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『ウォーフェア 戦地最前線』劇中兵⼠のモデルとなった退役軍⼈が大学生との対話で明かした“映画に込められらたリアリティ”「戦争は醜く、過酷なもの」

  • 2025.12.13

A24最新作『ウォーフェア 戦地最前線』(2026年1月16日公開)のイベントが12月12日に⻘⼭学院⼤学で開催され、劇中兵⼠のモデルとなった⽶国在住の退役軍⼈と大学生をオンラインで繋いで質疑応答や会話をする「対談授業」が行われた。

【写真を見る】『ウォーフェア 戦地最前線』の退役軍⼈と大学生による「対談授業」の様子

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『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(24)の鬼才アレックス・ガーランド監督が、同作で軍事アドバイザーを務め、米軍特殊部隊の経歴を持つレイ・メンドーサを共同監督に迎えた本作。舞台は2006年、アメリカ軍特殊部隊8名の小隊は、イラクの危険地帯ラマディで、アルカイダ幹部の監視と狙撃の任務に就いていた。だが想定よりも早く事態を察知した敵兵が先制攻撃を仕掛け、市街で突如、全面衝突が始まる。メンドーサの実体験を基に、同胞の兵⼠たちにも徹底した聞き取りを⾏い、脚本が完成。フィクションでは決して描き得ない、“戦争そのもの”をスクリーンに出現させている。

本作の特徴は、「徹底したリアリティ」と印象を口にした佐竹知彦准教授
本作の特徴は、「徹底したリアリティ」と印象を口にした佐竹知彦准教授

この日は、⻘⼭学院⼤学 国際政治経済学部 国際政治学科准教授の佐竹知彦先生のゼミ生が集まり、劇中でジョセフ・クイン演じる兵⼠のモデルとなった退役軍⼈、ジョー・ヒルデブランドとの「対談授業」が行われた。本作の特徴について「徹底したリアリティ」と印象を語った佐竹准教授は、「ひたすら淡々と戦闘シーンが繰り広げられる。負傷した兵士の様子や声も生々しく、現場の音を再現している」と感想を吐露。「記録映画に近い感じがしている。戦争の生々しさを再現している映画から、みんなにいろいろと考えてもらいたい」と国際政治を学ぶ生徒たちに、ぜひ鑑賞してもらいたい映画だったという。

『ウォーフェア 戦地最前線』の描写は「95パーセント、正確」だという
『ウォーフェア 戦地最前線』の描写は「95パーセント、正確」だという

オンラインでつながったヒルデブランドは、「本作は、経験者が自分たちの記憶を話し、私たちのインプットによってできた映画。95パーセントくらい、正確だと言えます」と実際の戦場を限りなく正確に映し出した作品だと説明。映画で描かれた戦闘から帰った後は、「いろいろな感情が渦巻いた。傷が深いけれど、治りたい、戻りたいという決意を持った」「何度も手術をして、肉体的に回復しようとした。心理的にはなにが起きたのか、なぜそれが起こったのかと理解するプロセスにすごく時間がかかった」と肉体的、心理的にも大きな変化があったと話す。

学生から「戦場での体験はものすごい恐怖を伴ったと思う。映画を作るうえでは、その経験を思い出さないといけない。それでも映画を作ろうと思った意図は?」と投げかけられると、「エリオットはひどい怪我をした後、そのことをまったく覚えていないんです。記憶がないんです」と劇中で描かれる負傷兵のモデルになった友人の名前をあげ、「この映画を作ることによって、彼になにが起こったのか、なぜ彼がいまこのような状態なのかを見せてあげたかった。それはエリオットに対してのギフトになると思った。もう一度、私が痛みを経験する価値のあるギフトになると思いました」と胸の内を明かした。

「私たちは決断ができない」と素直な胸の内を明かしたジョー・ヒルデブランド
「私たちは決断ができない」と素直な胸の内を明かしたジョー・ヒルデブランド

「平和な時代に生まれ、国のために戦うという気持ちがよくわからないところもあります。イラクという、アメリカから離れた場所で戦うモチベーションはどのようなものになるのでしょうか」と問いかけた学生もいた。ヒルデブランドは、「羊がいて、オオカミがいて、羊を守る犬がいる。私たちは、自分たちのことをオオカミから羊を守る犬だと思っています。オオカミから羊を守るために、国から命じられた遠い国に行く」と例え、「そこでやっているのは、まずはお互いを守ること。ある目的のために派遣をされて、それを遂行するためにお互いを守る。それが大きなモチベーションとなります」と仲間を守ることがモチベーションになると回答。すると佐竹准教授が、「大量破壊兵器がイラクに隠されていると言われ、戦争が行われた。実際にはそれがなかった。イラク戦争について、大義がない戦争だと批判する人もいる」と提起する場面もあった。

「不幸なことに、私たちは決断ができない」と切り出したヒルデブランドは、「戦地に送られて、お互いのチームメイトを守るために戦っていました。そこでは、自分たちで決断ができないという状況でした。実際にどうなっているのかという情報は与えられず、与えられたとしても、私たちは決めることはできない。それは軍の上の人たちや、政府が決めること。そして、残念なことに完璧な政府はないと思うんです」と戦場のリアルを口にした。製作陣には、本作を通して「決断を下す立場にある人々にも戦地の状況を知ってほしい」という想いもあったそうで、ヒルデブランドは「この映画には、どれだけ戦争の状況がひどいものだったかということが描かれている。戦争が非常に醜く、過酷であるという状況も描かれた映画だ」と説明していた。

いまでも各地で争いが起きていることについて想いを馳せる学生もいた
いまでも各地で争いが起きていることについて想いを馳せる学生もいた

本作についてヒルデブランドは、自らにとっても大きな意味を持つ映画になったという。「この戦争は19年前に起きたもの。映画を作るまで、集まってそのことについて議論したりする機会はなかった。それぞれが、そこで起きた重荷を一人で背負っていました。この映画を作ったことで自分たちについて話し合う機会を持ち、その荷を下ろすことができた。私にとっても治療的な意味があったと感じています」としみじみ。

いまでも各地で争いが起きていることについて想いを馳せる学生もいたが、ヒルデブランドは「悲しいかな、いつの世にも戦争がある。僕の人生を考えても、戦争がなかった時はないと思うんです。戦争というのは、醜いもの。どんな犠牲を払っても、避けるべきものだと思う。兵士たちは行きたくて行っているのではなく、送られている」と実感を込めつつ、「戦争以外に、よりよい問題解決の方法があるのではないかと思っています」とコメント。映画の感想に加えて、戦争や平和について議論が繰り広げられた時間となり、最後にヒルデブランドは「日本は長い間、平和だと語った学生さんがいた。すばらしいことだなと感じながら、聞いていました。ずっと平和が続けばいいなと思う」と感銘を受けながら、「私自身、日本人の兵士も目にしてきました。皆さんのことを守ろうとしている戦士がいるということも、覚えていてください」とメッセージを送った。

学生から様々な質問があがった
学生から様々な質問があがった

ヒルデブランドとの対話を終えた学生たちからは、様々な映画の感想が上がった。「爆発があった後の耳鳴りや、銃弾が飛び交う様子など、音が印象的な映画だった」「戦場にいるような感覚になった」と没入して戦場を体感したという声や、「市民側の視点から戦争を見つめた映画は観たことがあったけれど、兵士目線の映画は観たことがなかった。興味がない人にも観てもらいたい映画」、「兵士の視点で見ることで、戦争には一人一人が関わっているんだということを体感できた。貴重な、新たな視点が生まれた」、「自分だったらどうするだろうかと考えた。死が怖くなるくらい、のめり込んだ」とリアリティあふれる体験をしたことで、戦争について改めて考える機会になったという意見も多く見受けられた。

またヒルデブランドの言葉のなかで、「戦場に向かう兵士の心理状態について、『国から“送られている”という感覚がある』という話があった」と意外なこともあったと話す学生もいた。佐竹准教授も「身の回りの仲間を守ることが一番重要だという話は、興味深かった。実際に戦っている人の心理とはそういうものなんだと思った」という。「本作には、極限状態に置かれた人間の心理状態がよく描かれていた。そのなかで勇気を奮い立たせる人もいれば、戦意を喪失してしまう人もいる。自分はどうするのかと想像力を掻き立てられ、戦争を疑似体験できる映画」と本作の持つ力に言及しつつ、「戦争を起こしてはいけないというのは、異論を挟む人がいないと思う。なぜそれが起きるのかを考えることが大事。人間の弱さや愚かさから目を背けるのではなく、弱さに向き合ったうえで、戦争を起こさないためにはどうしたらいいかを考えるのが、僕らの役割。今回の映画が、そういったことを考えるきっかけになったらうれしい」と切に願い、授業を締めくくった。

取材・文/成田おり枝

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