「最近の若者は敬語も使えない」と嘆く年配社員→取引先の若手社長にタメ口を聞いて契約破棄に【短編小説】

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

「まったくなぁ、最近の若者は敬語も使えないのか」

私のデスクの向かいに座る年配の男性社員は、いつも眉間に皺を寄せています。
彼の口癖は「最近の若者は」。
言葉遣いがなっていない、礼儀を知らない、根性がない……。
毎日毎日、その愚痴を聞かされる私の身にもなってほしいものです。

彼は社内でも古株で、実績もあるため誰も強く言えません。
私はただ愛想笑いで「そうですねえ」と流すのが日課になっていました。

ある日、そんな彼と一緒に、とあるITベンチャー企業へ商談に行くことになりました。
そこは最近急成長している話題の会社で、契約が決まれば我が社にとっても大きな利益になります。

「いいか、相手が若造だろうと、ビジネスマナーってやつを教えてやるくらいの気持ちで行くぞ」

気合十分の彼に連れられ、私たちは先方のオフィスへ通されました。
そこはTシャツやジーンズで働く人が行き交う、とても自由な雰囲気の職場でした。

応接室で待っていると、パーカー姿の若い男性がふらりと入ってきました。
年齢は20代半ばに見えるでしょうか。

すると、隣にいた年配社員がふんぞり返り、呆れたように言ったのです。

「おい君、バイトか？うちは社長と約束があるんだ。早く呼んできてくれないか？」

完全に相手を下に見た、威圧的なタメ口でした。
私は冷や汗が止まりません。
「あの、先輩……」と止めようとしたその時、パーカーの男性が穏やかに微笑みました。

「あ、すみません。僕が社長です」

「は……？」

年配社員の口がポカンと開きました。
男性はそのまま席に着くと、笑顔をすっと消し、静かに告げました。

「服装や年齢で人を判断し、初対面の相手に敬意を払えない方とは、ビジネスパートナーにはなれません。お引き取りください」

その言葉は、どんなに正しい敬語よりも重く響きました。
顔を真っ赤にして弁解しようとする彼を遮り、社長は出口を指し示します。
当然、その後の交渉は一切決裂。大きな契約は幻となりました。

帰り道、あれほど饒舌だった彼は一言も発しませんでした。
「マナー」とは形式的な言葉遣いではなく、相手へのリスペクトそのものなのだと、改めて痛感した出来事でした。

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