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70代まで年金受給をガマンしなくてもいい…プロが解説「夫婦でもらえる金額を増やす3つの方法」

  • 2025.12.14

年金の受給額を増やすにはどうすればいいか。確定拠出年金アナリストの大江加代さんは「基礎年金は原則60歳までしか加入することができないが、厚生年金には60歳以降も働いて加入を続けることができる。働けるうちはできるだけ長く働き、年金を増やすことを考える時代になってきている」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、大江英樹・大江加代『知らないと損する年金の真実【改訂版 2026年新制度対応】』(ワニブックス【PLUS】新書)の一部を再編集したものです。

積み上げたコインの間に立つ高齢夫婦の人形
※写真はイメージです
75歳まで繰り下げると84%増額

世の中で出回っている記事やFPの人などが公的年金について話す場合、「公的年金は決まった金額しか支給されない」と語られることが多いようです。

ところが、公的年金もやり方によっては増やすことは可能なのです。最もその効果が大きいのは「受給開始時期の繰り下げ」です。

70歳まで繰り下げると42%、そして75歳まで繰り下げると何と84%増額になるというのはかなり大きな数字です。もちろん繰り下げについては注意すべきポイントはいくつもあります。ただ、年金の受取額を増やすという点においては、最も効果的な方法であることは間違いありません。

本稿では、「繰り下げ」以外にも年金の受取額を増やすための方法をいくつか具体的に考えてみたいと思います。まずは、その対象をサラリーマンの場合を中心としてお話をしたいと思います。

給料が上がれば、年金支給額も多くなる
方法1:収入を上げる

サラリーマンが加入しているのは厚生年金です。厚生年金には「定額部分」と「報酬比例部分」があります。65歳になって老齢年金を受給し始めると、定額部分は老齢基礎年金に移行し、報酬比例部分が老齢厚生年金となります。定額部分は文字通り、金額は決まっていて加入していた月数に比例するだけで、収入の額は関係ありません。

ところが報酬比例部分は、名前の通りその人の給与の多寡によって将来の支給額は変わってきます。具体的な支給額の計算方法は日本年金機構のホームページに載っていますので、参考にしていただければ良いでしょう(※1)。

給料に比例して増えるのであれば、当然仕事を頑張って昇給すればその分、将来の年金支給額も多くなります。さらに早くから昇給している方が当然、金額は増えます。

結局、給料の多い・少ないは現役時代の暮らしだけではなく、老後の暮らしにも影響を与えることになるのです。やはり頑張って給料を上げることはとても重要ですね。

※1 報酬比例部分の計算(日本年金機構のホームページ)

共働きと片働きの差は25年で1500万円
方法2:夫婦ともに厚生年金に入って働く

2つ目の年金額を増やす方法、それは夫婦であれば、共働きをすること、それも両方が厚生年金に加入することです。

よく「専業主婦は2億円損をする」と言われますが、これは生涯賃金で見た場合、共働きと片働きではそれぐらいの差が出てくるということを意味します。事実、「労働政策研究・研修機構」というところが2023年に出した資料(※2)によれば、大卒で正規社員の場合の男性の生涯賃金は平均で約3億2000万円、女性の場合では約2億5000万円となっています。

これは生涯賃金だけですが、年金の場合も大きな差が出てきます。妻がずっと専業主婦だった場合のモデル年金額は夫婦2人で月額約23万円ぐらいですが、単身の場合だと16万円程度になります。

現在はまだ残念ながら女性の方が平均的な生涯賃金は少ないため、仮に年金支給額が妻の分が12万円だとすると夫婦合計で28万円となります。片働きと比べると月額で5万円増えるとすれば65歳から90歳までの累計金額では1500万円もの差が付きます。

もちろん、そのためには夫婦で家事や育児を分担する必要がありますし、これはライフスタイルの考え方の問題なので一概には言えませんが、こと経済的な問題、この場合は「年金額を増やす」という点に限って言えば、共働きで収入を増やすというのは極めて大きな効果を生むと思います。

※2 「ユースフル労働統計2023」(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)

60歳以降も勤め続ければ厚生年金が増える
方法3:長く働く

基礎年金は原則60歳までしか加入することはできませんので、加入月数には480カ月という上限があります。ところが厚生年金にはこの上限がありません。60歳以降も働いて厚生年金に加入を続けることができます。もちろん原則は70歳までですが、そこまで働けば10年間の保険料納付期間が増えます。

どれぐらいの収入かによって金額は変わってきますが、年間で10万~20万円程度は増えますから、できるだけ長く働くことで年金支給額は増加します。特に年金額を増やすという観点で考えると70歳までは働いた方が良いでしょう。

60歳で仕事を辞めてしまうというのは平均寿命が65~70歳の頃の話です。会社を辞めて人生の晩年の5年か10年を年金で暮らす、という時代だったからです。

フリーランスや自営業は国民年金にフル加入

今の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳と言われていますが、これはあくまでも平均寿命の話です。「寿命中位数」というデータがあります。これは同じ年に生まれた人の半数がまだ生存しているという年齢のことですが、それによると男性は84.4歳、女性は90歳となっています。つまり2人に1人はこの年齢まで生きているということです。

であるならば、今の時代は70歳まで働くのも不思議なことではありません。働けるうちはできるだけ長く働いて年金を増やすということを考える時代になってきているのではないでしょうか。

横断歩道を渡るシニアのビジネスマン
※写真はイメージです

フリーランスや自営業で将来の年金受給額を増やす方法としては、60歳以降も国民年金に任意加入することです。

もっとも、これは誰でも加入できるというわけではありません。たとえば20歳になってからも学生時代に年金保険料を払っていなかった、または稼ぎが厳しく保険料を免除してもらった期間があるために満額期間、加入していなかった人もいます。そういう人は年金支給額が少なくなるため、60歳以降に480カ月の期間に到達するまでは、国民年金に任意加入すれば年金額は増えます。

また、自分で年金を増やす方法としては「付加年金」という制度もあります。これは毎年の国民年金保険料に上乗せして月額400円付加保険料を納付することで、将来受け取れる年金額が増額されます。

「老後」を10年以上過ごして気づいたこと

さて、これまで自分自身で公的年金の受給額を増やすためにはどうすればいいかについてお話をしてきましたが、次は老後の生活を送るために公的年金をどう活用するのがいいか? その位置付けと活用法についてお話をしたいと思います。

夫・英樹は70歳まで繰り下げして公的年金の受給を開始しました。勤めていた会社を定年退職したのが60歳で、定年後に半年の再雇用を経て起業しました。再雇用の間は週3日勤務だったので厚生年金には加入していませんでしたが、起業後は株式会社を設立したので、夫は70歳まで、私は現在も厚生年金加入者です。

そんな私たちが定年後の生活を10年以上リアルに体験して感じるのは、「老後のお金はしっかりした三層構造」だということです。これは具体的にどういう意味なのでしょう?

1番目の層「公的年金」はいくらか

図表1をご覧ください。要するに老後の生活をまかなうためのお金は三層構造になっているということです。まずは一番土台になる部分、これが「公的年金」なのです。まずはこの金額がどれぐらいになるのかを計算します。

【図表1】老後の生活をまかなうお金は三重構造
出所=『知らないと損する年金の真実』

図表2を見てみましょう。年金受給額というのはケースバイケースで人によって異なりますので、この通りになるわけではありませんが、試算の前提としては公式に発表されている年金や退職金のモデル金額で計算をしてみました。

 【図表2】パターン別年金受給額モデル
出所=『知らないと損する年金の真実』

受け取り世帯は夫婦どちらか一人だけが厚生年金に加入して働いていたパターン①が比較的多いでしょう。その場合の平均受給額は月額で23万2784円になります。この金額で65歳から90歳まで受給した場合、受給額は累計で6984万円になります。

どれだけ長生きしようと受給し続けられる

これがパターン②の単身者の場合だと4904万円。最強なのは夫婦共に同じ賃金で厚生年金に加入しているパターン③の共働き世帯で、この場合は何と公的年金だけで9809万円になります。

おそらく一番多いのはパターン①だと思いますが、その金額は7000万円ほどになるのです。

よく「年金なんてあてにならないから、自助努力で資産形成しよう」ということを言う人がいますが、普通に働いて定年まで勤めたら、これぐらいの金額は何もしなくても受け取ることができるのです。

しかもこれは90歳までの計算ですが、公的年金は給付が終身ですからどれだけ長生きしてもこの延長線で受け取ることが可能です。これと同じ金額、7000万円を自分で蓄えようと思ったらかなり大変です。

大企業勤め大卒の退職金は平均2000万円

次に2番目の層は「退職金・企業年金」です。これはサラリーマンの場合のみで、しかも会社によってはそういうものがないところも多いです。

これについては「厚生労働省」の調査(※3)によれば、従業員1000人以上の大企業の場合、大卒で35年以上勤続して定年を迎えた人の平均退職一時金の金額は2037万円、高校卒だと同様に現業で勤続して定年を迎えた人の金額は1909万円ですから、大企業ではほぼ2000万円程度と考えておけば良いでしょう。

一方、中小企業の場合は「東京都産業労働局」のデータ(※4)で調べてみますと、従業員数が300人未満で大卒が1446万円、高卒は1092万円となっています。さらに従業員数が50人未満になると大卒で1088万円、高卒の場合は992万円ですから、中小企業の場合は1000万円ぐらいが平均と考えていいでしょう。

※3 令和5年 就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)の支給実態(厚生労働省)
※4 令和6年度 中小企業の賃金・退職金事情 第8表モデル退職金(東京都産業労働局)

したがって、サラリーマンの場合は公的年金に加えてこれらの退職金や企業年金が定年退職後に支給されるということも知っておくべきです。もちろんこの金額はあくまでもデータから出てきた平均値ですので、実際の金額がどうなのかは自分で調べるしかありません。それでも公的年金と合わせると8000万~9000万円ぐらいになるとすれば、これはかなり心強い数字と言えます。

足りない分を貯蓄・投資で備える

そして3層目は、自分で準備する貯蓄や投資等です。これはここまでお話しした公的年金や退職金・企業年金だけでは足りないと考えた場合、必要になってくるものです。もちろん前述したようにサラリーマンと言っても退職金や企業年金のない会社もたくさんあります。そうした場合は、自分での備えは厚くしておく必要があります。

したがって自助努力による老後資産形成はとても重要なことではありますが、順番を間違えてはいけません。まず土台になる公的年金、そして2番目に来る退職金や企業年金、これらの金額を確認し、自分や家族が老後にどんな生活をしたいかを考えた上で、足りないと思うのであれば貯蓄なり投資なりに励めばいいわけです。

サラリーマンと自営業では優先順位が違う

ただし、図2のパターン④、つまり自営業の人はサラリーマンに比べて公的年金が非常に少ないため、自営業の人に限っては3層目の自助努力はとても大切です。そのために自営業の人しか利用できない有利な制度はたくさんあります。

大江英樹・大江加代『知らないと損する年金の真実【改訂版 2026年新制度対応】』(ワニブックス【PLUS】新書)
大江英樹・大江加代『知らないと損する年金の真実【改訂版 2026年新制度対応】』(ワニブックス【PLUS】新書)

たとえば国民年金基金は公的年金に上乗せして受け取る仕組みですし、最近話題になっているiDeCoも自営業の人はサラリーマンに比べて利用できる金額の枠が大きくなっています。他にも国民年金保険料に上乗せして支払うことで給付額を増やすことができる付加年金(※5)、そして小規模企業共済のように年齢は関係なく大幅な税制優遇を得られる制度もあります。

自営業の人はこれらの制度の中から、自分が利用しようと思う制度を選び、自分で老後資金を作るという努力は若い内からやっておくべきです。

一方、サラリーマンの場合は違います。多くの金融機関は「年金なんて当てにならないから、投資信託を買いましょう」とか「保険に入りましょう」と言ってきますが、それを鵜呑みにして変な金融商品を買う方がよっぽど老後は不安になります。

自分のケースはどうなのかを考えて、3層目をどう作るか、どれぐらい豪華な造りにするかを考えるべきです。くれぐれも順番を間違えてはいけません。

※5 付加年金(日本年金機構ホームページ)

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