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〈祖母は画家、孫は絵本デビュー〉“絵を描く一家”でも「画風は全然ちがう」SUMIREが明かす、祖母・浅野順子(75)との幼少期「一緒に洋服を作ることも…」

  • 2025.12.12

俳優、モデル、そしてアーティストと、多方面においてその才能を発揮し続けているSUMIRE。その彼女が、このたび、絵本作家としてデビューを果たした。40作以上の著書を持つ人気絵本作家・長田真作の文章を元に、SUMIREが絵を描いたその絵本の名は、『ほろほろもみじ』(303BOOKS)。もみじの落ち葉から生まれたこびとのリリアが、森に住む動物たちと出会い、心温まる物語を繰り広げる。

本書の刊行を記念する対談の相手として招かれたのは、彼女の父・浅野忠信の母で、父方の祖母に当たる浅野順子。この祖母もまた、モデル、画家として活躍するマルチな才能の持ち主である。CREA WEBで連載された音楽家・近田春夫との対談では、波瀾に富んだその半生が惜しげもなく開陳され、大きな話題を呼んだ。

孫と祖母として、アーティストとアーティストとして、互いのクリエティビティが響き合うこの二人ならではの対話をお届けする。(前後編の前編)

SUMIREさん(左)、浅野順子さん(右)

祖母・孫ともにアーティスト…44歳差の2人の原点

SUMIRE 『ほろほろもみじ』、読んでもらえた?

順子 さっそく読ませてもらいました。長田真作さんの文章に、SUMIREの絵がぴったりで、感激したわよ。この絵本を作ることになったそもそものきっかけって、何だったの?

SUMIRE おととしの秋、アパレルブランド「Ground Y」と私がコラボレーションを行って、私が描いた絵をフィーチャーしたTシャツを展開したことがあるのね。

順子 確か、Ground Yっていうのは、ヨウジヤマモトが手がけるブランドよね。

SUMIRE そう。その一環として、私は渋谷PARCOのGround Yの店舗でライブペインティングを行ったんだけど、たまたま買い物に来ていた長田真作さんが、その様子を観て、気になっていたらしくって。

順子 それは奇遇よね。

SUMIRE そして、ちょうど絵本を作ろうとしていた長田さんが、私に絵を描いてくれないかと声をかけてくれたっていう流れがあったの。

順子 この絵本を読むと、SUMIREが小さかった頃、よく一緒に絵を描いたことを思い出すわ。

SUMIRE そうだったね。おばあちゃんちにもしょっちゅう遊びに行ってたし。

『ほろほろもみじ』の原画をじっくり見る順子さん。

順子 SUMIREは、私にとって大事な大事な初孫だったのよ。本当にかわいくってね。目に入れても痛くないぐらいでさ。……いや、みんなそう言うから、2、3歳の頃、試しに目に入れてみたんだけど、やっぱり痛かったわ(笑)。

SUMIRE 実際やってみたんだ(笑)。

順子 SUMIREと一緒に海外に行くと、向こうの人が「天使みたいね」って話しかけてくれるぐらいかわいかったんだから。

SUMIRE 私が生まれた時、ばあちゃんって何歳だったんだっけ?

順子 44歳。

SUMIRE ずいぶん若いおばあちゃんだよね。

順子 だからさ、赤ん坊の頃のSUMIREを抱いてると、「あら、いつ産んだの?」なんて聞かれちゃったりしてさ(笑)。私自身は、母が39歳の時に生まれたんだけど、それを考えれば、SUMIREが娘に見えたとしてもおかしくない。

SUMIREさんと順子さん。

SUMIRE やっぱり、周りの友達のおばあちゃんたちと比べると、うちのばあちゃんは、そりゃイケてましたよ。何より若いし、自分と同世代みたいな感覚があった。

順子 まあ、精神年齢が子どもと一緒だったのよね(笑)。だから、ジェネレーションギャップを感じなかったんじゃないかな。

SUMIRE まず、洋服ひとつとっても、普通のおばあちゃんとは違ったじゃない? 本当にカッコいいなと思ったもの。

順子 孫のSUMIREはそう言って褒めてくれるけど、息子の忠信なんかは様子が違ったのよ。「いつもエプロンかけてるようなお母さんの方がよかった」ってこぼすんだもん。贅沢言ってるんじゃないわよ!(笑)

SUMIRE 確かに、ばあちゃんがエプロンかけてるところは見た記憶がないなあ。

順子 おへその出るGパンや真っ赤なスカジャンで息子たちの小学校の授業参観なんかに行ったら、「ママ、やめてよ!」って本気で怒ってたからね。

子育て中の順子さん。右下は幼少期の浅野忠信さん。

SUMIRE 当時、そういうお母さんはまずいなかったでしょ?

順子 うん。みんな、真面目なスーツ着て、ハンドバッグ提げてた(笑)。

SUMIRE じゃあ、ばあちゃんは目立ったよね。

孫・SUMIREには歴代彼氏のこともオープンに

順子 SUMIREが生まれた時点で、私はもう、元の亭主、すなわち忠信の父親とはすでに離婚してたのよね。

SUMIRE だから、私が物心ついた時には、ばあちゃんはじいちゃんとは別の彼氏と一緒に暮らしてたもんね。

順子 そうそう。SUMIREは、私が当時住んでた恵比寿のお洒落なマンションによく来たよね。その彼氏は、サーファーで日に焼けて、肌が茶色だったから、SUMIREは「チョコレートマンじいじ」っていうあだ名で呼んでた(笑)。

SUMIRE チョコレートマンじいじ、懐かしい(笑)。

40代の順子さん。(本人提供)

順子 その人と別れてからしばらく経って、60歳から付き合い始めた芸術家の男性にも、SUMIREは会ってるもんね。

SUMIRE うん。すごく素敵な人だった。

順子 でも、いろいろ考えた末、10年ほどでお別れしちゃった。SUMIRE同様、彼のことを気に入ってた息子二人には、「もったいないよ」って言われたけど。

SUMIRE その気持ちも分かる。

順子 おばあちゃんの歴代の彼氏について詳しく知ってる孫って、なかなか珍しいかもね。

SUMIRE あんまり聞いたことがない(笑)。

順子 (まじまじとSUMIREの顔をのぞき込んで)こうやってSUMIREの透き通るような瞳の色を見ると、改めてヨーロッパにルーツを持つうちの家系を感じるわよ。

順子さんのアトリエにいるSUMIREさん。

SUMIRE ばあちゃんのお父さんはアメリカ人で、その両親は、それぞれオランダとノルウェーからやってきた移民だったのよね。

順子 そう。NHKの「ファミリーヒストリー」でその事実を知るまでは、ネイティブアメリカンの血も入ってるとばかり思い込んでたんだけど、番組スタッフがちゃんと調べたら、そんなことなかったのよ。私の母、つまりSUMIREのひいおばあちゃんが、どうも何か勘違いしてたみたい。

SUMIRE 三つ編みにしたりすると、ばあちゃんはいかにもネイティブアメリカンっぽいけどね。

順子さんとSUMIREさんの共通点は?

順子 私とSUMIREには、似たところがいろいろあるのよね。

SUMIRE 例えば?

順子 まず、声が低い。

SUMIRE 確かに、そこは共通してる。

SUMIREさんがこの日履いていたブーツは、順子さんが譲ったトニーラマのもの。

順子 あと、性格も近いよね。つらいことがあっても、人前では泣かない。そういう場合は、トイレなんかに籠って泣くでしょ?

SUMIRE うん。

順子 私もそうなのよ。……とは言いつつ、まあ、時にはこらえ切れなくて、バーッと感情に出しちゃうこともあるんだけど(笑)。その点は、ちゃんと抑制できるSUMIREの方が大人だなって思うよね。

SUMIRE ばあちゃんは、いつも同じぐらいの目線で話してくれるから、相談がしやすいのよ。いつもありがとう。感謝してます。

順子 絵本のことももっと教えてよ。制作期間はどのぐらい?

SUMIRE 計画がスタートしてから本が出るまでは1年ぐらいかかったけど、実際に作業していた期間でいえば、3、4カ月。

順子 一番苦労したのって、どんなところ?

SUMIRE リリアっていうキャラクターは、主人公だから、すべての見開きに出てくるじゃない? 私は、絵の具のいろんな色を混ぜながら絵を描いていくタイプだから、リリアの洋服の色を同じに保つのが難しかったかな。

順子さんに『ほろほろもみじ』の原画を見せるSUMIREさん。

順子 この絵本を見ると、SUMIREは、余白の生かし方が上手いわよね。

SUMIRE 言われてみれば、そこは意識したかもしれない。何度か定期的にスタッフみんなで集まって、打ち合わせを重ねて、いろいろと下書きを試して、やっと刊行までたどり着きました。

順子 本当に、SUMIREの描く絵って優しいのよね。

SUMIRE 私の絵とばあちゃんの絵と比べると、どう?

順子 全然違うわよ、私には絶対描けない絵だもの。

SUMIRE それって、どういう意味?

順子 私は、勢いでグワーッと描き進めちゃうタイプだから、筆をとどめるところを知らないのよ。だから、どんどんどんどん塗りつぶしていっちゃって、昨日仕上げたはずの絵が、今日になるとまったく別の絵に変わったりしてる(笑)。

順子さんの絵。

SUMIRE 確かに(笑)。

順子 私、飽きっぽいのよね。まるで執着心ってものがないから、一定の完成形にこだわらない。一方、SUMIREは、最初からちゃんと仕上がりのイメージを見据えてるのよね。その資質は、私には皆無だからさ。

SUMIRE ばあちゃん、歩くのもしゃべるのも速いもんね。

順子 そこが難点なのよ。よく覚えてるけど、小学校の時は、靴を履くのも忘れて外へと歩き出したりしてたから。今はもう、さすがに靴履かないと歩けない(笑)。

順子さんが人形の服を手縫いして…幼少期のエピソード

SUMIRE 最近になって思い出したんだけど、子どもの頃、私が好きだった絵本といえば、『くじらの島』(なるみや ますみ・作 末崎茂樹・絵/ひくまの出版)、それから『おしいれのぼうけん』(ふるたたるひ、たばたせいいち作/童心社)。

順子 ああ、よく読んでたわねえ。

SUMIRE 絵本って、ずっと記憶に残るから、そこがいいところだと思う。

順子 SUMIREは小さい頃からずっと絵が好きだったけど、振り返ってみれば、忠信もそうだったのよ。

SUMIRE そうそう、大人になってからも、家で絵を描いてた。

『ほろほろもみじ』内の1ページ。優しいテイストがSUMIREさんらしい。

順子 忠信はさ、家庭訪問の時、先生が「授業中に絵を描いちゃダメでしょ」って注意してるのに、それを聞いて「はい」って返事しながら、でも手元で何か紙に落書きしてたぐらいだから(笑)。

SUMIRE 私の弟のHIMIも絵は好きだしね。

順子 うん。HIMI君もいい絵を描くよね。お母さんの顔をした牛の絵、うちの壁に貼ってあるわよ。忠信もSUMIREもHIMIも、それぞれ画風が全然違うのが面白いところだと思う。

SUMIRE 子どもの頃、ばあちゃんは、お人形の洋服を作ってくれたりしたよね。

順子 そうそう。スカートとかブーツとか一から手作りしてね。

SUMIRE リカちゃんやバービーに着せ替えして遊んだりして。ばあちゃんが手縫いしてくれたあの洋服、取っておけばよかったな。

順子 あら、お人形さんがもともと着てて、脱がしちゃった方の洋服なら、全部うちに取ってあるんだけど(笑)。

SUMIRE そうなんだ。逆ならよかったのに。

順子さんが取っておいていた、子どもの頃のSUMIREさんの帽子を被るSUMIREさん。

順子 しかし、私、こんなにでっかい手をしてるのに、細かい作業、得意なのよね。

SUMIRE 私は服飾系の大学に進んだわけだけど、ばあちゃんは学校の課題なんかも手伝ってくれたよね。

順子 洋服にいろいろ縫い付けたり、絵を描いたりしてあげたわよね。

SUMIRE 助かりました。とても感謝してます。

SUMIRE(すみれ)

1995年生まれ。俳優(佐藤菫名義)、モデル、アーティスト。2014年から「装苑』専属モデルを務めた。18年に映画「サラバ静寂」で俳優デビュー。アーティストとしては23年秋に初の絵画個展「たまごがゆめをみていた」を開催するなど、幅広く活動している。

浅野順子(あさの・じゅんこ)

1950年横浜市出身。ゴーゴーダンサー、モデルなどを経て結婚し、ミュージシャンのKUJUN、俳優の浅野忠信の2児を儲ける。ブティックやバーの経営に携わった後、独学で絵画を描き始め、2013年、63歳にして初の個展を開催。その後、画家として創作を続ける。ファッションアイコンとしても注目を浴び、現在は、さまざまなブランドのモデルとしても再び活動を繰り広げている。

文=下井草 秀
写真=佐藤 亘
ヘアメイク(SUMIRE)=Hanna

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