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女性の正社員数が非正規を上回った…大学教授が「一見、喜ばしいが全然喜べない」という納得の理由

  • 2025.12.18

正社員の女性が増加している。拓殖大学教授の佐藤一磨さんは「とくに2025年に入ってからの伸びが大きい。65歳以下の現役層では非正規社員の数を上回っている。一見喜ばしいように見えるが、心から喜ぶわけにはいかない」という――。

丸の内の交差点で信号待ちをする女性
※写真はイメージです
「非正規優位」の構造が崩れはじめている

「女性は非正規のほうが多い」。こんな“常識”が、いま静かに覆りつつあります。

長年、日本の働く女性は、結婚や出産でキャリア継続が難しく、結果的に非正規へ移るケースが多い――。こうした構造が「日本の労働市場の特徴」として語られてきました。しかし最新データを見ると、このイメージはすでに現実とズレはじめています。

64歳以下の現役世代では、正規雇用で働く女性のほうが非正規を上回る“逆転”が起きているのです。もはや「女性=非正規」という前提で人材戦略を立てる時代ではなくなりつつあります。

本稿では、その構造変化をデータで紐解いていきたいと思います。

正規雇用で働く女性が2025年に入ってから増加

図表1は15歳以上の女性の正規雇用労働者と非正規雇用労働者の推移を示しています。これを見ると、依然として非正規雇用労働者のほうが多くなっていますが、2025年に入ってからその差が徐々に小さくなっています。

2025年1月には女性の正規と非正規の差が193万人でしたが、同年9月には50万人まで縮小しています。わずか9カ月で差が4分の1以下になっています。

【図表】15歳以上の女性

その背景には、正規雇用労働者の増加があります。2025年1月から2025年9月までで正規雇用で働く女性が約87万人も増えているのです。

64歳以下は完全に逆転

次に図表2を見てください。これは女性を64歳以下の現役層と65歳以上の高齢層に分けた結果です。

【図表】年齢階層別の女性労働者数

65歳以上の図では依然として非正規労働者が多くなっているだけでなく、その差は拡大傾向にあります。背景には新たに非正規で働く高齢女性が増えていることが影響しているでしょう。これに対して、現役層では2025年2月以降に正規雇用のほうが非正規雇用を継続的に上回っています。

現役層では、「非正規のほうが正規よりも多い」という傾向が消えたのです。

49歳以下では明確に“正規優位”へ

さらにこの変化を詳しく検証するためにも、現役層を年齢別に分けたのが図表3です。これを見ると、2025年の後半には、49歳以下で正規が非正規を上回る逆転現象が確認できます。

これに対して50~54歳、55~64歳では依然として非正規雇用労働者が多いという状況にあります。

【図表】詳細な年齢階層別の女性労働者数
未婚・既婚によっても“逆転ポイント”はまったく違う

続いて注目したいのが、結婚の有無による違いです。

日本では、結婚後・出産後に正規から非正規へ転換するケースが相対的に多く、「既婚女性=非正規が多い」というイメージが根強くあります。では、最新データではどうなっているのでしょうか。

これについて確かめるために、未婚女性と有配偶女性に分けて正規・非正規の数を示したのが図表4と図表5です。

まず、未婚女性の図表4を見ると、64歳以下のいずれの年齢層においても、正規のほうが非正規を上回っています。未婚女性は自ら収入を確保する必要があるため、もともと正規雇用で働く割合が高い傾向があり、それが維持されていると言えるでしょう。

【図表】未婚女性の年齢階級別労働者数
既婚女性は40代前半がボーダー

一方、有配偶女性(図表5)では様子が異なります。

39歳以下では正規が非正規を上回っていますが、40歳以降ではいずれも非正規が多くなっているのです。

つまり、若い既婚女性は正規が中心、40歳以降では非正規が中心という世代ギャップが非常にはっきりとあらわれています。中高年の既婚女性は、出産期に現在ほど両立支援策が充実しておらず、結果として正規を続けられなかった可能性が高いと考えられます。

この中でも注目すべきは、40〜44歳の既婚女性です。

この層では、正規と非正規の差が急速に縮小しています。2025年1月には正規と非正規で約23万人の差があったのですが、同年9月には差が9万人まで減っています。

現状では非正規が多いものの、近い将来、40代前半の既婚女性でも正規が多数派になる可能性が高いと言えるでしょう。

【図表】有配偶女性の年齢階級別労働者数
なぜ逆転現象が起きたのか

これまでの結果を簡単にまとめると、以下の4点となります。


① 49歳以下ではすでに正規優位
② 未婚女性は64歳以下のすべてで正規が多数派
③ 既婚女性は39歳以下で正規優位、40歳以上は非正規が中心
④ 40〜44歳の既婚層では差が急速に縮小し、近く逆転の可能性も

これらの結果が示すように、「女性は非正規が多い」というこれまでのイメージは、もはや実態とズレ始めているのです。より正しくは、「中高齢層では非正規が多い」だと言えるでしょう。

では、なぜこうした“正規と非正規の逆転現象”が起きているのでしょうか。背景には大きく2つの流れがあります。

理由①:出産期に女性が離職しなくなってきた

第一の理由は、正規雇用で働く女性が“辞めなくなってきた”ことです。

これまで日本では、第1子出産のタイミングで女性が離職するケースが多く、キャリアの継続が難しい状況が続いていました。しかし育児休業制度の普及や、両立支援策の浸透によって、この構造が大きく変わっています。

国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」によれば、①第1子出産後も働き続けている女性の割合は、2000〜04年の27.5%から、2015〜19年では69.5%へと倍増以上で推移し、②第1子を出産した女性全体のうち、育児休業制度を利用して継続就業したのは、2000〜04年の15.3%から、2015〜19年の42.6%へと約3倍となっています。

つまり、出産後も正社員として復帰し、キャリアを継続する女性が急増しているということです。

よく「非正規から正規へ転換する女性が増えたからでは?」という推測も出ますが、総務省「労働力調査」を見る限り、2011年以降に大きく増えているとは言いづらい状況です。依然として“非正規から正規への壁”は高く、今回の正規増加の主因は、「辞めなくなったこと」にあると考えるほうが自然です。

理由②:深刻な人手不足が、女性の正規雇用を押し上げた

第二の理由は、日本全体を覆う深刻な“人手不足”です。

2010年代以降、失業率は低下、有効求人倍率は上昇し、労働市場は売り手市場へとシフトしてきました。コロナ禍で一時的に緩んだものの、その影響はすでに解消され、企業は再び積極採用に転じています。

帝国データバンクの調査(2025年7月)では、正社員の人手不足を感じている企業は50.8%と、半数を超える企業が「人が足りない」と回答しています。

こうした状況では、企業が“女性を正社員として採用する”インセンティブが強まり、新卒・中途ともに、女性が正規雇用として働き続けやすい環境が広がっています。転職市場でも、正社員の求人が見つけやすくなっており、これが女性の正規雇用増加を強力に後押ししているのです。

女性正社員の増加を喜べないワケ

こうして見ると、確かに女性の正規雇用は増えています。しかし、だからといって「女性の働き方が全体として改善した」と結論付けることはできません。ここで大事なのは、「どの産業で正社員が増えているのか」という点です。

実は、全産業の中でも最も正規雇用が増加しているのは、医療・福祉といった、いわゆるケア関連産業です。

総務省の「労働力調査」のデータでは、2013年1月と2025年9月を比較すると、医療・福祉の産業で93万人も正規雇用が増えています。さらにその内訳を詳しく見ると、医療・福祉の中でも最も女性正規雇用者数が伸びていたのは、社会保険・社会福祉・介護事業であり、同期間で48万人ほど正規雇用が増加していました。

つまり、女性の正規雇用が増えていると言っても、その増加分の多くは「ケア労働」に集中しているわけです。

ところが、このケア関連産業には大きな課題があります。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」を見ると、社会保険・社会福祉・介護事業で働く女性の月収(所定内給与額)の平均値は全産業平均よりも約7万~8万円低い状況が続いています。

つまり、正規雇用が増えても、「低賃金の正規雇用」が増えているという側面があるのです。ケア労働は女性比率が7~8割に達する「女性に偏った産業」であり、ここの賃金が低いままである限り、男女間に賃金格差が縮まりにくい構造が残り続けます。

ケア産業への処遇改善が重要

ここまで見てきた正規雇用の増加は、確かにポジティブな面もあります。しかし、その内訳を丁寧に見ると、①比較的賃金の低いケア産業への集中や②産業構造としてのジェンダー偏在という問題が横たわっています。

このため、これから必要なのは「正規雇用を増やすこと」に加えて、①ケア産業への処遇改善や②男女で偏りの大きい産業の構造改革といった「質の改善」でしょう。

女性の正規雇用が増えたのは、社会が変わり始めたサインです。しかし、その中身を詳しく見ると、質の面で課題が残っています。この点を改善することで初めて、「女性の地位が本質的に高まった」と言えるようになるでしょう。

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。

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