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“パソコンが苦手な地方在住の人”ほどチャンスって本当?AIコミュニティ運営のプロに聞く「AI人材不足」のリアル

  • 2025.12.18

ニュースで目にするAIの話題といえば、大企業やIT業界の華やかな成功事例が多いのではないだろうか。では、地方の商店街や農家、そしてあなたの身の回りではどうだろう。「そもそもパソコンが苦手」「身近に聞ける人がいない」と、スタートラインにすら立てずにいる人も少なくないかもしれない。かといって、オンライン講座さえ用意すれば解決、という単純な話でもない。紙とFAXが当たり前の現場では、「これからはAIだ」と言われても、何から始めればよいのかわからず、戸惑いだけが募っていくのが実情である。

そうしたなか、会員数2.5万人超のビジネス向けAI学習コミュニティを運営する株式会社SHIFT AIがあえて選んだのは、47都道府県それぞれに“ゆるくAIに触れるリアルな場”をつくるアプローチだった。この「ゆるっと作業会 47PROJECT」(以下、「47PROJECT」)から、AIとは無縁に見えた人たちの働き方が変わり始めているという。

そこで今回は、SHIFT AI コミュニティ事業本部ゼネラルマネージャー・西田健太郎さんに、地方が直面するAI人材不足のリアルと、「47PROJECT」を通じて全国に広がる“リアルな場づくり”の狙いについて聞いた。

【画像】「日本をAI先進国に」を掲げる株式会社SHIFT AIが仕掛ける施策とは一体?
【画像】「日本をAI先進国に」を掲げる株式会社SHIFT AIが仕掛ける施策とは一体?

AIを使いたい会社だらけなのに、動かせる人がいない

生成AIブーム到来から久しいが、これをきっかけにあらゆる業界で「AIを活用したい」というニーズが急拡大した一方で、「実際に動かせる人」が足りていないというギャップが生まれている──これがいま言われている「AI人材不足」である。

「ここでいうAI人材とは、難しいプログラミングができる一部の専門家だけではありません。ChatGPTのような生成AIがどんな場面で役に立つのかを理解し、自分の仕事の流れの中にうまく組み込んで、成果物のスピードや質を上げていける人たちのことを指します」

しかし現場では、「AIを使おう」と上からの号令だけが先行し、具体的にどんな仕事にどう組み込めばいいか設計できる人が少ないのが現状である。看板だけの「AI活用」が増え、中身が伴っていない例も目立つ。

「大学や専門学校でAIを本格的に学べるようになったのはここ数年で、そこで育った人材もまだわずかです。企業内研修も十分とは言えず、『AIに詳しい社員がいない』『何から学ばせればよいかわからない』という声が多く聞かれます」

さらに、経験を積んだ人が、より高い給料や自由な働き方を求めて他社や海外に移ってしまうケースも増えている。その結果、「AIを使ってみたい会社」は多いのに、「一緒に考え、形にしてくれる人」が圧倒的に足りない状態が続いているのである。

「AIそのものは身近になったのに、うまく使いこなせる人が少ないというのが、多くの会社で起きているAI人材不足の正体と言えるでしょう」と西田さんは話す。

2.5万人の会員は、全国津々浦々にいる
2.5万人の会員は、全国津々浦々にいる

パソコンが苦手な地方の人ほどチャンス?AIが仕事を広げる

そうしたなか、SHIFT AIが仕掛ける「47PROJECT」の現場では、これまでAIとは無縁と思われてきた人々による、人生を賭けたドラマが次々と生まれているという。

「あるシングルマザーの方は、教育格差に悩んでいました。塾に行かせる余裕がない。そこで彼女はChatGPTを使って、お子さん専用の『仮想塾講師』を作ったのです。小学3年生の学習内容をAIに学ばせ、お子さんの壁打ち相手にする。これで塾代をかけずに教育環境を整えることに成功しました」

和歌山県で開催された「47PROJECT」の様子
和歌山県で開催された「47PROJECT」の様子

また、キャリアの危機をチャンスに変えたのが、カナダへ移住した元建築士の男性である。現地での職探しが難航するなか、コミュニティでAIの使い方を学び、「AI漫画家」としてデビュー。入会からわずか数カ月で、月20万円近い印税を得るまでになったそうだ。

「驚くのは、先ほどの方々も含めて、『47PROJECT』にはパソコンにほとんど触ったことがない方も少なくないことです。エンターキーすら知らないレベルからでもAIが先生役になってくれるので、例えば農業や漁業といった昔ながらの業種の方やIT未経験の方にこそ、大きなチャンスが広がっていると言えます」

さらに「47PROJECT」を運営するなかで、地方に拠点を置くSHIFT AIの契約企業や地方企業からは、「AI人材を紹介してほしい」「話を聞いてみたい」という相談が後を絶たないという。「優秀な人材は東京にしかいないと思い込まず、まずは地元コミュニティに目を向けてほしいですね」と話す西田さん。

「出社して顔を合わせられる距離にAIがわかる人がいるだけで、生産性は大きく変わります。実際に、弊社のコミュニティでのつながりから、地方でも新人教育資料の作成を受注したり、AI関連の会社が生まれたりと新しい仕事が生まれていますからね」

「孤独」は挫折の最大の要因。だからこそ住んでいる地域で、顔の見える仲間と集まって作業会を行う、というコンセプトにしている
「孤独」は挫折の最大の要因。だからこそ住んでいる地域で、顔の見える仲間と集まって作業会を行う、というコンセプトにしている

半年で目指すのは、地域だけで回るAIコミュニティ

そんな「47PROJECT」は全国一巡を終え、いま新たなフェーズに突入している。これからのテーマは、SHIFT AI主導のイベントから「地域主導のコミュニティ」への進化なのだそう。

「今後は現地の方だけで運営できる、自走の状態を目指します。そこで構想しているのが『アンバサダー制度』です。各地域でコミュニティを牽引するリーダーを育成し、『この地域のAIといえばこの人』という認知を作る。称号を得ることで信頼が高まり、それがご本人のキャリアアップにもなり、地域にとっても頼れる存在になるはずです」

「アンバサダー」のバッチデザイン
「アンバサダー」のバッチデザイン

もう1つの柱が、地方企業とAI人材のマッチングである。法人からの「社内にAI担当が欲しい」という切実な声に応えるため、コミュニティが人材供給のハブとなる構想だ。

「地方企業にとって、近くに相談できる専門家がいる安心感は絶大です。『若い社員がパソコンを使えない』といった些細な悩みも、地元のAI人材なら気軽に解決できます。作業会は、そうした『地域のAI人材』を発掘し、企業とつなぐプラットフォームになりつつあります」

目標は、今後半年以内にこの仕組みをかたちにしていくことだ。「簡単ではありませんが、土台はできています」と意気込む西田さん。AIはもはや一部の層だけのものではない。誰もが自分の武器として使える時代になろうとしている。

SHIFT AIが描くのは、AIが特別なスキルではなく、読み書きそろばんのように当たり前のインフラとして地方に根付く未来だ
SHIFT AIが描くのは、AIが特別なスキルではなく、読み書きそろばんのように当たり前のインフラとして地方に根付く未来だ

現在「47PROJECT」では、会員以外が参加できるオープンな会も増えているそう。「AIに興味はあるけれど難しそう」と感じている人は、一度気軽に足を運んでみては。

取材・文=西脇章太(にげば企画)

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