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「最新技術で原点回帰」清水崇監督が語る、『ターミネーター』から不変の“キャメロン節”【「アバター」最新作公開記念特別連載】

  • 2025.12.12

2009年に3D映像革命を巻き起こし、現在も世界興行収入歴代1位に君臨するジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(09)。その待望となるシリーズ最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』が12月19日(金)より公開となる。

【写真を見る】自らカメラを抱え水の中へ!ファインダーを覗くキャメロン監督

最新技術をふんだんに投入した映像体験で、世界で空前のヒットを記録している本シリーズだが、最新作ではさらにスケールアップ!そこでMOVIE WALKER PRESSでは、日本を代表するトップクリエイターたちに「アバター」の凄さを語ってもらう特集連載を展開。

第1回の山崎貴監督に続く第2回は、『THE JUON/呪怨』(04)で日本人監督の実写映画で初めて全米興行成績1位に輝き、Jホラーの巨匠としていまも最前線に立ち続ける清水崇監督が、壮大な物語と体感的映像を深堀り&分析。ジェームズ・キャメロンの資質や巧みに計算された3D映像など「アバター」の魅力を解き明かしていく。

「アバター」はなにがすごいのか?清水崇監督がその魅力を徹底分析 撮影/河内彩
「アバター」はなにがすごいのか?清水崇監督がその魅力を徹底分析 撮影/河内彩

第1作で神秘の星パンドラに“アバター”として潜入した元海兵隊員のジェイク(サム・ワーシントン)は、ナヴィのネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と恋に落ち、人類と戦う決意をする。2作目『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22)では家族を築いたジェイクらが海へと戦いの場を移し、愛する者のために人類と対峙。侵略を退けることに成功するが、家族の命を奪われるという大きすぎる犠牲を伴った。そして最新作『ファイヤー・アンド・アッシュ』では、同じナヴィでありながらパンドラを憎むアッシュ族のヴァラン(ウーナ・チャップリン)が人類と手を組み襲来し、かつてない“炎の決戦”が始まる。

「いまだに『アバター』シリーズを超えるほど3Dを活かした映画は出ていない」

――初めて『アバター』の存在を知った時どう感じましたか?

清水「最初はタイトルだけ聞いたんですが、まだ“アバター”という言葉すら一般に認知されていない時だったので、先駆けてるなという印象を受けました。初めてビジュアルを見た時は、なんか青い人がいるんですけど…と(笑)。仮想空間じゃなく、違う星の種族の肉体でアバターになるんだろうと想像はつきました。キャメロン監督の代表作『ターミネーター2』の時、液体金属のターミネーターが出るなんて誰も思っていなかったですよね。アーノルド・シュワルツェネッガーが演じるT800が敵か味方かもわからないまま観て驚かされた、そんな仕掛けをしてくる人ですからね」

映画鑑賞前にナヴィ族のルックを見た時、物語の完成度に不安もあったという清水監督 Photo:『アバター』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
映画鑑賞前にナヴィ族のルックを見た時、物語の完成度に不安もあったという清水監督 Photo:『アバター』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――実際に映画をご覧になっていかがでしたか?

清水「映画を観て感じたのは、アメリカ人の根底にある理念。『ダンス・ウィズ・ウルブズ』や『小さな巨人』など、古くからアメリカ映画は定期的に自分たちが侵略した部族の理念に立ち返ってきました。ネイティブアメリカンを追い出して自分たちの王国を作った後悔や反省を思い返し、自然に立ち返ろうという。そういう意味で『アバター』の物語は王道を行っているし、古典的でありつつそれを最新技術で作っています。製作の裏側から見ても、CGに置き換えられていますが、表情など根底の部分は役者をトレースしています。“アバター”をしながら『アバター』を作るというところにも感心しました」

――続く『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』はいかがでしたか?

清水「水はどう動くか読めないので、CGの表現が難しいんですよ。1作目より大変なことに取り組んでいるな、というのは感じました。『アバター』は、日本の作品で言うと宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『もののけ姫』に近しいイメージがあります。しかも僕が好きな『未来少年コナン』の少年が巨大な飛行機の羽の上で走り回りながら戦うところを彷彿とさせるシーンもあったんです。キャメロン監督はそこまで網羅してるのかと驚きました」

キャメロン監督のこだわりを笑顔で話す清水監督 撮影/河内彩
キャメロン監督のこだわりを笑顔で話す清水監督 撮影/河内彩

――ほかにも日本のカルチャーから影響を受けたと感じるシーンはありましたか?

清水「人間が搭乗して動かすロボット的なメカですね。それこそアバターを使ってリモートで安全を確保しながら操縦すれば済むんじゃないの?と思うんですが、人間が乗ったメカで体の大きなナヴィと戦わせたかったんでしょう(笑)。キャメロン監督の趣味とか憧れもあるのかなと思います」

――『アバター』は3D映画としても高く評価されましたが、清水監督はどう感じましたか?

清水「普通の映画と同じように、3D映画も四角いスクリーンで見ますよね。でも四角いフレームから被写体が見切れてしまうと、特に手前にあるものは立体感がそがれてしまうんです。『アバター』では空や海、今回は火まで持ち込みながら、見せるべき被写体がフレーム内に収まるよう画角が計算されています。それをお客さんに意識させないよう作っているのも、3D映画を作ったことのある僕としては感心したところです。奥行き感も話題になりましたが、キャメロン監督は映画としてお芝居や世界観を観てほしかったんだと思います。例えば時間の短いアトラクション映像の3Dは、その一瞬で楽しませるために飛び出す3Dに特化していますが、この映画はそうではないということです。いまだこのシリーズを超えるほど3Dを活かした映画は出ていないと思いますね」

シガーニー・ウィーバーが演じる、“エイワ”と特別な絆を持つ少女、キリ Photo:『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
シガーニー・ウィーバーが演じる、“エイワ”と特別な絆を持つ少女、キリ Photo:『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――このシリーズの主要キャストの演技はパフォーマンスキャプチャを通して描かれています。この手法をどう見ましたか?

清水「それまで大半のモーションキャプチャは、アクションに長けた人が現実ではできないアクションを演じ、別の役者に吹き替えたりゲームのキャラクターにトレースする使い方でした。でも『アバター』はデジタルに置き換えられているのに、キャラクターの汗や体臭まで感じられたんです。役者はいらないと言われつつある時代に、青くて大きくて顔の構造が違っても、シガーニー・ウィーバーが演じたキリに『エイリアン2』と同じ表情が垣間見れたことに驚きました。お芝居がちゃんとトレースされているんですね。水中までモーションキャプチャを使っていますが、もっと簡単に済ますこともできるのに、でもそれじゃダメなんだという、キャメロン監督のこだわりが活かされているんでしょう」

「近未来の物語を描いていますが、考えるべきは“いま”」

――『THE JUON/呪怨』で、ハリウッドといういわばキャメロン監督と同じ土俵で勝負した清水監督にとって、映画監督ジェームズ・キャメロンはどう映りますか?

清水「キャメロン監督の出自はロジャー・コーマンのB級映画です。コーマンはセットを使いまわしてでも低予算映画を量産していた人ですが、キャメロン監督は同じ低予算でも世界に通用するものを目指し、アメリカンドリームを実現しました。作り手としてそのフロンティア精神や、実際に映画を大ヒットさせ実証していることに感服しますね。ほかの作品でもそうですが、キャメロン監督は最新技術を使いながら原点回帰をするんです。未来の脅威は人間自身が作っていたり、人間讃歌や自然回帰、なにより女性が強いというプロットは『ターミネーター』の時にできあがっています。男女が結ばれた直後に脅威がやって来るのも、『アバター』や『タイタニック』、それこそ脚本で参加した『ランボー/怒りの脱出』も全部一緒なんですね。普通なら『見たことある、またこれかよ』となりがちですが、なぜか普通に楽しんで、泣いて、笑って、興奮させてしまうんです。また『アバター』のジェイクは人間でありながらナヴィに味方する裏切り者ですが、そこに自分のアイデンティティを見出す彼の気持ちにお客さんを乗せていくドラマ作りにも長けています。脚本を書く立場としてすごいと思います」

キャメロン監督のフロンティア精神をたたえる清水監督 撮影/河内彩
キャメロン監督のフロンティア精神をたたえる清水監督 撮影/河内彩

――シリーズを通した「アバター」の魅力はなんでしょうか?

清水「物語はシンプルなのに、3Dなど最新技術を使って新しい世界を見せてくれるところが魅力だと思います。『スター・ウォーズ』もそうで、夢見る青年がお姫様を救って世界を目覚めさせる物語を、宇宙を舞台にしたことで皆が飛びついて楽しみましたよね。毎回やっていることはシンプルなのに、最新技術を使って想像したこともない世界を見せてくれるので、そこが魅力だと思います」

――滅亡しかけた地球からパンドラに移住するという設定についてはどう感じますか?

清水「ほかの星に行くのではなく、地球上で人間同士が同じようなことを起こすんじゃないかという気はしてします。キャメロン監督は『アバター』を通し、現代社会に警鐘を鳴らしていると思います。近未来の物語を描いていますが、考えるべきはいまなんだということも『ターミネーター』のころから発信し続けていますね」

クジラに似た巨大生物、トゥルクン。第2作では捕獲しようとする人間による壮絶なシーンが描かれた Photo:『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
クジラに似た巨大生物、トゥルクン。第2作では捕獲しようとする人間による壮絶なシーンが描かれた Photo:『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「キャメロン監督は、毎回皆が思うより先の世界に連れて行くエンタメの帝王」

――最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』に期待することはなんでしょうか?

清水「主人公のジェイクは、人間側からすると敵対する種族に加担した裏切り者ですが、今度はナヴィの側に人間に加担する裏切り者、ヴァランが出てくるようなのでそこが楽しみですね。シンプルに言えば裏切り者対裏切り者。どっちが正義なのか、どっちにも正義があるのか、複雑な現代社会に通じるものを感じます。信じるものに裏切られ挫折を味わった者同士が対峙するドラマに、キャメロン監督がどう決着をつけるのか、お芝居も含めて楽しみです。映像面ではこのシリーズは絶対3Dで観るべき映画だと思っているので、今回はコントロールの効かない炎、火という自然物が3Dでどう見えるのか楽しみです」

炎を操るナヴィで、復讐のために人間と手を組むヴァラン Photo:『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
炎を操るナヴィで、復讐のために人間と手を組むヴァラン Photo:『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――シリーズを通しジェイクと家族の成長の物語でもあります。最新作では誰がキーキャラクターになると予想しますか?

清水「家族を守る物語は誰でも感情移入しやすいし、共感できますよね。それが根っこにある限りは、敵は侵略してきたとか世界をなんとかしなきゃいけないとか、すべては家族を守る戦いに繋がっていく。そこは避けちゃいけないよ、という想いがあるんだと思います。『ファイヤー・アンド・アッシュ』のキャラクターをすべて把握しているわけではないですが、ジェイクとヴァランが対決する展開だと考えると、二極を中和させたり救いの道に導く存在がいると思います。世界を救う道標を担うのは、子どもや若者など新しく生まれた第3の存在であるべきです。そのポジションに誰が来るのかっていうのは気になりますが、キリやマスクをせずに生きられるスパイダーがキーになるかもしれませんね」

【写真を見る】自らカメラを抱え水の中へ!ファインダーを覗くキャメロン監督 Photo:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
【写真を見る】自らカメラを抱え水の中へ!ファインダーを覗くキャメロン監督 Photo:『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』[c] 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――最後に、清水監督にとってジェームズ・キャメロン監督はどんな存在なのかお聞かせください。

清水「男女平等の世とかコンプライアンスとか、そういう細かい部分も含めて時代と技術を先取りする人であり、エンタメの帝王みたいな人ですね。物語はシンプルなのに、毎回皆が思うより先の世界に連れて行ってくれる。新しいことをやりながら、変わらないテーマを持ち続ける、すごいしかっこいい人ですね」

取材・文/神武団四郎

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