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【漫画でゴッホを知る】ゴッホの実像は信仰心が強く家族思いの青年だった【監修者に聞く】

  • 2025.12.15
(C)KADOKAWA CORPORATION
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ゴッホの絵は、なぜこれほど日本人の心をとらえるのか。その理由を「浮世絵から受けた影響」という美術史的事実だけで語り切ることはできない。構図の大胆さや力強い輪郭線、鮮烈な色彩など、たしかに両者は響き合う。しかし私たちがゴッホに強い親近感を抱く背景には、より深い要因が潜んでいる。それは、ゴッホという人物の内面にある、不器用さや誠実さ、家族への深い思いといった「人間の物語」である。

『まんが人物伝 ゴッホ 希望の種をまいた不屈の画家』を読むと、その実像が鮮明に立ち上がってくる。一般に「耳を切り落とした」「自ら命を絶った」といったエピソードばかりが強調されがちだが、実際のゴッホは家族を深く愛し、強い信仰心を抱きながら懸命に生きた青年だった。その姿は、不器用に生きる誰かの人生と重なり、読者自身のあり方にも投影されるかもしれない。本記事では、漫画で描かれたゴッホを支えた家族のエピソードと、監修者である西洋美術史学者・圀府寺司さんへのインタビューを通して、「人間としてのゴッホ」の像に迫る。

不器用な性格ながら家族に深く愛されたゴッホ

ゴッホは牧師を目指していた。聖職者だった父親の影響もあるが、何より「人の役に立ちたい」という思いが強かった。大学の神学部受験は断念し、少ない給料をもらいながらも伝道師を行いながら、納屋で寝る生活を送った。時には貧しい人に自分の着ている服を渡したこともある。しかしながら伝道師も失格になってしまう。そんな中、弟のテオがゴッホに絵の道に進むことを勧める。

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圀府寺司さんにインタビュー

――『まんが人物伝 ゴッホ 希望の種をまいた不屈の画家』の中で、「このシーン(または台詞)は特に印象深い」と思う箇所があれば教えてください。

本作では、全編にわたり背景や細部までNHK大河ドラマ並みの細やかな考証をさせていただけましたが、月明かりで鉄格子の影がフィンセントの顔に十字架状の影を落としている部分が特に印象的です。星空を見たフィンセントの顔にキリスト教の徴が浮かび上がる。ファン・ゴッホの本質を視覚的に表現できている点で秀逸です。次に何かゴッホ関連の映画を作る人にはぜひこのシーンを採用してもらい、このうえなく美しい場面を作ってほしいと思うくらいです。

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――監修者として、ゴッホの「人間的な魅力」を漫画で表現するために、最も強調したかった点は何でしょうか?

人と調和して生きるのが難しい資質を生まれ持ってしまったひとりの生身の人間の物語。それでも父親に「あの子にはいいところもたくさんある」と思わせ、弟や家族に援助してもらえたゴッホの根源的な誠実さです。

――漫画家である中原たか穂先生の描くゴッホについて、最初に感じた印象や評価された点を教えてください。

ひと昔前まで流行った「狂気の天才」として描いてもらっても、たぶんドンピシャの絵を描かれたのではないかとも思いますが、そこを抑えて子ども向けに、苦悩する「生身の人間」として画家を描き、周囲の人々を温かく描いていただいたと思っています。

――本書は「物語としてのゴッホ」と「画家としてのゴッホ」を同時に体験できる構成ですが、読者にとって最大の“気づき“はどんなところに生まれるとお考えですか?

「歴史」というのは「物語」だということに気づいていただければ。また、本書も物語のひとつにすぎないので、実際に作品を見て、手紙を読んでいただいて自身で物語を紡いでいただければ一番よいのかと思います。

取材協力:圀府寺司

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