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「このまま50年生きる」か「幸せを詰め込んで50歳で死ぬ」か…?深夜3時33分に現れる黒服の男が問う究極の二択【作者に聞く】

  • 2025.12.18

「細く長く生きるか、太く短く生きるか」。使い古された問いのようだが、もし具体的な寿命と引き換えに幸福が確約されるとしたら、あなたはどう答えるだろうか。

深夜3時33分ちょうどにテレビをつけると、黒服の男が現れてこう問いかけてくるという。「このまま50年生きるのと、この先の幸せを全部つめこんで50歳まで生きるのと、どちらを選びますか」。 そんな都市伝説をモチーフに、介護と孤独、そして人生の選択を描いた漫画がいま、静かな衝撃を呼んでいる。

認知症の母と2人暮らし、名前さえ呼んでもらえない孤独

物語の主人公は、36歳の独身女性・夏美だ。彼女の日常は、認知症を患う母親の介護によって塗りつぶされている。 深夜に徘徊する母を連れ戻し、布団へ寝かしつける日々。しかし、母は夏美のことを認識できず、彼女を「陽子さん」という別人の名前で呼ぶ。「いじわるしないでぇ。陽子さん」。そう怯える母に対し、「…だから私は夏美だってば」と訂正する彼女の声は、誰にも届くことなく闇に消えていく。

髪も服も手入れが行き届かず、生気のない表情でワイドショーの都市伝説特集を眺める夏美。そんな彼女の身に、ある夜、噂通りの怪異が降りかかる。果たして彼女は、自身の残りの人生にどのような決断を下したのか。

作者は『貧女ハウスへようこそ』(小学館)や、『実録怪談 本当にあった怪奇村/新犬鳴トンネル』(竹書房)などで知られるホラー漫画家の三ノ輪ブン子(@minowabunko)さんだ。本作誕生の背景や作品に込めた思いを、三ノ輪さんに語ってもらった。

自身の「将来への不安」が作品の種になった

真夜中のテレビに何かが映るという設定自体はホラーの王道だが、そこに「人生の選択」という重いテーマを掛け合わせたきっかけは何だったのか。 三ノ輪さんは執筆当時を振り返り、自身の抱えていた苦悩が影響していると明かす。当時はさまざまなトラブルに見舞われ、将来に対して大きな不安を感じていた時期だったという。

「これから乗り越えなくてはならない何十年という時間の重みに、途方に暮れていました」。 目の前に広がる途方もない歳月への恐怖。そんな三ノ輪さんの当時の心境が、「50年」という期間を提示するこの物語の根幹に投影されているのかもしれない。

ラストの解釈は読者に委ねたい

本作の結末、特に最後のページで見せる夏美の表情や、その後に聞こえる「夏美」という母の声は、読む者の胸を強く打つ。 しかし三ノ輪さんは、そこに特定の正解やメッセージを込めたわけではないという。「幸せとは何か」という問いに対し、読者それぞれが自分の答えを見つけてほしいと考えて描いたからだ。

実際に読者からは「最後の晴れやかな顔が印象的」「憑き物が落ちたようだった」「最後に娘の名前を間違えなかったところで泣けた」といった、多様な感想が寄せられている。 三ノ輪さんはこうした反響に対し、「重いテーマなので読後感が心配でしたが、意図が伝わって嬉しいです。最後の『夏美』というセリフにも気付いていただけてよかった」と安堵の言葉を口にした。

本作で描かれたような独特の世界観や、じわりと広がる恐怖を味わいたい人は、ぜひそちらもチェックしてみてほしい。

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