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取締役会では「売れると思わない」と酷評の嵐…「ドムドムハンバーガー」窮地を救った"奇抜な新メニュー"

  • 2025.12.13

1970年に誕生した日本初のハンバーガーチェーン、ドムドムハンバーガー。一時は店舗数が大幅に減り、「絶滅危惧種」とまで言われたが、藤崎忍さんが社長に就任して以降、新商品が大ヒットし、業績も右肩上がりになったという。著書『39歳、初就職。』(世界文化社)より、一部を紹介する――。

「ガイアの夜明け」に出たときの藤﨑忍社長
「ガイアの夜明け」に出演した際の藤﨑忍社長
ヒット商品がなかなか出ず、模索していた

さまざまなイベント参加やコラボ企画を進めながらも、店舗で発売する新メニューで大ヒットするバーガーは、なかなか生まれていませんでした。

どうしたらお客様の心を掴む訴求力のある商品を作ることができるだろう……。既存品の改良ではインパクトに欠け、他社と同じようなものを出しても太刀打ちできません。

そこで、肉ではなく魚介で、見た目も味も新しさを追求したいと考えるようになりました。

ファストフードの魚介バーガーと言えば、フィッシュバーガーやエビバーガーが定番。それらと一線を画すため、ドムドムではサバの竜田揚げを挟んだ「ドムフィッシュバーガー 鯖タツタ」や、バンズからはみ出すアジフライの「ドムフィッシュバーガー アジフライ」を開発して好評を得ましたが、大ヒットには至りませんでした。

それでも諦めずに次の魚介バーガーを検討していたところ、ある日、商品開発担当の浅田さんからまさかの提案が。

「社長、ソフトシェルクラブを挟んでみてはどうでしょうか?」

左端が商品開発担当の浅田さん
左端が商品開発担当の浅田さん
思わず笑ってしまうほど美味しかった

ソフトシェルクラブは、脱皮直後の柔らかいカニのことで、中華料理やタイ料理などで人気がある私の大好きな食材でした。ですが、ファストフードでバーガーに挟んだ前例はありません。

だからこそチャレンジする価値がある。

「やってみて! やってみたい!」と二つ返事でゴーサインを出しました。

様々な挑戦を重ねたことで、ここでもすぐにチャレンジできる状態になっていました。味のイメージもすぐに湧いて、「スウィートチリソースが合うかもよ」と一言付け加えました。

完成した試作品を見ると……バンズから、カニの顔とハサミがはみ出している……。

「丸ごと‼ カニバーガー」
「丸ごと‼ カニバーガー」1890円

私もみんなも、その斬新さに目を見張りました。

しかし一口食べると、思わず笑ってしまうほど美味しかったのです。

これは商品化するしかない‼‼

試作は通常何回か繰り返しますが、この商品は一発OKでした。

けれども取締役会では、味は評価されたものの反対意見が続出しました。

「これが売れるとは思わない」と反対された

「見た目がシュール」「原価が高く売り値が千円近くになる」「調理工程が多くてクオリティを保ちにくい」……。

端的に言うと「変わり種すぎてファストフードとしてふさわしくない」と判断され、「これが売れるとは思わない」と言われてしまいました。

当時の私は、ひとつの考えに至っていました。

「普通ではないことに挑むのがドムドムらしく、変わり種に挑戦する遊び心はドムドムの精神だ」

価格が高くなっても、斬新な見た目と新しい美味しさを提供できればお客様は納得してくれるはずだと信じました。調理工程が多い問題も、スタッフのモチベーションが向上していたのでクリアできると踏みました。

そうやってひとつずつ問題を解消し、発売にこぎつけることができたのです。

食材が1カ月で売り切れる大ヒット商品に

商品名は「丸ごと‼ カニバーガー」。先行販売時からSNSで話題になり、翌月に正式発売されると多くの店舗に行列ができ、売り切れ店が続出しました。

約3カ月分の食材を1カ月ほどで売り切ってしまい、大ヒット商品になったのです。

このバーガーには、カニが旗を持っているような飾り付けがされています。カニのハサミに、どむぞうくんが印刷された旗楊枝を刺すというこのアイディアも、浅田さんの発案でした。

取締役会で「シュールだ」と言われた見た目が、この愛嬌ある旗で緩和されました。

ちなみに、発売当初はどのくらい売れるかわからなかったので、低コストでいこうと、私たちで旗を作っていました。本社スタッフや各店舗スタッフはもちろん、私の母と叔母にも手伝ってもらいました。

感覚的には、まるでスタートアップ企業です。

とにかく自分たちでできることは何でもやる。安定した売り上げが見込めることがわかってから、業者さんに数万本単位で発注するようにしました。

現在は「丸ごと‼ カニバーガー」はいったん販売を終了しましたが、お客様のご要望が多く、その後も期間限定で販売しています。

ドムドムハンバーガー赤羽店
ドムドムハンバーガー赤羽店
ドムドムの逆襲が始まった

様々なイベント出店やアパレルブランドとのコラボ、独自の商品開発によって注目度が上がり、テレビや雑誌、ウェブ媒体へのメディア露出が増えていきました。フジテレビ系の「トップをねらわない店~1カ月おじゃまシマス~」というバラエティー番組にも出演し、メディアからの問い合わせがさらに増えました。

お笑い芸人のバチョフさんが1カ月間密着し、全店舗を取材してくださったこの番組で、ドムドムは「トップはねらわないけれど、確実にファンがいる素敵なバーガーチェーン」として紹介されました。

翌年には、ライフスタイルメディアの「TABI LABO」さんが、「ドムドムの逆襲」という特集を7回にわたって連載してくださいました。担当編集の方は、幼い頃からドムドムに通われていた“ドムドム愛”にあふれていて、事業再生に取り組む私たちの姿に感銘を受けて、記事にしてくださいました。

サイト
TABI LABO(https://tabi-labo.com/feature/domdom)

初回は「2020年はドムドムハンバーガーが絶対くる!」というタイトルで私のインタビューが掲載され、その後も「潰れない理由」「商品開発の裏側」「おすすめメニュー」など、深い内容の記事が続きました。

「絶滅危惧種のチェーン店を救い出そう」

連載終了後には、TABI LABOさんの本社にあるイベントスペースで1日限りの営業を行いました。場所は渋谷の隣、池尻大橋。あいにくの雨でしたが、午前8時30分には一番乗りのお客様がいらして、開店を待つ行列ができました。

午前11時の開店後も行列は絶えることなく、午後12時30分には完売しました。昔からドムドムに馴染みのある方だけでなく、最近ファンになったという方もたくさん来てくださり、ドムドムが歩んできた歴史の偉大さを目の当たりにしました。

このイベントを紹介した記事には、「みんな“ドムドム”を待っていた。この熱気こそ“逆襲”の証明だ!」というタイトルがつけられました。まさにその通りで、皆さんの「店舗数が減ってしまったけど、最近頑張っているから応援したい!」という気持ちがひしひしと伝わってきました。「絶滅危惧種のチェーン店を救い出そう!」というムーブメントになっているようにも感じました。

今回のことで、社長就任以来ずっと考えていた「ドムドムとは何か?」という問いの答えが見つかったように思います。

ドムドムフードサービス藤﨑忍社長
ドムドムフードサービス藤﨑忍社長

それは、「お客様の郷愁と愛着」そして「期待」に支えられたブランドであり、お客様の人生に寄り添いながら、喜んでいただけることを提供するのがドムドムなのだと。

くしくも、2020年は創業50周年の年。

節目の年にふさわしい、最高のスタートを切ることができました。

「いい縁に恵まれるコツ」とは?

幸せなことに、社長就任後に実現したコラボ企画や新店オープンは、ほとんどすべて先方からご依頼いただいたのがきっかけでした。多くのご縁に恵まれて、本当に感謝の言葉しかありません。

この話をすると、いい縁に恵まれるコツを教えてほしい、と聞かれることがありますが、特別なコツはありません。

1回1回の関わりを大事にすれば、過ごす時間の長さにかかわらず、素敵なご縁につながります。縁をつなぐのは関わる頻度ではなく、1回の質なのかもしれません。相手と誠実に向き合い、心を尽くす。それが、縁をつなぐ上で何よりも大切だと思っています。

「相手に心を尽くすと疲れる」という方でも、何事も慣れだなと思います。習慣になれば、意識しなくても自然とできるようになります。

コツは、心を尽くして接した自分を褒めること。褒め方はなんでも構いません。「頑張れたね」「笑顔が良かったね」など、自分の頑張りを認めてねぎらうのです。

自分で自分を褒めると落ち込まずに済む

自分を褒めることは、自分を大事にすることです。

それは、自分を好きになり、愛する気持ちを育みます。

私の場合、つらい経験が続いた頃から、意図的に自分を褒めるようになりました。私は強い人間ではないので、つらいときには誰かに励ましてほしいと思ってしまいます。けれど、他者が自分の人生に深く踏み込んで言葉をかけてくれることは、そうそうありません。

ならば、自分で自分を褒めてしまえば気分が楽になるかもしれない。そう自然に気づいたのだと思います。思いっきり自分を大切にすること。それが、私の心を守ってくれました。

頑張ったときに労うだけでなく、嫌なことやどうしようもないことに直面した時には、自分に「大丈夫だよ、絶対なんとかなるからね」と声をかけるようにしています。人と比べて劣っていると感じることがあっても、「これはできないけど、あれは誰よりも上手にできるからいいじゃないか」と思い直すこともあります。そうすることで、深く落ち込まずに済んで、自己肯定感を保ちながら歩んでこられたように思います。

円安は中小企業の社長がどうこうできる問題ではない

2018年8月に社長に就任して以来、業績は右肩上がりで伸びていきました。2年後には兼任していたSVをやめ、社長に専念するようになりました。会社の経営について、より大局的に考える必要があると思い、自分で専念することに決めました。

2020年初めから2023年半ばまで続いたコロナ禍でも業績は順調に伸びていきました。コロナ禍は未曽有の危機でしたが、語弊を恐れずに言えば、レベルの差はあれど、大変なことはいつの時代も常に起きています。感染症はコロナに限らず古くから私たちの健康を脅かし続けています。

しかし事態が収束すると、人々は知恵を絞って困難から立ち直り、落ち着いた日常を取り戻していきました。

社内で試食中の藤﨑社長
社内で試食中の藤﨑社長

近年では円安が加速し、「様々なコストが上がって大変でしょう」とよく聞かれます。確かに、肉類や魚介類、小麦粉などの輸入価格が上がって、採算を合わせるのに苦労しているのは事実です。

でも、仕方がないことだと思って受け入れるようにしています。

藤﨑忍『39歳、初就職。』(世界文化社)
藤﨑忍『39歳、初就職。』(世界文化社)

なぜなら、円安は中小企業の社長がどうこうできる問題ではないからです。財務大臣や日銀総裁なら必死に改善策を考えますが、どうしようもない立場でどうにかしようと考えるのは、時間がもったいない。

原材料費が上がったら、販売価格の値上げを検討しなければなりません。

その場合、何らかの付加価値をつけられないかと必死で考えます。そう考えるほうが建設的ですよね。いついかなるときも、「いま自分にできることは何か」を考えて行動するようになりました。

藤﨑 忍(ふじさき・しのぶ)
ドムドムフードサービス社長
1966年生まれ。東京都出身。青山学院女子短期大学卒。政治家の妻になり、39歳まで専業主婦。しかし夫が病に倒れ、生活のために働き始める。最初はギャルブームの頃のSHIBUYA109のアパレル店長。店の売上を倍増させたが、経営方針の違いから経営者と対立し、退職。アルバイトでしのぐが、たまたま空き店舗を見つけ、居酒屋を開業。すると料理の美味しさや接客の良さで一躍人気店に。その腕を常連客に見込まれ、ドムドムのメニュー開発顧問に。「手作り厚焼きたまごバーガー」をヒットさせ、ドムドム入社。その後わずか9カ月で社長に。「丸ごと!!カニバーガー」などが話題になり、ドムドムの業績は確実に回復している。テレビ朝日系「激レアさんを連れてきた。」出演で話題に。

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