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朝起きたら母はいない…朝ごはんはよその家で食べていた私が、母を「毒親」と言い切れない理由【作者に聞く】

  • 2025.12.17
母に対して当時は毒親なんて思いもせず、これが我が家の日常だと思っていたのだが… 画像提供:(Ⅽ)魚田コットン/KADOKAWA
母に対して当時は毒親なんて思いもせず、これが我が家の日常だと思っていたのだが… 画像提供:(Ⅽ)魚田コットン/KADOKAWA

子どもは親を選べない。けれど、自分の家庭が「よその家と違う」と気づく瞬間は、案外あとになってから訪れるのかもしれない。朝起きたら母親がいない。そんな状況を特別だとも不幸だとも思わずに育った少女時代を描いたのが、漫画家・魚田コットンさん(@33kossan33)の自伝的作品『家族やめてもいいですか?』だ。本作は、いわゆる“放置子”のような環境で育った記憶を、淡々と、しかし確かな温度で描き出している。

朝起きたら母はいない、それが当たり前だった子ども時代

家族、辞めてもいいですか?_01 画像提供:(Ⅽ)魚田コットン/KADOKAWA
家族、辞めてもいいですか?_01 画像提供:(Ⅽ)魚田コットン/KADOKAWA
家族、辞めてもいいですか?_02 画像提供:(Ⅽ)魚田コットン/KADOKAWA
家族、辞めてもいいですか?_02 画像提供:(Ⅽ)魚田コットン/KADOKAWA
家族、辞めてもいいですか?_03 画像提供:(Ⅽ)魚田コットン/KADOKAWA
家族、辞めてもいいですか?_03 画像提供:(Ⅽ)魚田コットン/KADOKAWA

魚田さんの幼少期、母親は家を空けることが多かった。まだ保育園に通う年齢にもかかわらず、朝目覚めると家には誰もいない。魚田さんはひとりで母の帰りを待つことに慣れていった。ある日、また母がいない朝を迎えたとき、同じ保育園に通う友達の家へ行き、事情を話すと朝ごはんを食べさせてもらい、そのまま保育園まで連れて行ってもらえたという。助けてもらった記憶と同時に、「これが自分の家の日常だ」という感覚も、自然と心に刷り込まれていった。

父親はほとんど家におらず、母親は魚田さんを連れて特定の男性と会うこともあった。やがて相手が変わり、また別の男性へと移っていく。家族は周囲と深く関わらずに暮らしており、魚田さんの記憶の中で、大人たちは「冷たい人」と「優しい人」にくっきりと分かれて存在していたという。疑うことを知らなかった子ども時代の魚田さんは、「これがうちの普通」だと受け止めていた。

「毒親なのか」と聞かれても、今も答えに迷う理由

本作を描くきっかけは、ブログで連載していた別作品を編集者が目にしたことだった。家庭環境を描いた漫画に関心を持たれ、「家族」をテーマにした書籍化の話が進んでいったという。ただし、魚田さん自身は、いわゆる「毒親」という言葉に今も強い違和感を抱いている。「うちの親は毒親か?」と問われても、即答はできない。明確にそうだと言い切るよりも、「少し距離を取ろう」と思えるようになったのは、結婚して自分の家庭を持ち、時間が経ってからだった。

描き進める中で、自分の半生をあらためて振り返ることになり、「自分は思っていた以上に過酷な環境で育っていたのかもしれない」と初めて自覚した部分もあったという。とくに家庭環境については、ブログで描いていた頃にはそこまで深刻だと思っていなかった分、書籍化の過程で見えてきた現実に戸惑いもあった。しかし、その作業を経て、自分自身を少し客観的に見られるようになり、人に対しても以前より寛容になれたと語っている。

自伝漫画として描くために意識した“距離感”

制作にあたっては、すでに連載していた別作品との差別化も意識したという。どちらも自身の体験をベースにしているが、テーマや切り取り方はあえて変えた。『家族やめてもいいですか?』では、「家族」という枠組みそのものに向き合い、感情を煽りすぎない表現を心がけた。初めての書籍制作、初めての本格的なコマ割りということもあり、「この描き方で合っているのか」と迷い続けながらの作業だったが、その迷いも含めて作品に反映されている。

それでも「家族をやめたい」と思った先にあったもの

魚田さんが小学生のとき、両親は離婚し、その後母親は再婚する。新しい父親から性的虐待を受けた経験は、魚田さんに深い傷を残し、男性不信につながった。何度も「家族をやめたい」と思いながら、それでも生き抜いてきた時間が、この一冊には詰め込まれている。重い題材でありながら、感情を押しつけることなく描かれるからこそ、読者は自分自身の家族や過去と静かに向き合うことになるだろう。

取材協力:魚田コットン(@33kossan33)

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