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「ぼくでも…人の役に立てると思うかい」気難しく挫折続きのゴッホがなぜ世界で愛される芸術家になったのか【監修者に聞く】

  • 2025.12.12

世界でもっとも愛される画家の一人、フィンセント・ファン・ゴッホ。だが、生前の彼の人生は成功とは程遠く、孤立、失職、失恋など挫折の連続だった。それでも彼の絵は、時代を越えて人々の心を揺さぶり続けている。

本記事では、『まんが人物伝 ゴッホ 希望の種をまいた不屈の画家』を手がかりに、挫折と苦悩に満ちたゴッホの生涯を辿りながら、彼が“世界で愛される芸術家”へと変わっていった理由を探る。監修者である大阪大学名誉教授・圀府寺司さんの視点を通して、ゴッホの魅力とその現代的な意義に迫っていく。

挫折続きだったゴッホの少年時代

ゴッホの少年時代は、挫折の連続だった。家族は愛情深く優しかったが、ゴッホ自身は小学校を中退、寄宿学校に入れられた後、中学校も中退している。画商勤務になってからロンドンやパリで働くも、失恋をきっかけに仕事への熱意を失い、じきに失職してしまう。信仰心を牧師である父親から教わり、家族からの愛にも恵まれたが、この挫折続きの少年時代はゴッホの今後の人生、作品に大きな影響を与えることとなる。

(C)KADOKAWA CORPORATION
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圀府寺司さんにゴッホの現代性をインタビュー

――もしゴッホが現代に生きていたら、彼はどのような芸術活動をしたとご想像されますか?

無事に生き延びていれば芸術家として優れた作品は生み出せたと思います。アーティストでなければ、ゴジラ映画のCGとかでしょうか。映画監督とか人を動かす仕事は難しいでしょうね。

――現代の美術市場におけるゴッホの評価と価格について、もし彼自身が知ったらどのような感情を抱くと思いますか?

絵に対する真摯な評価については喜ぶと思いますが、市場の価格については不快感を示したと思います。ゴーギャンが「ユダヤ人の銀行家」を画家共同体の仲間に入れる提案をしたときにも激しく拒絶していたことからもわかる通り、本音では金にしか興味がないのに絵の美しさに対する愛情みたいなことを口にする偽善者や、展覧会収益にしか興味はないのに大衆の啓蒙を語る文化産業者の欺瞞には嫌悪を示したと思います。

――同時代の画家と比べて、ゴッホの“最もユニークな点“はどこにあると考えていますか?

家族に恵まれたこと。画家本人には家族はありませんでしたが、生涯にわたって精神的、経済的に画家を支えた弟、早逝した兄弟を想う母親の遺志を五世代以上にもわたって守り続けるような家族に恵まれたことです。

(C)KADOKAWA CORPORATION
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――最新のゴッホ研究では、彼の人物像・創作観にどのような新しい見解が生まれていますか?また、もしそのうち本書に反映した部分があれば教えてください。

ファン・ゴッホ家のすごいところは、画家の手紙だけでなく両親と親族間、親族とほかの人々との間の膨大な手紙や資料も残し、代々に渡って先祖の画家ファン・ゴッホとその弟、母親らの遺志を守り続けていることです。これらの資料をもとに画家本人だけでなく、弟テオの役割、その遺志を継いだ未亡人ヨーとその息子にまで研究、出版、展覧会の幅を広げてきています。「狂気の天才」というのは後にでっちあげられた安直な画家イメージにすぎず、周囲の人々の愛情と戦いの末に画家ファン・ゴッホが生まれたというのが真実です。このようなゴッホの素顔を伝える内容の本を私は今準備しており、この漫画はいわばその最初のエスキース(習作)のようなものかもしれません。

――ゴッホ展をきっかけに、この秋から美術館での美術鑑賞を始められる方へのアドバイスをいただけますか。どんな視点/観点で美術を見るとよりいっそう楽しめるのでしょうか?

美術作品はたくさんの言葉や情報に絡め取られています。「天才」とか「傑作」とかさまざまなキャッチフレーズ、解説パネル、音声ガイドもそのような言葉や情報です。それらに先に関心が行ってしまうと、ただ情報に煽られるだけになります。「わからない」不安から逃げずに、まずは作品と自身の感性で接することから始めましょう。その癖を身につけると本当に楽しめるようになると思います。まずは先入観、色眼鏡をはずして向き合いましょう。「わかった気になる」のが芸術を鑑賞する楽しみから一番遠いと思います。

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取材協力:圀府寺司

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