わせが後を絶ちません。弊社としてはアメリカと中国での販売を検討中です。「ニーア」を愛するファンが、本当に世界中にいらっしゃるのだと日々実感しています。

――販売は期間限定なのでしょうか?

【森脇宏恵】はい、現時点では期間を絞っての販売になるかと思います。長く市場に出回ると価値が下がってしまう懸念があるためです。今後の販売計画は慎重に決めていく予定です。

幾多の戦いを経て刻まれた刃こぼれや錆、使い込まれた柄の風合いが見事に再現されている 【画像提供=ヒビノ株式会社】
幾多の戦いを経て刻まれた刃こぼれや錆、使い込まれた柄の風合いが見事に再現されている 【画像提供=ヒビノ株式会社】

――今後の展開も楽しみでなりません。

【森脇宏恵】ありがとうございます。もちろん、今後もさまざまな作品のアイテムを展開し、皆さんの「推し活」を応援していきたいという想いはあります。ただ、今はまず、この「白の契約」をなんとかしなければ、という気持ちが強いですね。

――最後に、商品の完成を心待ちにしているファンへ、メッセージをお願いします。

【森脇宏恵】正直なところ、これだけの期待を背負っているプレッシャーと、少しばかりの不安も感じています。皆さんが寄せてくださる期待の大きさを思うと、「本当にその期待を超えるものをお届けできるだろうか」と、自問する毎日です。

ですが、それほどのプレッシャーを感じるのも、原作である『ニーア オートマタ』が、それだけ多くの方に愛されているすばらしい作品だからこそだと思っています。

ですから、私たちはその作品の名に恥じないよう、そして何より皆さんをがっかりさせないよう、最後まで責任を持ってこの「白の契約」を開発しきることをお約束します。

2Bの戦う姿を、その魂を、この手で感じられる。そんな商品に仕上げますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。

ゲーム画面で何度も目にした、あの美しい装飾が現実に。思わず指でなぞりたくなるような精緻な作り込みは、ファンにとって何よりの贈り物と言えるだろう 【画像提供=ヒビノ株式会社】
ゲーム画面で何度も目にした、あの美しい装飾が現実に。思わず指でなぞりたくなるような精緻な作り込みは、ファンにとって何よりの贈り物と言えるだろう 【画像提供=ヒビノ株式会社】

(C)SQUARE ENIX

取材・文=西脇章太(にげば企画)

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