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「リアルな知人には重すぎて話せない…」若年性認知症の父を持った私が、SNSですべてを吐き出したきっかけ【作者に聞く】

  • 2025.12.12
画像提供:吉田いらこ(@irakoir)
画像提供:吉田いらこ(@irakoir)

ある日突然、家族が「若年性認知症」と診断されたら、あなたは現実を受け止められるだろうか。 SNSやブログで公開された漫画『若年性認知症の父親と私』が、その赤裸々な描写で注目を集めている。作者は、自身が高校生の頃に父親の発症を経験した吉田いらこ(@irakoir)さん。 発症から父が亡くなるまでの23年間、娘として何を思い、どう過ごしたのか。当時の苦悩や葛藤について、吉田いらこさんにその胸中を語ってもらった。

画像提供:吉田いらこ(@irakoir)
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「重すぎて誰にも言えない」封印した感情を漫画に

本作は、吉田いらこさんの視点から見た父との日々を描いた実録漫画だ。 長年、父の病気については周囲にひた隠しにしてきたという吉田いらこさん。「誰かに聞いてほしい」という切実な願いは常にあったものの、リアルの知人に話すにはあまりに内容が重すぎると感じていたからだ。

そこで選んだのが、不特定多数の人が自由な意思で閲覧できるSNSという場所だった。文章を書くのは苦手だったため、自身の感情を乗せやすい漫画という表現方法を選択。「読むか読まないかは相手の自由」というSNS特有の距離感が、長年封印してきた思いを吐き出すきっかけとなった。

「何もできなかった自分」を美化せずに描く覚悟

作品を描く上で吉田いらこさんが貫いたのは、「自分が感じた正直な気持ちを描く」という姿勢だ。 介護漫画といえば献身的に尽くす家族の姿を想像しがちだが、本作は違う。吉田いらこさんは、介護に奮闘したわけでも、家族のために何かを成し遂げたわけでもなく、ただ何もできずに過ごしてしまった自分自身をありのままに描いている。

「読んだ人が不快な思いをするかもしれない」。そうした批判も覚悟の上で、きれいごとで飾ることなく、当時のありのままの感情をさらけ出すことに集中したという。そこには、過去の自分への懺悔と、やり場のない思いを昇華させたいという強い意志が感じられる。

「いつか元に戻る」高校生だった娘の現実逃避

父が若年性認知症と診断された当時、高校生だった吉田いらこさんは、その事実を全く受け入れられなかったそうだ。目の前の光景がまるでドキュメンタリー番組のように現実味を帯びず、どこか他人事のような感覚に陥っていたという。

「時間が経てば、また元の父に戻れるはず」。そんな根拠のない希望にすがり、「完全に現実から逃げていた」と当時を振り返る。親が変わっていく恐怖から目を背けたくなる心理は、誰もが抱く防衛本能なのかもしれない。

インタビューの最後、吉田いらこさんは「介護をしてこなかった立場で言うのはおこがましいですが」と前置きしつつ、同じような境遇にある人々へメッセージをくれた。 「大好きな家族を嫌いになってしまわないためにも、第三者の助けを求め、適切な距離を保つことが大切だと思います」

家族だからこそ、すべてを背負い込む必要はない。吉田いらこさんの言葉と作品は、介護に直面して苦しむ人々の心に、ひとつの選択肢を提示してくれるはずだ。

取材協力:吉田いらこ(@irakoir)

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