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東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第28回(やまぎわ)「芸人の失敗 社会人の失敗」

  • 2025.12.18
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」 提供:無尽蔵やまぎわ
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」 提供:無尽蔵やまぎわ

サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出・「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が交互に綴っていく。第28回はやまぎわ回。

第28回(やまぎわ)「芸人の失敗 社会人の失敗」

寒い…寒いですね…寒いと頭が働きませんよ本当に…。

冬は落ち込みがちな季節です。冬に落ち込んでいる方、必要以上に落ち込まないでください。「冬季うつ」という言葉もあるように僕らの感情は、感情から程遠い気温や食べた物と言った外部要因に左右されます。僕らは人間である前に動物です。意外とあなたのせいではないかもしれないです。

漫才師にとって冬は敗北の季節です。最大手賞レースのM-1グランプリがいよいよ佳境を迎え、11521組中の11520組には敗退が告げられます。

準決勝に進出したと言う、僕らにとっては天まで届くような嬉しい結果を得た人たちですら、敗退を告げられた際には悔しい表情を浮かべています。

ただ僕らで言うところの「M-1 準々決勝敗退」が、単に落ち込むべき「失敗」なのか、という話になると、それは熟慮すべき問題だと思います。

話は変わりますが、僕は普段会社員として働いておりまして、会社で数多くの失敗をしてきました。

例えば、偉い人にお送りするデータの中に誤字や誤情報が含まれてるなんてことですね。これは本当に肝を冷やします。

僕は人事として勤めているので、会社内用のカレンダーを作らないといけないのですが、僕の確認不足で5/31が消失してしまっていました。年間休日を決める問題で社長決裁を取らなければならないのですが、5/31が消えたカレンダーで社長決裁を取得してしまっていました。上司は驚いたでしょうね。東大卒の人間がカレンダーから5/31を消滅させていたなんて。あれは本当に申し訳なかったです…。

昨年度は新卒1年目でしたので「まあ誰にでもミスはあるよ」と許していただいたのですが、やっぱり同じミスが何回も続いてしまうと問題です。

よく会社の中で使われる概念として「信頼残高」という言葉があります。日々の仕事ぶりから少しずつ信頼残高を貯金できれば、多少無茶なお願いも「まぁあの人が言うなら」と認めてもらえます。しかし、信頼残高が減るのは一瞬です。

一つのミスで誰かに大きな迷惑をかけてしまったとしたら、その人の中では「あ、あいつはあかん奴や」と認定されてしまい、その信頼を回復するのはとても難しいです。不祥事を起こした企業が名前を変えて再スタートするのも、一度ついた負のイメージを払拭することの難しさを物語っているでしょう。

だからこそ、気をつけていても同じミスを繰り返したりしてしまうと僕は落ち込みます。人に迷惑をかけることはもちろん、人に無能認定されたのではないか、と思い凹みます。

ただ、こと芸人となると、特に僕のような無名芸人にとってはですが、信頼残高という概念がそもそも機能していないように思います。

そもそも失敗を失敗と認識されないと言いますか。会社のような一つの閉鎖的な世界ではありませんから。

例えばM-1の決勝に進出して、「え…?でもこのコンビ、2年前は2回戦で敗退してたコンビでしょ…?ほんとにおもろいの…?」とならないのが芸人のすごいところです。成功して初めて多くの人の目に触れることができるのです。

一度成功するまで僕たちは失敗し放題のようです。であれば、できるだけ前向きな失敗や価値のある失敗をした方が成功までの効率がいいです。後ろ向きの失敗や守りに行っての失敗も別にしてもいいですが、あまり学びにはなりません。

なので今年のM-1で負けてしまった時も、人程は悔しくはありませんでした。何回予選で足踏みしようが、どこかで一回上振れられればそれも苦労話として半ば強制的に美化されるでしょう。

しかし、今年のM-1は例年と少し違う感情も確かにありました。それは遅効性でジワジワとたち上る感情でした。

一つは普段ライブをご一緒する方々からたくさん準決勝に進まれたことでした。準決勝が数年前までの絵空事ではなくなり、勝者と敗者(自分)の違いや足りていない物がクッキリと具現化されたのです。この人たちに比べて自分はこの部分で劣っている、ということがハッキリと浮かんだ時そこには確かな悔しさがありました。

もう一つは「今年は無尽蔵あるぞ」という声の存在でした。今年は1人ではない、それなりの人数の方々から期待いただいていたのにも関わらず、その期待に応えられなかった。その事に確かな申し訳なさを感じます。先ほど芸人には信頼残高はないというような話をしましたが、そんな応援してくれている人の信頼残高を削ってしまったのではないかと悲しくなります。

覆水は盆に帰りません。これからの自分に大事なのは過去の失敗を繰り返さないようにしようとする真摯な態度でしょう。

■無尽蔵

サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出、「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出。

無尽蔵 野尻 Xアカウント:https://x.com/nojiri_sao

無尽蔵 野尻 note:https://note.com/chin_chin

無尽蔵 やまぎわ Xアカウント:https://x.com/tsukkomi_megane

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